1. 流行語大賞にノミネートされ、トップ10入りをした「保育園落ちた日本死ね」。「反日的だ」などとバッシングの矛先が向いた歌人がいる。
「サラダ記念日」などで知られる俵万智さんだ。俵さんは流行語大賞の選考委員を務めており、Twitterなどに批判の声が集まった。
2. 産経新聞がこの騒動を「『日本死ね』トップテン入りで、審査委員の俵万智さんに「残念で仕方ない』と批判・炎上 」と報じるなど、波紋は広がった。
3. 俵さんは12月10日、「ちょっと見ないうちに、何か書かないと次に進めない雰囲気になっていました。だから一回だけ、その件について、私の思いを書きますね。お騒がせ&ご心配おかけしました」とつぶやき、下記のように思いを綴った。
4. ただ、このつぶやきに対しても、「反日的な活動」「言い訳」などとのリプライが殺到し、炎上は再び拡大している。小説家の百田尚樹さんはこんな風につぶやいた。
俵万智氏は35文字以内なら、素晴らしい文をお書きになるのだろう。しかし少し長い文を書くと、中学生の作文並になる。「日本しね」は世の中を少しも動かしていないし、深刻さを投げかけるのがいいなら、「土人」の方がインパクトがあったのでは? https://t.co/4b1cVcSizP
— 百田尚樹 (@hyakutanaoki)
百田氏は「俵氏は『日本しね』を積極的に推したのかもしれませんね」などとも指摘している。
5. 確かに「日本死ね」は批判的だし、「死ね」という言葉は軽々しく使うべきではない。
だが、切実さを持って使われた言葉であり、だからこそ、待機児童や育児で苦労する人たちに共感を持って受け止められた。
百田さんは「世の中を少しも動かしていない」というが、元のブログはTwitterやFacebookで6万以上シェアされ、ネットメディアに始まり、新聞やテレビも次々と取り上げた。
待機児童の解決への取り組みを加速させる後押しになったのは、間違いない。
6. 厚生労働省が発表した2016年4月1日時点での待機児童数は、全国で2万3553人。8年連続で2万人を超えており、国の待機児童対策が追いついていない状況は歴然としている。
また、預け入れ先が見つからず親が育児休業を延長したなど、の理由から待機児童としてカウントされていない「隠れ待機児童」は6万7354人もいた。15年より8293人の増加だ。
総務省は12月9日、待機児童の数え方や保育需要の把握方法など、対策に不十分な点があるとして、内閣府と厚生労働省に改善を勧告した。
俵さんのいう「こんな言葉を遣わなくていい社会」の実現に向けた、地道な取り組みは進んでいる。
7. 「日本を愛しています」と書いた俵さんは、ネットで批判されるように「反日」なのだろうか。
同じように「反国家的」だと指摘され、「私たちは愛国者だ」と反論した人がいる。
英メディア「ガーディアン」のアラン・ラスブリッジャー編集長だ。
8. 2013年、アメリカやイギリスの国家機密に迫る報道を続けていたガーディアンは、英国会で批判に晒された。そして、ラスブリッジャー編集長はこう質問を受けた。「あなたは国を愛しているのか?」
9. ラスブリッジャー編集長はこう答えた。
「そういう質問を受けることにちょっと驚いています」と前置きをしてから、編集長が語ったのは次のようなことだった。
「私たちは愛国者です。そして、私たちが愛国的であるためには、この国に民主主義の本質と言論の自由の本質が必要なのです。それを議論し、報じることができることも」
さらに、こうも繰り返した。
「私がこの国を愛するのは、書くこと、報じること、考えることに対して自由であるからなのです」