【カイロ秋山信一】内戦が続くシリアで、過激派組織「イスラム国」(IS)が11日、アサド政権が実効支配する中部の遺跡都市パルミラを約9か月ぶりに制圧した。ロイター通信が報じた。政権側は今年3月にISからパルミラを奪還したが、ISはパルミラ近辺の油田やガス田を断続的に攻撃するなど周辺で活動を続けていた。政権は北部アレッポでの反体制派支配地域の制圧を優先させており、パルミラ周辺の防備が手薄になったとの見方もある。
ロイターによると、ISは12月に入って、パルミラ周辺で攻勢を開始。政権側はロシア軍による空爆の支援も受けて、一時は攻勢をしのいだが、11日にISがパルミラ中心部を制圧した。シリア軍兵士100人以上が殺害されたとの情報もある。ISの影響下にあるニュースサイト「アーマク通信」も「(ISが)パルミラを制圧した」と伝えた。
ISは昨年後半以降、イラクとシリアで拠点都市を次々と失い、実効支配圏の最大都市であるイラク北部モスルでもイラク軍などの攻勢を受けている。こうした中、パルミラ制圧はISにとっては久々の戦果で、組織の「健在ぶり」を宣伝する材料にする可能性もある。
パルミラには古代ローマ時代の遺跡があり、ユネスコ(世界教育科学文化機関)の世界文化遺産に登録されている。ISは2015年5月にパルミラを制圧し、「(ISが否定する)多神教や偶像崇拝を象徴する存在」としてベル神殿や凱旋(がいせん)門などを破壊した。政権側が今年3月に奪還し、遺跡の修復に向けた期待も高まっていたが、ISが再制圧したことで遺跡群がさらに破壊される恐れもある。