ゼロ年代、カラオケランキングに訪れた「異変」

オリコンやビルボード、iTunes……音楽に関して様々なランキングが存在します。それら複数を確認しないと流行が見えづらい現在、カラオケランキングにはどんな曲が上位なのでしょうか?
音楽ジャーナリスト・柴那典さんがその実情と未来への指針を解き明かす新刊『ヒットの崩壊』(講談社現代新書)。その内容を特別掲載します(毎週火曜・木曜更新)。

カラオケから見える10年代の流行歌

 現在、信頼できる指標はどこにあるのか? 筆者はカラオケのランキングに一つのヒントがあると考えている。実際に人々がその曲を歌った回数を並べたチャートだ。

 株式会社エクシングは、同社が運営するカラオケ「JOUYSOUND」で歌唱された楽曲の回数に基づいて集計した年間ランキングを発表している。5年にわたってその総合ランキングTOP5を見ていくと、流行歌の真相が見えてくる。

 1位となっているのは「ヘビーローテーション」「女々しくて」「Let It Go〜ありのままで〜」「ひまわりの約束」。オリコンともビルボードとも全く違う結果だ。
 興味深いのは、AKB48の数々のヒット曲のうちでも「会いたかった」と「ヘビーローテーション」と「恋するフォーチュンクッキー」の3曲はカラオケでも上位にランクインしているということ。
 どれも年間シングルランキングでは1位となっていない曲だが、AKB48に関して言えば、幅広い層まで広がった「本当のヒット曲」はこの3曲だったと言って差し支えないのではないだろうか。

 一方、嵐の名前が見当たらないというのも興味深い。詳細なデータを見ても、嵐の楽曲はどの年でもTOP20圏外となっている。国民的アイドルグループとして君臨する嵐だが、その人気に比べると彼らの楽曲自体がカラオケで歌われているわけではない、ということがわかる。

 ランキング全体の推移を見ても、カラオケの年間ランキングにはその年の流行や世相が反映されていることがうかがえる。

 2011年には少女時代「Gee」とKARA「ミスター」の2曲がTOP3にある。これはその時期に巻き起こっていたK-POPガールズ・グループ旋風を象徴している結果と言えるだろう。
 2012年から2013年にかけては、CMタイアップや紅白歌合戦出演でも大きな話題を呼んだゴールデンボンバー「女々しくて」が躍進。ニコニコ動画をきっかけに幅広い世代に広まったボーカロイド楽曲の「千本桜」も3位となっている。ゆずの「栄光の架橋」はロンドン・オリンピック関連の番組で数多く使われたことが人気につながったはずだ。
 そして、2014年には『アナ雪』ブームを象徴する「Let It Go〜ありのままで〜」が1位。2015年には映画『STAND BY MEドラえもん』主題歌としてヒットした秦基博「ひまわりの約束」が1位となった。

 流行歌の定義を「人口に膾炙した曲」とするならば、楽曲が多くの人に口ずさまれた回数のランキングというのは、ある意味、CDの売り上げやYouTubeの再生回数のランキングよりも、正確にその指標を示していると言える。
 そういう意味で言えば、10年後、20年後から振り返った10年代前半の「懐メロ」は、「ヘビーローテーション」「恋するフォーチュンクッキー」「女々しくて」「千本桜」「Let It Go〜ありのままで〜」「ひまわりの約束」あたりということになりそうだ。

定番化するカラオケ人気曲

 ただ、カラオケランキング上位の並びから見えてくるのは、流行やその年の世相ばかりではない。

 むしろ、そこにあるのはJ-POP人気曲の「定番化」とも言える現象だ。10年以上前にリリースされた楽曲が繰り返し上位にランクインする傾向が見て取れる。代表的な曲が、1995年にリリースされた高橋洋子「残酷な天使のテーゼ」。2001年リリースのMONGOL800「小さな恋のうた」や、2004年リリースの一青窈「ハナミズキ」もそうだ。さらに2015年には、1992年にオリジナルリリースされた中島みゆき「糸」が、発売から20年以上たってTOP3入りすることになった。

 これは一体どういうことなのか。カラオケの場は、そこで歌われる楽曲の傾向はどう変わってきたのだろうか。
 JOYSOUNDを運営する株式会社エクシングの編成グループグループ長・鈴木卓弥とコミュニケーション戦略グループグループ長・高木貴の2名に話を聞いた。

 まず、カラオケ業界全体の推移については「ほぼ横ばい状態が続いています」(鈴木)と言う。これは全国カラオケ事業者協会のまとめでも示されている。

 カラオケ人口は、一大ブームを巻き起こした1995年に5850万人というピークを記録している。2001年までの数年間でその数字は急落するが、その後10年以上にわたって4000万人台後半で推移。10年代に入ってからは、参加人口も施設数も微増している。カラオケ市場の大きさ自体は変わっていない。

 では何が変わったのか。
 JOYSOUNDが年間ランキングを発表するようになったのは2009年以降のことだが、それ以前のランキングも全てデータとして残されている。そして、通信カラオケの仕組み上、曲が歌われた回数は全て正確な数字としてカウントすることができる。
 1992年の会社設立以降、その20年以上にわたる推移を見ていくと、90年代、00年代、そして10年代の流行歌の変化が浮かび上がってくる。

 90年代のカラオケランキングは、その年のCDランキングとかなり一致している。少なくとも、その年、または前年にリリースされた楽曲が上位を占めている。その頃のカラオケは「最新のヒット曲を歌う場所」としてイメージされていた。

 その傾向に変化が訪れるのが、00年代に入ってからだ。

 「2003年の10位に入っている『涙そうそう』が、2004年、2005年と順位を上げています。こういう風に過去に発売された曲がランクを上げていく現象が起きること自体が、それまでと歌唱の傾向が変わってきたことの象徴だと思います」(鈴木)

 同じような推移をたどっているのが「小さな恋のうた」と「ハナミズキ」だ。どちらもリリースされてからしばらく経って順位を上げている。
 10年代に入ってからは、その年、もしくは前年にリリースされた新曲がTOP10圏内に占める割合は半数以下となっている。代わりに上位にランクインしているのが、前述の「ハナミズキ」、「小さな恋のうた」、「残酷な天使のテーゼ」といった楽曲だ。

 カラオケの人気曲は、新曲中心から定番曲中心へと移り変わっていったのである。

次回につづく!

宇多田、SMAP、ピコ太郎…2016年の振り返りに向けて

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ヒットの崩壊

柴那典

「心のベストテン」でもおなじみ音楽ジャーナリスト・柴那典さん。新刊『ヒットの崩壊』では、アーティスト、プロデューサー、ヒットチャート、レーベル、プロダクション、テレビ、カラオケ……あらゆる角度から「激変する音楽業界」と「新しいヒットの...もっと読む

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em1nalize 毎年思う事だけど曲や音の作りから考えても嵐は「歌いやすさ」という大衆性よりライブを想定した「作品」的な考えの方を優先してると思う。最近になればなるほど多くの女性が歌いにくい音域をガンガン攻めてくるし、何人もいないと歌いこなせない。 https://t.co/Nt20lqx1cG 約2時間前 replyretweetfavorite