メディアの信頼性を確保するために出来ることは(アメリカで起きていること)
最近のキュレーションサイトを巡る日本での報道を見ながら、同時に深刻な問題であると感じるのは米国で起きているフェイクニュース問題です(例えば「大統領選挙戦の最中にローマ法王がトランプ候補を支持した」という偽りの報道、「陰謀論を信じてワシントンDCのピザ店に銃を持ち乗り込んだピザゲート発砲事件」など)。多くの人がニュースを消費するプラットフォームサービスを提供するFacebookやTwitter、そして検索を通じて情報を整理するGoogleなどの企業への責任論の声を挙げています。大統領選直後からの1ヶ月以上は特に議論が広がり、危機的な状況であるといえます。(以下は平和博氏によるピザゲート発砲事件に関する詳細なレポート)
米国においては日本では想像できないような事件が起きる一方で、こうした問題を解決するために市民、起業家、財団、アカデミック、専門家が、改善のために出来ることを具体的に行動に移していく機運が見られ、とても刺激になります。そのような動きをいくつかご紹介したいと思います。
【1】クラシファイド・サイトの老舗「クレイグリスト」創業者による財団がジャーナリズムの信頼・倫理のためのプログラムのために100万ドル(約1.1億円)を寄付
Some exciting news on the homefront: The Craig Newmark Foundation, the charitable organization established by…www.poynter.org
クレイグリスト(craigslist.org)といえば、90年代以降家探しや売り買いのクラシファイドサービスで一世を風靡して、かつての新聞社の一大収益源であったクラシファイド広告事業の凋落をもたらした人物と見られるかもしれませんが、クレイグ・ニューマーク氏は市民活動やチャリティ活動に以前から強い想い入れを持っている人物です。そんな背景もあり、今回申し出のあった100万ドルは、米フロリダにあるジャーナリズム研究機関、ポインター・インスティチュートにおける「verification, fact-checking and accountability in journalism(事実認証、ファクトチェック、ジャーナリズムの責任)」についてのプログラムを今後5年に渡って運営する研究・育成費、スタッフ拡充費用として、またジャーナリズムにおける倫理に関するフェローシップ・資格認定プログラム開発、関連カンファレンスの開催などに充てられるとのことです。(12/12/2016 Poynter.org より)
“I want to stand up for trustworthy journalism, and I want to stand against deceptive and fake news. And I want to help news organizations stand and work together to protect themselves and the public against deception by the fake media. Poynter’s the right place to do this work because the Institute has long been very serious about trustworthy news and committed to both training journalists and holding media organizations accountable.”
ニューマーク氏のステートメントによると、「現在ジャーナリズムが置かれている危機的な状況を救い、フェイク(偽)メディアによる欺瞞からジャーナリズム、公共を守るために共に取り組んでいきたい」という強いメッセージが寄せられています。
【2】Facebook, Google, Twitterのような圧倒的な力を持っているプラットフォームサービス企業はメディア・リテラシーの擁護者となり、メディア・リテラシー向上プログラムなどの取り組みを率先して行うべきである
次にご紹介したいのは、シリコンバレーの地元紙、サンノゼ・マーキュリー・ニュースの元コラムニストで、アリゾナ州立大ジャーナリズムスクール教授、ダン・ギルモア氏によるブログ記事です。
Sorry, but I don’t want Facebook to be the arbiter of what’s true. Nor do I want Google — or Twitter or any other hyper…medium.com
以前からメディア・リテラシー、ニュースに接する際のクリティカル・シンキングの重要性を訴え続けているギルモア氏はこう訴えかけます。
Facebook, Google, Twitterのような圧倒的な力を持っているプラットフォームサービス企業は、情報の真偽を決定するようなルールを作ったり、エディターを雇うのではなく、読者一人ひとりが適切なニュース消費スキルを身につけることが出来るよう、トレーニング・啓蒙活動に取り組むべきである、と。
ギルモア氏はメディア・リテラシーについての書籍『あなたがメディア ソーシャル新時代の情報術(Mediactive)』(翻訳:平和博氏)の著者でもあり同書籍はPDF版が無料公開されています。
ギルモアさんは、ソーシャルメディアの登場によって、ジャーナリズムはトップダウンの「講義」型から、読者との「会話」型へと変化していったと指摘しています。www.huffingtonpost.jp
また、ギルモア氏は2015年の夏に7週間に渡る無料オンラインコース『メディア・リテラシー:情報過多を克服する〜溢れる情報をコントロールしてメディアをより役立つものにするには』でも教鞭をとっていました。私も昨年受講したプログラムですが、とても実践的な内容でした(現代ビジネスでのレポート記事。以下は紹介動画)。
もちろん、こうしたリテラシー向上の取り組みが、現在猛威を振るっているメディアの情報洪水、正確でないニュースの氾濫を全て解決出来るわけではない、ということは認めています。ただ、最後のメッセージはこう締められています。
『(ただ、メディア・リテラシー向上の取組は)いくらかでも役に立つ。それは諦め、そしてもう取り返しのつかないような泥沼の事態に陥ることよりはよっぽどいい。今起きていることは緊急事態なのです。真実と文脈は協力な仲間を求めています。そしてそれらはまさに今、必要なのです』
(But it will help. That’s a lot better than giving up and sinking further into a swamp that at some point becomes impossible to escape.
This is an emergency. Truth and context need powerful allies, and need them right now.)
いかがでしょうか?昨日の投稿の中でも触れた『フィルターバブル』著者であるイーライ・パリサー氏が呼びかけている群衆による知恵の収集プロジェクト「Design Solutions for Fake News」は、引き続き編集作業が続けられていて、閲覧する度に更新がされています。
以上のことを日本の文脈に置き換えるならば、DeNAなど、今回の問題を引き起こしている企業の社会的責任として、率先して今後リテラシープログラムへの取り組みを行うことは、ぜひ期待したいと思います。或いは、篤志家によるジャーナリズム育成機関への寄付が行われることも、同時に期待はしたいと思います。ただ…状況は国によって異なる訳で、すぐに同じようなことが起きるかは分かりません。
あくまで個人で出来ること、そしてもしこうした活動に興味を持ってくれる人がいれば、小さな規模からでもメディア・リテラシーの研究会、或いはミートアップのような形での実験を進めていけたら、と考えています。併せてブログも定期的に書くことで、自分ならではの役割を果たしていきたいと思います。少しずつですが定期的にMedium上で発信していく予定です。よろしければお付き合いください。
追記:今回は詳細触れること出来ませんでしたが、以下はGoogle News Labによる取り組みです。2017年の注力テーマは以下の4つのとのことです。