国際交流基金モスクワ文化センターで、漫画に関する
連続講義(ロシア人向け)をやっている、と聞いたので行ってみました。講師は漫画・日本文化を研究しているユリア・マゲラ氏。日露の漫画の比較に関する本を書いたりされている方だそうです。
この連続講義は六回シリーズで、昨日行ったのはその五回目。最初の三回は歴史的な話(絵巻物(定番だったら鳥獣戯画とかかな?)、江戸時代の漫画、北斎など)、前回は「雑誌から単行本まで、日本とロシアにおける漫画・コミック出版の特徴」というタイトルで話したそうです。前回の講義で話された「ロシアの漫画事情」は聞いてみたかったですが、この連続講義のことを知ったのが遅くて間に合いませんでした。
今回のタイトルは「日本のコミックス制作の特徴とその分析」。会場である外国文学図書館への入構証をあらかじめ作っておく、など準備怠りなく、「さあ、ロシアの研究者の日本漫画分析のお手並み拝見!」とばかりに乗り込みました(←かなり大袈裟)。行ってみると、あまり大きくない会場が三十人ほどの聴衆でほぼいっぱい。やはり若者が多いですが、やや年配と思しき方もいらっしゃいました。
講義は一時間半ほど。メモから話題を拾うと:
- 日本の漫画の制作には二種類のシステムがある。一つは手塚治虫型。細部でアシスタントを使うことはあっても、基本的に一人で話を作り、絵を描く。もう一つはさいとう・たかを型。オーケストラのように、「指揮者」が皆と相談しながら話を作って、絵は担当者に任せる。それぞれの代表的な漫画家を上げていましたが、私は知らない人だった…。(この時点で既に敗北感。)
- ここから、割と技術的な話。漫画原稿用紙の各部の名前(天、地、小口、柱、喉、半面、断ち切り線、扉…)、ネームとは何か、ネームを切る際には鉛筆と消しゴムとハネボウキが必須。フキダシの文字は後で印刷して貼り込む。
- ペン入れのペンには丸ぺんとGペンとサジペンとカブラペンとがあって、それぞれどんな線が引けるか。墨汁いろいろ。
- ロットリングとか、マーカーはどういう時に使う。どんな会社のが定番で…。聴衆から「どこで売ってますか」という質問があり、「どこそこ駅の…」と具体的な場所を言ってました。ロシアでも日本の画材を売ってるんだ。
- 漫画用の原稿用紙の大きさ。「私達はA版(A4, A5 とか)しか使わないけれど、日本の原稿はB版が原則」。
- スクリーントーンの使い方。トーンナイフとかトーンヘラとかってのがあるんだ。削り、重ね張りなどの技法も説明。普段聞かないロシア語の単語だから、私は日本語とロシア語両方をメモってロシア語の勉強にしてしまいました。
- この辺りは、実物を見せて説明。ハネボウキはなぜかちょっと注目されてた。
- 漫画の描き方を説明した日本の本(ネーム→ペン入れ→仕上げの行程を実際の漫画原稿を見せながら説明してある)のスライドを見せて説明。「こういう各工程でアシスタントが頑張っている。漫画が出来るのはチーム作業のお陰!」
- コマ、枠線、効果音、フキダシなどの説明。フキダシはいろいろな形があって、アメリカ漫画とはだいぶ違う。フキダシ&セリフを使った感情表現について、手塚治虫の「マンガの描き方」から一覧になっているページを見せる(翻訳が大変そう)。
- 目の描き方による表現(グルグル渦巻きとかは「目が回る」という日本語から…、大きい目、ウルウル、怖がっている目、十字になった目、♡の目、お星様、炎メラメラ!、細い目、瞳のない目、涙の流し方…)。
- 鼻(鼻提灯、鼻水、鼻血、鼻が無い、猫鼻?、鼻息…)、口(よだれ、牙、歯がキラーン!と十字に光る)。
- 目の下の陰影、額の陰影、青筋(-_-# のバリエーション、汗のしずく、コブシ、…。
- 指切りやアカンベーの意味。現実にはありえない姿勢で飛び上がったりひっくり返ったり、で驚き。
- 二重、三重に重ねて描くことで動きやスローモーションを表現。
- バンソーコーを描いて、打たれた事のコミカルな表現。
- 効果線。
流石、プロの研究者は分析的に読んでおられる。もっとも、諸々の「お約束表現」をあまり真面目に説明されると、日本人はちょっと恥ずかしくなります。(^_^;;
終わった後で、「どんな表現がロシア人には分かりにくいですか?」と聞いてみたら、「うーん、私は研究しているから分かってしまうのですが…」と少し困っておられたので、「鼻血は?」と聞いたら、「それはありますね」。そこで、近くにいた若者が「頭に汗のしずくが描かれるのが分からない。(多分、冷や汗タラー、ってやつ。)僕の周りで分かった人は誰もいなかった」。ここで「あれはどういう意味ですか」なんて聞かれてたら、私のロシア語ではとても説明できず往生してましたが(いや、日本語でも言葉ではどう説明したら良いんでしょうね)、幸いにしてそういう方向には話が進みませんでした。雰囲気はつかんでもらえているのかな?
次回は、手塚治虫について。手塚マニアの私としては、楽しみというか、ツッコミを狙って手ぐすね引いている、というか…。