炭水化物とは?
このサイト上では基本的に「炭水化物」という言葉を使っていますが、よく似た文脈で「糖質」や「糖類」という言葉も一般的に使われます。この記事を読み進めるのに必要な言葉をサッと確認しておきたいと思います。
糖類から順番に見ていきましょう。十分にご存知の方はスルーされてください。
単糖
糖は複数の「分子」がくっついてできています。なにもくっついていない状態で分子単体の物を「単糖」と言い、私たちの食生活では主に以下の2種類が出てきます。
- ブドウ糖
炭水化物が身体のエネルギー源になる直前まで分解された形です。血糖値というのは、血液中のブドウ糖の量を表しています。
- 果糖
果物に含まれる糖で、ブドウ糖とは代謝のされ方に違いがあります。
二糖
単糖が2つくっついた物を「二糖」と言います。
- ショ糖
一般的な砂糖のことです。砂糖はブドウ糖と果糖の分子が1つずつくっついてできています。つまり、砂糖はブドウ糖と果糖が50%ずつになります。
多糖
単糖が3つ以上くっついた物を「多糖」と言います。
- でんぷん
米やイモから摂れる糖は、でんぷんです。ブドウ糖がくっついてできています。
細かく見ていくともっとたくさんの種類がありますが、今回は糖の分類を網羅するのが趣旨ではないので、上記の「ブドウ糖、果糖、砂糖、でんぷん」を押さえてもらえれば大丈夫です。
炭水化物の使われ方
炭水化物は体内に蓄えられる
炭水化物を食べると、ブドウ糖にまで分解されます。ブドウ糖には3通りの使われ方があります。
- 血流に乗って、身体の各所でエネルギー源として燃焼される。
- エネルギーがすぐに必要ない場合、ブドウ糖が再度くっついてグリコーゲンという物に形を変えて、肝臓や筋肉に蓄えられる。グリコーゲンを蓄えられる量には限りがある。
- エネルギーがすぐに必要ではなく、グリコーゲンも蓄えがある場合、脂肪に変換され、体脂肪として蓄えられる。体脂肪はほぼ際限なく蓄えられる。
ここで注目したいのがグリコーゲンです。イネなどの植物が「でんぷん」として糖を蓄えるのに対して、ヒトの身体はグリコーゲンという形で糖を蓄えます。食事からエネルギーを摂れないとき、ヒトの身体はこのグリコーゲンを分解してブドウ糖を得て、エネルギー源にしています。ずっと何も食べないでいると、体内に蓄えたグリコーゲンは空っぽになります。
研究1:グリコーゲンは力の源
炭水化物がエネルギー源であることは、よく知られています。この研究では、体内のグリコーゲンが減ると、筋力トレーニングのパフォーマンスに影響が出るかを以下のステップで調べました。
- 筋力トレーニングを行い、挙上記録をチェック。
- 自転車と2日間の食事制限で体内のグリコーゲンを減らす。
- 再度、同じ筋力トレーニングを行い、挙上記録に変化があるかをチェック。
結果は以下のようになりました。
1セット目の挙上回数がハッキリと落ちています。他にも複数の研究で、炭水化物を制限することでトレーニングのパフォーマンスに影響することが示されています。[1, 2, 3]
減量中に体脂肪だけでなく、筋肉を落としてしまわないためには、充実したトレーニングができることが非常に重要です。炭水化物をあまり敬遠してしまうと、トレーニングで力が出ず、筋肉を維持するのが難しくなるかもしれません。
炭水化物は太るのか?
研究2:炭水化物をドカ食いするとどうなる?
筋力トレーニングで全力を出すには、炭水化物が重要になります。しかし、「体脂肪を落としたいのに、炭水化物は太りそうだから…」と気が引ける人もいるかもしれません。
この研究では、まず実験開始から3日間で被験者の体内のグリコーゲンを空っぽにしました。その状態から、「たんぱく質11%・脂肪3%・炭水化物86%」という比率で徐々に食事量を上げていき、食べた物がどう使われるかを調べました。カロリー摂取量は、最大1日約5000kcalにまでなりました。要は「炭水化物をドカ食いしたらどうなるか?」という研究です。
次のグラフが、被験者の体内で炭水化物がどう使われたかを示しています。
ドカ食いを始めた研究4日目から2〜3日ほどで、空っぽだったグリコーゲンは一杯に補充され、その後は食べる量が増えるのに合わせて、燃焼しきれなかった分が脂肪に変換される量が増えていくのが分かると思います。
この研究では、炭水化物の摂取量が最大で1日1073gという現実ばなれした炭水化物のドカ食いをしています。白米に換算すると約9.3合です。実際には、フルーツジュースなども使われたようですが、「こんなに炭水化物ばかりどうやって食べたんだろう」と思うような量です。しかし、その内の500gくらいは脂肪にならずエネルギー源として燃焼されています。グリコーゲンの蓄えが一杯になる前は、まったく脂肪になっていません。
また、このグラフには載っていませんが、ヒトの身体は炭水化物を脂肪に変換して蓄積するプロセスでエネルギーを使います。ここで消費されるエネルギーは、この研究の論文では約25%と示されています。この脂肪への変換のプロセスに関する研究を集めたレビュー論文では、約28%とされています。このように文献によって若干数字に幅がありますが、食事から摂った脂肪を体脂肪として蓄積する際のエネルギーコストは、たった2%程度と言われています。
つまり、この研究から言えることは、「炭水化物を食べると脂肪になる」ではなく「炭水化物はなかなか脂肪にならない」ということです。
研究3:低炭水化物 vs 低脂肪
体重は炭水化物の摂取量ではなく、カロリー収支で決まります。それも長いスパンでのカロリー収支です。
つい先日発表されたこの研究では、被験者を2つのグループに分け、以下のような三大栄養素配分の減量食を12週間摂ってもらいました。
- 低炭水化物/高脂肪グループ
たんぱく質:17% / 脂肪:73% / 炭水化物:10% - 高炭水化物/低脂肪グループ
たんぱく質:17% / 脂肪:30% / 炭水化物:53%
この研究では、全体のカロリーとたんぱく質の摂取量は揃えられたので、炭水化物を減らす場合と、脂肪を減らす場合での減量効果の比較をすることができます。
下のグラフは、被験者のBMIの変化(=体重の変化)を4週間ごとに示しています。
この研究では、CTスキャンを使って、お腹まわりの体脂肪量が測定されましたが、両グループともに皮下脂肪、内臓脂肪が落ちており、体脂肪の落ち方にグループ間で違いはありませんでした。
炭水化物の摂取量を減らすのが有効かを検証するには、今回の研究のように全体でのカロリーとたんぱく質の摂取量を揃えることが重要になります。
以前に、本橋が「低炭水化物ダイエットの再考」という記事の中で同様の研究を紹介しましたが、今回の研究は被験者の数が多く、期間も長くなりました。このように複数の研究グループで同様の結果が確認されていることを考えると信憑性は高く、「体脂肪を落とすために炭水化物を避ける必要はない」と考えて良さそうです。
炭水化物の種類は減量に影響するか?
研究4:長期間GI値を管理する
ひとくちに炭水化物と言ってもいろいろな食品があります。
この研究では、高GI食を摂るグループと、低GI食を摂るグループを設定し、それぞれ以下のような食事を食べてもらいました。
- 高GIグループ
たんぱく質:15% / 脂肪:25% / 炭水化物:60%(GI値:63) - 低GIグループ
たんぱく質:15% / 脂肪:25% / 炭水化物:60%(GI値:33)
カロリー摂取量は、各被験者の体格などに合わせて、1週間に0.7kgのペースで体重を落とすことを狙って設定されました。
食事のGI値には、脂肪、たんぱく質、炭水化物の種類、食物繊維などが影響しますが、この研究では、グループ間でGI値に開きが出るように減量食の食品の組み合わせが調整されました。
そして、実験開始からの12週間、すべての食事が研究者側で用意され、被験者に提供されました。この研究で使われた減量食の効果を検証するためにレベルの高い管理がされたということです。
12週間で両グループともに体重が落ちましたが、グループ間での違いはありませんでした。
GI値に関しては、数字にブレが出ることから指標としての信頼性に問題があることを以前の記事でご紹介しました。この研究で使われた減量食の推定GI値にも疑問の余地は残ります。
ただ、この研究の低GI食グループは、12週間にわたって「血糖値を上げにくいとされる食事」を徹底して摂り続けたにもかかわらず、減量の成果には違いが出ませんでした。
一般の生活では、おそらくここまで管理をすること自体が難しいので、血糖値の安定と減量効果を期待して食べ物の選び方に頭を悩ませると、減量の成果が上がるよりも、生活に不必要な制約が増えることになってしまうかもしれません。
研究5:砂糖を大量に摂り続けて減量する
GI値に注意をしても減量効果に違いは出ませんでしたが、砂糖であればどうでしょう?
この研究では、砂糖をたくさん摂るグループと、砂糖をできるだけ控えるグループに被験者を分けて減量効果を比べました。各グループの食事内容は以下のとおりです。
- 砂糖の多いグループ
たんぱく質:19% / 脂肪:11% / 炭水化物:70%(砂糖:121g/日) - 砂糖の少ないグループ
たんぱく質:19% / 脂肪:11% / 炭水化物:70%(砂糖:12g/日)
両グループで摂取カロリーも揃えられており、グループ間での違いは砂糖の摂取量だけでした。
この研究でも、食事量を確実に管理するため、すべての食事が被験者に提供されました。砂糖を多く摂ったグループでは、1日の摂取カロリーの43%が砂糖になり、砂糖を控えたグループでは、1日の摂取カロリーの4%にまで砂糖の摂取量が抑えられました。
6週間の期間での体重の変化は以下のようになりました。
砂糖の摂取量が10倍も違ったにもかかわらず、両グループの減量ペースには違いが出ませんでした。この結果には驚きを感じられる方もおられるかもしれません。
ちなみに、もう少しマイルドな設定で6ヶ月掛けて行われた大規模な研究でも同様の結果が出ています。
砂糖は減量の敵のように扱われることが多いですが、カロリー摂取量が押さえられていれば、減量効果に違いは出ないようです。
しかし、実生活においては、砂糖ばかりの食事を長期間続けるのは決して健康的とは言えません。減量中には食事量が減ることから、特に栄養価の高い食品を積極的に摂ることは大切です。ただ、その上で、甘党の人には、好みのお菓子やジュースを取り入れる気持ちのゆとりを持つのは良いかもしれません。
研究6:果糖ならどうだ?
砂糖を大量に摂っても減量に影響は出ませんでした。では、果糖ではどうでしょう?
果糖はでんぷんやブドウ糖とは代謝のされ方が違うことから、減量の妨げになると言われることがあります。
この研究では、果糖の摂取量を低く抑えるグループと、中程度の量を摂るグループを設け、以下の食事内容で減量効果に違いが出るかを検証しました。
- 果糖の少ないグループ
たんぱく質:15% / 脂肪:30% / 炭水化物:55%(果糖:20g以下/日) - 果糖の多めのグループ
たんぱく質:15% / 脂肪:30% / 炭水化物:55%(果糖:50〜70g/日)
カロリー摂取量は、被験者に合わせて1日1500kcal〜2000kcalとされ、果糖はほぼすべて果物から摂るようにされました。
6週間の期間での体重の変化は以下のようになりました。
果糖を多く摂ったグループの方が、やや多く体重が落ちる結果になりました。
ただ、この結果をどう受け取るかには、注意した方が良い点がいくつかあります。
まず、この研究では、食事を被験者自身が用意して、自己申告の食事記録から摂取カロリーなどが計算されました。食事量の自己管理は正確に行うのが難しく、ブレがあった可能性も考えられます。
また、体重の減り幅には差が出たものの、体脂肪の減り方にはグループ間で違いは見られませんでした。ただし、この研究の体脂肪測定には、生体インピーダンス方式の体組成計が使われており、どれだけ正確なデータかという部分に疑問が残ります。
食事量の管理が完璧ではなく、体脂肪の落ち方に違いが出たのを体組成計が読み落とした可能性や、体内水分量の変化が影響して体重に表れた可能性が考えられますが、ハッキリと答えを出すことはできません。
ただ、いずれにしても、果糖を多く摂ったグループの方が体重の落ち幅は大きくなったことから、「減量中に果糖を摂ると減量が妨げられるのでは?」と心配しなてくてもいいと考える材料としては十分でしょう。
減量中の炭水化物は太らない
減量中の炭水化物の摂り方について、いくつか研究を見てきました。
- 研究1:グリコーゲンが枯渇すると、トレーニングの挙上記録が落ちました。
- 研究2:1日に白米9.3合分のドカ食いをしても、体脂肪になったのは一部だけでした。
- 研究3:低炭水化物でも低脂肪でも変わらず体重は落ちました。
- 研究4:炭水化物の選び方にかかわらず体重は落ちました。
- 研究5:砂糖を大量に摂っても変わらず体重は落ちました。
- 研究6:果糖を摂っても体重は落ちました。
AthleteBody.jpのパーソナルコーチングで減量指導をさせていただく中でも、「炭水化物を摂るのに抵抗がある」というお悩みをお聞きします。これは、管理栄養士として働かれるクライアントさんからもお聞きする悩みで、炭水化物や砂糖に対する偏った情報が、いかに広く浸透しているかを物語っていると思います。
体重や体脂肪が落ちるかは、長いスパンでカロリー収支をマイナスに維持できるかに掛かっています。そのための手段として炭水化物を制限する場合があっても良いかもしれません。しかし、それがストレスになって減量を続けられないようなら、炭水化物を制限するのが絶対条件だと考える必要はありません。
このサイトを見に来てくれるのは、筋力トレーニングをしている方が多いと思いますが、トレーニングで力が出るようになれば、減量中に筋肉を維持したり、場合によれば体脂肪を落としながら筋肉が増えることにつながってくれるかもしれません。
果糖の代謝の違いって?
果糖は代謝のされ方が違うと書きました。減量中にはあまり心配しなくても大丈夫ですが、中途半端な情報になると良くないので、もう少し書き添えておきます。
ブドウ糖は吸収されると血流に乗って身体の各所に運ばれるのに対して、果糖はほとんどが肝臓に送られます。肝臓に送られた果糖には次のようなことが起こります。
- 肝臓でブドウ糖に変換され、血流に送り出される。
- 肝臓でブドウ糖に変換され、グリコーゲンになる。
- 肝臓で脂肪に変換される。
最後の項目が果糖の特殊なところです。肝臓で脂肪に変換されるという意味では、ブドウ糖も果糖も同じですが、プロセスに違いがあり、果糖の方がブドウ糖よりもスムーズに脂肪に変換されやすいという特徴があります。
スムーズに脂肪に変換されると言っても、肝臓は果糖をブドウ糖に変換することもできるので、果糖を摂るとすべてが脂肪になるというわけではありません。
食事から摂った果糖が最終的にどう使われるかは、肝臓のグリコーゲンの蓄えによって変わります。そして、肝臓のグリコーゲンの蓄えは、食事全体のカロリー収支によって変わります。
減量中でカロリー収支がマイナスの場合、果糖はブドウ糖への変換が優先され、エネルギーとして燃焼されたり、グリコーゲンとして蓄えられたりします。研究6で果糖を摂っても体重が落ちたのはこの状態です。
一方、増量中、カロリー収支がプラスで、肝臓のグリコーゲンが十分に満たされている状況では、果糖をブドウ糖やグリコーゲンに変換して利用する必要性が少なくなり、脂肪に変換されるルートに進みやすくなります。こうなると、果糖はブドウ糖よりもスムーズに脂肪への変換が進むので、同じカロリー摂取量でも果糖の多い食事では体脂肪が増えやすくなるという可能性は考えられます。
では増量期間には、果糖を完全に避けるべきかというと、おそらくそこまで神経質に考える必要はないでしょう。果糖が主に脂肪に変換されるようになる摂取量のラインというのがあると考えられます。あるメタ解析では、このラインを1日約60g程度としているのに対して、1日100g程度とするメタ解析もあります。他には50gくらいを目安に考える研究者もいるようです。
上記の数字は、肥満体形の人や糖尿病を患う人を対象にしたデータを多く含んでいるので、標準体形で筋力トレーニングをする人は許容量が大きい可能性も考えられます。しかし、日本人は平均的に見て体格が小さいという可能性もあります。控え目に見て1日50〜60gくらいを目安にすると良いかもしれません。
果物を摂るといくらか果糖を摂ることになりますが、多くの果糖を摂ろうと思うと、かなりの量を食べる必要があります。もちろん、果物は果糖だけでなく食物繊維やビタミンも一緒に摂れるので、日常的に果物をある程度食べるのは、増量中か減量中かを問わず良いことでしょう。
注意したいのは、加工食品です。甘さを出すために果糖が使われている商品が多く、こういう食べ物はビタミンやミネラルといった栄養素が少なく、かつエネルギー密度が高くなりがちです。ついつい手が伸びて食べているうちにカロリーも果糖も摂り過ぎてしまったということのないよう気をつけたいところです。
おわりに
今回の記事は、減量をするにあたって炭水化物を摂ることに抵抗を感じている方にリラックスしてもらうきっかけになればと思って書きました。減量はカロリー収支をマイナスに保てれば成功します。周囲で困っている方がいれば、この記事をご紹介いただけると嬉しいです。
「カロリー収支がモノを言う」と分かってはいても、炭水化物や砂糖を使ったお菓子などがヤメられないという方もいるかと思います。次回の記事ではそのあたりについてお話したいと思います。
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八百 健吾
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記事本文の研究2について補足します。
この研究では、脂肪を極力摂らずに炭水化物をドカ食いした結果を示しています。
しかし、実生活では炭水化物と脂肪を両方合わせてドカ食いしてしまうことが多いと想定できます。このような時は、脂肪から優先的に体脂肪への変換が起こります。
この話を記事中に盛り込むと長くなってしまうので、別に補足ページを作りました。もう少し詳しく知りたい方は、ぜひご参照ください。