制服フェチから軍服ナチへ、抑圧からの解放を求めた秋元康の「我が闘争」

今回の「すべてのニュースは賞味期限切れである」は、紅白出場歌手発表の話から。朝ドラ主題歌を歌った宇多田ヒカルの初出場が注目される一方で、デビューから1年未満にして初出場を決めた欅坂46。ナチス親衛隊の軍服問題から考える、秋元康と制服の話。そして、乃木坂46の橋本奈々未は本当に引退するのでしょうか? 紅白での演出を勝手に考えてみました。

紅白の目玉「ヒカルの夢は夜ひらく」のか?

おぐらりゅうじ(以下、おぐら) 紅白出場歌手が発表されました。出場者の話をする前に、和田アキ子、EXILE、美輪明宏、ゴールデンボンバーといった人たちの落選が話題になっています。

速水健朗(以下、速水) これでSMAP登場の可能性もこれでほぼ消えたのかな。うーん、こうなると見所はゲスの極み乙女。くらいか。

おぐら ゲスも落選してますよ。そもそも活動自粛中です。

速水 でも、ほのかりんの出演パートにゲスト出演するかもしれないし。

おぐら 未成年で一緒に飲酒していたほのかりんも出ません。ってか、何の人かわかってないですよね? そもそも歌手じゃないですから。

速水 そうなんだ。それは残念。

おぐら 初出場者組でいうと、宇多田ヒカル、KinKi Kids、Puffy、THE YELLOW MONKEYが注目されてますね。

速水 どれもデビューから20年くらい経過している人たちだよね。

おぐら 90年代後半の匂いがします。

速水 目玉は宇多田ヒカルかな。どういう出演の仕方をするのか楽しみ。藤圭子がかつて紅白に落選して自殺未遂報道という経緯があったから避けているのかと思ったら、今年はその呪縛から解き放たれるのかも。

おぐら 8年半ぶりに出たアルバム『Fantome』の発売を記念して、全国の民放ラジオ101局で『宇多田ヒカルのファントーム・アワー』という大掛かりな特番が放送されたのですが、その番組内で、藤圭子が1976年に新宿コマ劇場で歌った「マイウェイ」を宇多田ヒカルがかけたんですよ。それがもう、曲はもちろん、娘からの曲紹介も込みで、むちゃくちゃよくて。

速水 紅白では、単に自分の曲を歌うのかな。藤圭子の歌を歌ったりするくらいの変化球はありなんじゃないかな。「ヒカルの夢は夜ひらく」を歌うとか。

おぐら ただ、今年は朝ドラ『トト姉ちゃん』の主題歌になった「花束を君に」がありますからね。普通に考えたら、そっちを歌うでしょう。

速水 当日は生で出るって公言してるけど、記者会見には現れなかったんだよね。外からの中継の可能性はありそう。

欅坂ナチス制服問題で秋元康が犯した悪手

おぐら あとは、まだデビューから1年も経っていない欅坂46が初出場です。

速水 これはちょっとしたサプライズ。「最新の親衛隊コスプレを新調して挑みます」って抱負を述べていたね。

おぐら 言ってない! 欅坂46は、ハロウィーンコンサートでの衣装が「ナチスの親衛隊と酷似している」と指摘されたことが問題になって、紅白出場が危ぶまれていたんですから。それでサプライズなんでしょう。
* 欅坂46の衣装が「ナチスそっくり」 Twitter炎上、英紙も報道

速水 そうだった。野鳥の保護と調査研究を目的とした人権ウォッチング団体に抗議を受けていたんだっけ。

おぐら 日本野鳥の会のことですか……。そうではなく、ユダヤ人系人権監視団体「サイモン・ウィーゼンタール・センター(SWC)」から謝罪を要求されました。ちなみに、日本野鳥の会はもう紅白の集計やってません。

速水 そっか。結局、ナチスのコスプレ問題でソニーミュージックと秋元康が謝罪したのか。

おぐら ネット上では、いつものごとく、欅坂46の炎上をきっかけに「こっちは許されるのか!」「あっちはどうなんだ!?」と、過去のナチス風モチーフ表現を検証する動きがありましたね。
* 例の衣装騒動から、坂本龍一氏とナチスと、その他いろいろ

速水 YMOは? 沢田研二は? みたいな感じだった。昔はそこまでうるさくはなかったんだろうね。

おぐら 最近だと、氣志團が謝罪してましたけど。

速水 いわゆる「ナチス・カルチャー」(命名:佐藤卓己)については、すでに日本でも研究対象になっているくらいポピュラーな問題。今回は、これがメインテーマ。

おぐら たとえば、仮面ライダーのショッカーはナチスのモチーフに溢れてますよね。エンブレムしかり、「悪の組織」的な想像力の源泉をナチス・ドイツから引用している。

速水 科学者の重用、改造人間という発想とか、オカルト趣味、秘密結社風味とか、みんなナチスの影響。ナチスはサブカルチャーの1ジャンルというか、サブカルチャーはナチス発祥といってもいいくらいに相性がいい。

おぐら 問題は、そのことを推奨したり、影響を受けるようなものとして表現することでしょうかね。SWCの抗議文にも「仮にグループに傷つける意図がなかったとしても、当該パフォーマンスはナチス犠牲者の記憶をおとしめるもので、ネオナチの感情が高まっているドイツやその他の国々の若者に誤ったメッセージを送ることになる」という一文がありました。

速水 ナチス、特に親衛隊の存在は、いつの時代にも崇拝の対象になる可能性があるから、ポップカルチャーが不用意に扱うな、っていうこと。この問題については、ミリタリーに詳しい軍歌研究者の辻田真佐憲さんに話を聞いたけど、いま人種排斥・差別問題が、欧米で問題になっているタイミングで、こうした問題と地続きのナチスのコスプレを、たいした覚悟もなくやったことが無神経だっていう言い方をしていた。

おぐら 悪意はなかったとは思いますが、欅坂46のデビュー曲「サイレントマジョリティー」の歌詞を読むと、ファシズムだったり、いわゆる全体主義の批判なんですよね。サビが<君は君らしく 生きて行く自由があるんだ 大人たちに支配されるな>という。

速水 「声をあげて そこから一歩を踏み出せ」っていうメッセージ。軍服っぽいコスチュームも統率のとれたダンスも、それを表現する。少なくとも、秋元康は全体主義批判の歌なんだっていう意図くらいは説明すべきだった。謝罪はその上で、ナチスの親衛隊の制服に似たことで悪い影響を与える可能性について謝罪するべきだった。

おぐら そこまで丁寧に意図を表明していれば、もう少し違った結果になったかもしれません。でも実際の謝罪文は「事前報告がなかったので、チェックもできませんでした」と。

速水 現場への責任転嫁はひどすぎる。秋元康がまったく関わっていない疑惑すら出てきた。電通に任せっきりなんじゃないかって。そりゃ彼らの時間外勤務も増えるよ。

おぐら そこはまったく別の問題です!

速水 でも、そもそも「グループアイドルに制服を着せる」っていう大発明は、秋元康の功績なんだよ。

おぐら AKB48の原型であるおニャン子クラブも、制服アイドルのグループでした。

速水 でも実は、おニャン子クラブが「セーラー服を脱がさないで」を全員が制服を着て歌って踊ってるのを見た記憶がない。

おぐら え、どういうことですか?

速水 制服であれを歌うと生々し過ぎたんじゃないかなあ。

おぐら 制服って、日本の閉鎖的な学校教育を背景に考えると、どうしても抑圧と結びついちゃいますよね。「制服を脱ぎ捨てる」って、それこそ解放の象徴ですし。

速水 そこが秋元康の表現の核だよね。三島由紀夫「楯の会」にしても、暴走族の特攻服にしても、日本人のメンタリティには「集団で制服を着ること」への陶酔感がある。

おぐら サラリーマンのスーツ姿はドブネズミと言われていた時代もありましたが、スーツの場合、会社の駒だという抑圧と、立派な社会人だという陶酔が、微妙に混ざり合っている感じがします。

速水 戦中だって国民服が制定されて、大多数というわけではなかったとはいえ、多くの日本人が着ていたわけだし。

おぐら そんな日本人の文化に根付いている「制服」を、エンターテイメントの世界に持ち込んだ秋元康は、やっぱり天才プロデューサーってことですか?

速水 「抑圧」と「自由」、この対立概念を使って集団的なエンターテインメントを生み出すという部分が秋元康の功績であることは間違いないよね。だから制服フェチを突き詰めると、ナチスの親衛隊に行き着くというのも必然だったんじゃないかな。

おぐら もはや、おニャン子クラブの頃からの宿命だった?

速水 おニャン子クラブの会員ナンバーって、元ネタはナチスの党員番号じゃないのかな。

おぐら え〜。「会員番号の唄」ってありましたよね。♪にゃんにゃにゃにゃにゃん〜っていう。「ポケモン言えるかな?」みたいな。

速水 「♪おぼえてください 顔と名前〜」って。あれは欠番が多いんだけど、7番とか23番が抜けている。ヒトラーとゲーリングの番号。

おぐら なんですか、その陰謀説……。

速水 あ、もちろん冗談。信じないように。

おぐら ただ気になるのは、制服による抑圧っていう、アイドルとしてのコンセプトを、秋元康がどこまで自覚していたのか。

速水 毎回この話になるけど、本人がどこまで自覚的かは謎なんだけどね……

乃木坂46橋本奈々未は本当に引退するのか?

おぐら 欅坂46の話はこのへんにして、次は乃木坂46についても話しましょうか。

速水 乃木坂46も紅白当選したんだよね。

おぐら つい最近、メンバーの橋本奈々未さんが芸能界を引退するというので話題になりました。最後の接触となる握手会では、8時間以上の行列ができたとか。

速水 やっぱり女性がぶち当たる「ガラスの天井」があったってことだね。

おぐら ヒラリーの落選とは全然違います! むしろ、彼女の引退は賞賛されているんですよ。
* 「お金のためアイドルに」乃木坂46・橋本奈々未の芸能界引退理由が波紋を呼ぶ

速水 そっか、おうちが貧乏で、弟の学費の目処が付いたことで、芸能界に未練を残さず引退を発表したと。格差社会とアイドル。たしかにこういう美談風の話はみんな好きそうだけど、おぐら君はどこにグッときたの?

おぐら 有名になりたいとかチヤホヤされたいとかの承認欲求でもなく、何かを表現したいとかの自意識でもなく、「家にお金がないからアイドルになって稼ぎたい」って、この21世紀にアイドルになる動機として異質ですよ。しかも、それでメジャーアイドルとして人気も獲得して、最後は「もう必要な額は稼いだので引退します」って、素晴らしいじゃないですか。正しくシンデレラストーリーですよ。

速水 でも、橋本奈々未は本当に芸能界を引退するのかな。例えば、芸能界とモデル界は別ですって論法で、モデルとして残るとかありそうじゃない?

おぐら 本人は、芸能界の裏方に興味があるとは言っています。引退は来年の2月を予定していますが、紅白が集大成にはなりそうですね。

速水 藤圭子がデビューしたときも、家が貧しい流しの子どもというキャラだったんだよね。実は貧しいというのは単なるギミックだったんだけど。その話を思い出すなあ。

おぐら 橋本奈々未の場合はギミックではないと思いますけどね。「奈々未の夢は夜ひらく」を歌わせたいんですね?

速水 「♪15、16,17と〜私のじんせぇ〜」、それかもしくはヨイトマケの唄ね。「♪弟のためならエンリャコーリャ」。

おぐら 絶対ない!


本日(2日)行われる山内マリコさん『あのこは貴族』の刊行記念トークショーに、速水健朗さんとおぐらりゅうじさんが出演します!

会場:青山ブックセンター 本店内 小教室
日程:2016年12月2日 (金)
時間:19:00~20:30
開場:18:30~
料金:1080円(税込)
定員:50名様

この連載について

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すべてのニュースは賞味期限切れである

おぐらりゅうじ /速水健朗

政治、経済、文化、食など、さまざまジャンルを独特な視線で切り取る速水健朗さんと、『TVブロス』編集部員としてとがった企画を打ち出し、テレビの放送作家としても活躍するおぐらりゅうじさん。この気鋭のふたりのライターが、世の中のニュースを好...もっと読む

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コメント

hyroaky_ 欅坂46と乃木坂46の話題、ここでも。 約4時間前 replyretweetfavorite

Singulith ボケ方が太田光とか宝島・映画秘宝時代の町山っぽい。 本出したりイベントで人集めたりするのには、このくらいの薄さがいいかもね。  >https://t.co/jFkY08u5r0 約5時間前 replyretweetfavorite

Mecha_Konoe “「抑圧」と「自由」、この対立概念を使って集団的なエンターテインメントを生み出すという部分が秋元康の功績”“だから 約5時間前 replyretweetfavorite

ataru_mix うーん、このメンツでも衣装さんのやらかしを秋元康論にしてしまうのだなあ。今回、彼のミスは事後処理の拙さに集約されると思う。 約5時間前 replyretweetfavorite