真偽よりも感情だ!キュレーションメディアは無くならない

炎上にとどまらず、社会問題にまで発展しているキュレーションメディア騒動。そもそもキュレーションメディアとはなんなのか、旧来のメディアとの違いから炎上に至った原因を考えます。また、デマが蔓延するキュレーションメディアを支えた「ポスト・トゥルース」と、そもそも公正性さえ議論されないレコード大賞の問題とは? 年に一度のお楽しみ、「すべてのニュースは賞味期限切れである」大忘年会のお知らせもあるので、ぜひ最後までお読みください。

大炎上の「キュレーションメディア」とはなんなのか?

速水健朗(以下、速水) 医療・ヘルス分野のキュレーションメディア「WELQ」が大炎上。記事も非公開になった。

おぐらりゅうじ(以下、おぐら) 運営するDeNAは、まず12月1日に「WELQ」を含む9つのメディア(WELQ、iemo、Find Travel、cuta、UpIn、CAFY、JOOY、GOIN、PUUL)すべてを非公開にすることを発表、続く12月5日には傘下の株式会社ペロリが運営する女性向けファンションメディア「MERY」までもが非公開になりました。

速水 結果、DeNAだけじゃなく、まとめサイト系にまで延焼してキュレーションメディア全体が糾弾されている感じの様相になってる。実はこっそり記事を消してるキュレーションメディアもかなりあるよ。

おぐら キュレーションメディアってほとんど利用はしないんですが、MERYだけは噂に聞いてました。読者が2000万人いて、PVが月間4億ちかくあるとか、部長クラスが20代前半とか、女子大生が記事を書いてるとか。

速水 そういう概要だけを聞くと、なんとなく新しい時代の大きな波って感じはするんだよね。

おぐら さすがに芸能界や出版業界といった世界とは断絶しているのかと思いきや、今年の3月には紙の雑誌「MERY」を創刊して、現在までに4号出ています。しかも表紙は創刊号が有村架純、2号は高畑充希、3号は小松菜奈、12月1日に出た最新の4号は本田翼と、誌面に登場するタレントも含め、芸能界ど真ん中のキャスティングですよ。


MERY vol.01

速水 正直ざまみろってところだよね。キュレーションメディアっていつの間にか定着した感があるけど、「キュレーションメディア」の単語でその意味を調べようとしたけど、どれもよくわからない。

おぐら 実質パクリサイトの代名詞みたいに思われてた節もありますし。ただ今度の問題が大きく取り上げられたとはいえ、それでキュレーションメディアが淘汰されるかって言ったら、そんなことまずないでしょう。

速水 いわゆる「中の人」たち何人かに話を聞いてみても、メディアをつくっているという自覚は総じて薄いんだよね。アルゴリズムをつくっているという意識でしょ。あと読者への意識もなくて、「PV」とか「トラフィック」とかしか言わないし。

おぐら 編集者でもライターでもなく、新しい職業ですよ。バイラルメディアを運営する人たちの取材記事を読むと、パクりパクられは当たり前、オリジナルのコンテンツはコストに見合わないから作らない、テレビ局とか出版社のコンテンツは欲しい、みたいなことを言っていて、旧来のメディア企業とは完全に次元が違う*。
* 「テレビやゲームの時間をリプレイスしていきたい」 BuzzNewsやCuRAZYなど注目の「バイラルメディア運営者」が明かしたサバイバル戦略

速水 実際、DeNAにしても、自分たちがメディア企業であるという意識は希薄で、目に入っているのは、Googleの検索上位という結果だけ。そこに目的がある以上、大手のDeNAだけ取り除いても次が出てくるだけなので、著作権意識が低くて内容の信頼度が低いニュースメディアは減らないだろうね。

おぐら YouTubeによくあるテロップとBGMが流れてくるだけのやつとか、芸能人のWikipedia情報とゴシップ記事を並べて「どうやら噂みたいです」とかの何も言ってない適当なコメントつけてるだけのまとめサイトとか、イライラを通り越して虚しい気持ちになるんですよね。

速水 人気のある芸能人の名前もそうだけど、もともとアクセスを集めるテーマとタイトルが、いまやビッグデータによって示されてるんだよ。

おぐら WELQの記事にしても、クラウド上で雇われたライターたちが、アクセスを集めやすそうなタイトルなりテーマなりを提示されて、根拠もないまま指導通りに記事を書いたと。

速水 この問題の一番の本質はそこだと思う。それを取材したのは、BuzzFeed。「データ分析により検索エンジンで上位を狙える記事のテーマ・構成を決める」という部分*。
* DeNAの「WELQ」はどうやって問題記事を大量生産したか 現役社員、ライターが組織的関与を証言

おぐら つまり、記事を書いた外部ライターが個人の判断でバズを狙ったのではなく、検索結果で上位にくる記事の作成がマニュアル化されていた。

速水 そこも大事だけど、アクセスが見込める記事のテーマやタイトルは、もはやビッグデータでわかっているんだって部分でしょ。

おぐら 正直、この対談もウェブで連載しているので、担当編集がアクセス数を重視して付けたタイトルをめぐって「煽りすぎだ!」「でもこっちのほうが数字が伸びるんです!」「そもそも対談の中でそんなこと言ってない!」「大枠では言ってます!」「表現が強すぎだ!」「タイトルはこのくらい強めに言い切らないとダメなんです!」って、しょっちゅう揉めてますから。

速水 村上春樹は1980年代にライターの仕事を「文化的雪かき」って呼んだけど、もはやキュレーションメディアで仕事をするネットライターの役割って、それ以下になってるよね。

おぐら この連載の対談テーマも、いっそビッグデータに決めてもらいましょうか。

速水 というかこれ、次の段階になると、AIで記事の生成が始まるよね。現状はクラウドソーシングの激安ライターに金を払った方が安上がりという現状があるとはいえ。

「ポスト・トゥルース」で「神ってる」が納得できない

速水 最近耳にする「ポスト・トゥルース(post-truth)」って概念があるでしょ。

おぐら オックスフォード英語辞典が選ぶ「今年の単語(ワード・オブ・ザ・イヤー)」にも選ばれましたよね*。言葉の意味は「世論形成において、客観的事実が、感情や個人的信念に訴えるものより影響力を持たない状況」と説明しています。
* 今年の単語に「ポスト・トゥルース」 英辞典が選定

速水 要は事実の報道が軽視されて、感情的、扇情的なニュースを人が受け止めて、SNSを使って発信するような状況のこと。

おぐら これまでは「知りもしないのに勝手に決めつけて感情でものを言うな」とされてましたけど、いまや「なんかムカつく」とか「生理的に無理」とか、そういう一方的な感情論が無視できない世の中になってますよね。

速水 真実よりも感情のほうが、世論形成の上で、無視できないものになってきている。

おぐら つい最近も、真実が発表される前に、「このまま間違った情報が拡がり続ける事に言葉では言い表せないような不安と恐怖と絶望感に押しつぶされそうです」というコメントを残して、第一線にいた俳優が芸能界を引退しました。

速水 その話は次やるとして、まさにアメリカでもトランプやヒラリーに関する記事が、嘘のままSNSを通して拡散していった状況とか、それを信じる人たちが多かった状況を踏まえた概念、それが「ポスト・トゥルース」。

おぐら 流行りの日本語で言うと「神ってる」?

速水 絶対違う。それは日本の2016年流行語大賞。

おぐら そんな意味もわからない言葉が流行語大賞なんて納得いかない! 同じような意見の人もたくさんいるぞ! 世論だぞ! 無視するなんて時代遅れだ! 個人の感情こそ2016年の流行だ!

速水 でも信じる人は信じるって、神さまみたいなものか。キュレーションメディアも含めてだけど、ある種の「ウソ」が流行になっているのは間違いないよね。まあ、震災以降、ウソばかり言って祭り上げられている人たちも結構いるけど。

おぐら そもそも、多くのアクセスがあるからキュレーションメディアは生まれるわけで、信じる人がいるからウソでも影響力を持つわけですよね。これ自体がトランプ現象やBrexit(イギリスのEU離脱)に似てないですか。支持しているのは、多数派の人たちだっていう。

速水 Brexitのときもイギリスの良識的なメディアは、残留すべきだっていう意見を主張したし、アメリカのメディアもほとんどはトランプを敵視した報道をしていた。でも、実際にはそれは逆効果で、彼らへの反発から英はEU離脱を選んだし、アメリカはトランプを選んだ。これって「良識ぶってるマスメディアは信用できない」という皆が待ち望んだ状態を実現したってこと。

一億円買収の公正性は議論されないミュージックアンフェア

おぐら 結局、人は信じたいことだけを信じるし、自分の見たいように見るんですよね。

速水 レコード大賞が1億円で買えるとかね。

おぐら それは週刊文春が報じたスクープです。「年末のプロモーション業務委託費として」と書かれた請求書の写真も出てました*。
* 三代目JSB 1億円でレコード大賞買収の「決定的証拠」

速水 おもしろいのはさ、賞が売買されていたっていう公正とか真偽についての議論はまったく上がってこないところだよね。世紀のビッグニュースかと思いきや「ふーん、それで?」って流されてしまった感がある。

おぐら ほんと世の中「Unfair World」ですよ。

速水 去年の受賞曲ね。聴いたことないけど。すでにレコ大は、誰もフェアだなんて思ってなかった。

おぐら いっそ、シオノギ製薬の一社提供にすればいいのに。

速水 それは『ミュージックフェア』ね。見てないけど。

おぐら 1億円っていう金額も、冷静に考えると微妙っていうか。

速水 トランプの1日の警護費用よりも安いらしい。でも結局、「レコ大に1億円」って高いのかな、安いのかな?

おぐら がんがんにテレビCMを放送しまくる大きなキャンペーンなんかと比較すると、そんなに高くない気もしますよね。それ以前に、今のレコード大賞に1億円を払ってまで受賞する意味はあるのか?という疑問が。

速水 レコ大の価値って、1980年代ならともかく現在ではほぼないでしょ。まったく話題になんかならないし、CDの売上げにだってつながらない。やっぱり高すぎるよね。もしかしてこれ「永年レコード大賞受賞費」なんじゃないかって。

おぐら これまでにEXILEが計4回、三代目 J Soul Brothersが2年連続、そしてこの先ずっとLDH所属のグループが大賞を受賞すると考えたら、1億円は妥当な気がします。

速水 あと逆に、レコ大が文春にお金払って、「レコ大買収が1億円」って報道してもらった説ね。

おぐら なんの目的で?

速水 落ち目になったレコ大が、1億円の価値があるっていうブランディング(笑)。

おぐら まさかのステマ! メイク・レコ大・グレート・アゲイン!

速水 ポスト・トゥルース時代だから、このくらいあり得るでしょ。

おぐら そういえば、ピコ太郎が日本外国特派員協会の会見で、ウォール・ストリート・ジャーナルの記者から「1億円払ってレコード大賞獲りたいですか?」と聞かれてました。

速水 「今のバイトの時給では、1億円稼ぐには2万年かかるから、検討もつかない」ってかわしてたね。彼はこういうのに対応する能力が高いよ。

おぐら ちなみに「WELQ」のライターのギャラは、1文字1円とも言われていますので、4000文字の原稿を25000本書けば1億円です。

速水 1日1本で、68年と半年か。2万年よりはましだな。

おぐら ピコ太郎の場合、ネット発ジャスティン・ビーバー経由で、世界的に大ヒットしたので、LDHの人は「今はそういうやり方かー!」って思ったでしょうね。

速水 いまさら確認するまでもないけど、レコ大的な大きな仕組みが信用されない、良識があろうと大きなメディアは信用されない時代だっていう事実がどーんと目の前に突きつけられたよね。

おぐら 「ベストジーニスト」しかり、フェアとは思いにくい賞レースなんて、この時代に注目を失うのは当たり前で。レコ大もEXILEの3年連続受賞のあとはAKBの2年連続、その前は浜崎あゆみが初の3年連続を記録という。

速水 俺の好きな中森明菜の悪口はそこまでだ!

おぐら 言ってません!


全てのニュースは賞味期限切れである大忘年会、開催決定!!

今年も「ワダアキ考」の武田砂鉄さんをゲストに迎えて、一年を振り返る公開放談を行います。ベッキー、トランプ、ポケモンGO、君の名は。etcあらゆるニュースをメッタ斬り!

日程:2016年12月30日
時間:12時開場 13時開演
開場:阿佐ヶ谷ロフトA
出演:速水健朗、おぐらりゅうじ、武田砂鉄
料金:前売1800円、当日2100円
http://www.loft-prj.co.jp/schedule/lofta/54726

この連載について

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すべてのニュースは賞味期限切れである

おぐらりゅうじ /速水健朗

政治、経済、文化、食など、さまざまジャンルを独特な視線で切り取る速水健朗さんと、『TVブロス』編集部員としてとがった企画を打ち出し、テレビの放送作家としても活躍するおぐらりゅうじさん。この気鋭のふたりのライターが、世の中のニュースを好...もっと読む

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コメント

roboccon 感情って理屈に対抗できる手段だって皆んな分かってるんだよね 約1時間前 replyretweetfavorite

mugikura そういえば昔、『キュレーションの時代』という本がありましたなあ……。 約1時間前 replyretweetfavorite

aco220 この連載の忘年会あるみたいだけど、行きたすぎるでしょ… 約2時間前 replyretweetfavorite

OMXvBzwpjtwcD1R 1件のコメント https://t.co/klBHoIwFkU 約2時間前 replyretweetfavorite