
ニュース等によれば、夜間空中給油訓練中に、給油機からの給油ホースが切れて、オスプレイのプロペラ(プロップ・ロータ)を破損したのが原因だという。
ただし、何らかの理由で切れたホースが当たったのか、プロペラに当たったことでホースが切れたのか、そのあたりははっきりしない。
いずれにしても、ホースが当たったことでプロペラが破損したことは確かなようだ。
さて、プロペラを破損したオスプレイはどうなるか。
通常の双発飛行機なら、破損したプロペラ側のエンジンを止めて、片発飛行で帰還すれば良い。
しかし、オスプレイの場合はそうは行かない。
オスプレイは、片方のプロペラを止めて飛行することができないのだ。
このあたりは以前のエントリ「オスプレイの安全性を考える – ハザード検討の一例」に詳しく書いた。
すなわち、今回の事故は、通常の双発飛行機であれば不時着大破や墜落などという事態には至らない事象であり、プロペラ不具合に対するオスプレイの脆弱性が顕在化したものといえる。
では、ヘリコプターと比較してではどうか。
ヘリコプターの場合も、ローターの機能に障害が出れば、墜落もしくは不時着を強いられることになるだろう。
空中給油の際に、ローターがホースに触れてしまえば、オスプレイと同じことではないのか。
これについては、件の軍事ブロガー(笑)JSFさんが、興味深い動画を教えてくれた。
(もちろん既知の動画だが、わざわざtweetで教えてくれたJSFさんに敬意を表して引用させていただく)
@booskanoriri @playmate62 CH-53の事故例。 https://t.co/haD2QbPD5x これもかなり珍しい事例でしょうけどね。今回の夜間空中給油訓練はオスプレイの機体欠陥とは公式にも見做されないので、いくら欠陥だと騒いでも無駄です。
— JSF (@obiekt_JP) 2016年12月14日
この動画では、CH-53ヘリコプターが空中給油中にピッチングを起こし、ホースではなく自機の受油プローブをへし折っている。
JSFさんは、これを示して「CH-53も危険だ」と言いたいのかもしれないが、そうだろうか。
だって、このCH-53、ホースよりも強度の高いであろう金属製のプローブをへし折っているが、その後も平然と飛行しているではないか。(笑)
そう、ヘリコプターのローターが空中給油中にホースに接触しても、ただちにローターが破壊されるようなことは、まずない。
ヘリコプターもバカではないから、ローターにそれなりの強度を持たせているし、ホースだって無用に強いわけではない。
では、オスプレイのプロペラは、なぜ壊れてしまったのか。
オスプレイのプロペラは、ヘリコプターのローターよりも弱いのか。
弱いのである。わざわざ弱く設計してあるのだ。
オスプレイは通常ヘリコプター・モードで離着陸するが、なんらかの理由で、飛行機モードで不時着陸しなければならない場合もある。
(今回の事故でも、飛行機モードで不時着している。)
滑走路等に飛行機モードで不時着する場合、プロペラが大きいため、そのままでは地面に接触してしまう。
その際、プロペラの強度が強すぎると安全に不時着できないため、地面に接触したプロペラは、竹箒のようなささら状に壊れるようにしてあるのだ。
つまり、オスプレイのプロペラはヘリコプターのローターほど強くはない。それが設計の仕様なのだ。
以上のことをまとめると、次のように言えるだろう。
空中給油時のホースとプロペラ(ローター)の接触インシデントに対して、オスプレイは
- 双発飛行機のようなロバスト性(強健さ)はない
- ヘリコプターほどのロバスト性もない
ということだ。
つまり、オスプレイはこの種のインシデントに対して、従来の航空機よりもずっと脆弱なのである。
おまけに、オスプレイはプロペラの描く円盤面積が大きく、この種のインシデントを起こしやすい。
これはオスプレイの設計上の仕様であり、免れ得ない特徴だ。
今回の事故を受けて、米軍は”「オスプレイの機械的なシステムの問題ではない」として、機体の問題でないことを強調した”(朝日新聞より)という。
これを受けて、件の軍事ブロガー(笑)JFSさんも「今回の夜間空中給油訓練はオスプレイの機体欠陥とは公式にも見做されないので、いくら欠陥だと騒いでも無駄です。」と上記に引用したtweetで仰っている。
僕はJSFさんのいう「欠陥」というのが何をイメージしているかわからないし、何が無駄なのかもわからないが、とにかくJSFさんはオスプレイが無謬の乗り物だと言いたいらしい。笑止である。
上記に示したように、空中給油という運用(オペレーション)に関わるハザード・リスクに対して、オスプレイは従来の航空機よりも脆弱である、ということは事実であり、その事実がはしなくも今回の事故で示されたといえる。
とはいえ、僕は以上の事実を持って「オスプレイは危険だー!」と叫ぶつもりはないのである。
これも以前からの繰り返しになるが、こうしたリスクを十分に認知したうえで、安全な運用を行っていくことが必要なのだ。
ただし、このような脆弱性を抱えている以上、空中給油という高リスクの運用について、運用者は従来以上に慎重な対応が求められる。
そして、重度の難治オスプレイ信仰者であるJSFさんには、ご病状の安定をお祈りする次第である。
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