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“宇宙強国”目指す中国

中国としては最も長い33日間の宇宙滞在を終えた2人の宇宙飛行士が、今月18日、地球に帰還しました。2022年ごろの完成を目指して独自に宇宙ステーションの開発を進める中国。今回の任務は、その“土台づくり”と位置づけられています。今後、一層、宇宙開発を加速させようとしている中国は何を目指しているのか?その動きは、世界各国の外交や安全保障にも影響を与えると言われています。

2030年“宇宙強国”になるという目標

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「さらに宇宙開発を進め、早期に“宇宙強国”にならなければいけない」。宇宙飛行士が地球に帰還した直後、中国有人宇宙飛行プロジェクトの幹部は、今回の有人飛行の成功を強調するとともに、さらに成果をあげるよう関係者を鼓舞しました。

中国政府は2030年までに世界の宇宙開発をリードするアメリカに肩を並べ、“宇宙強国”の仲間入りを果たすという目標を掲げているのです。宇宙飛行士を乗せた宇宙船「神舟11号」の打ち上げが成功した先月17日。習近平国家主席も「“宇宙強国”の建設に貢献してほしい」というメッセージを寄せました。中国にとって、今回の有人宇宙飛行は、国家の威信をかけて行う宇宙開発の成否を占う重要なものだったのです。

202X年 世界唯一の宇宙ステーションは“中国製”!?

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世界をリードするため取り組んでいるのが、中国独自の宇宙ステーションの開発です。日本でおなじみの宇宙ステーションは、アメリカや日本などが参加し、最近まで宇宙飛行士の大西卓哉さんが滞在していた国際宇宙ステーションです。中国はこれとは別に開発を進めています。国際宇宙ステーションの運用は2024年までの見通しです。中国独自のものは、それに先立つ2022年ごろ完成する計画です。将来、世界で唯一の宇宙ステーションは、“中国製”になる可能性が高くなってきているのです。

中国にとって、今回の33日間に及ぶ宇宙飛行士の宇宙滞在は、独自の宇宙ステーション完成に向けた実験という位置づけです。ことし9月“ミニ宇宙ステーション”と呼ばれる宇宙実験室「天宮2号」に続き、先月2人の宇宙飛行士を乗せた宇宙船「神舟11号」を打ち上げました。来年4月には、宇宙に物資を運ぶ輸送船「天舟1号」を打ち上げ、「天宮2号」にドッキングさせる計画です。輸送船の打ち上げは中国で初めての試みで、高い技術レベルを内外に示す狙いもあります。

“宇宙記者”がさかんに情報発信し国威も発揚

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「おはようございます!宇宙記者です!」。今回、2人の宇宙飛行士は、国営メディアの“記者”の肩書きで、連日のように身の回りの様子を、映像とともにインターネットに配信しました。宇宙空間をくねくねと動くカイコの映像や、「中国初!宇宙でのレタス栽培開始」といったもののほか、「中国人宇宙飛行士伝統のお茶を楽しむ」などとという記事まで配信されました。中国人宇宙飛行士が、宇宙で本格的な科学実験を行ったのは今回が初めてです。数多くの情報を宇宙から発信することで、中国としては、自国の技術力の進歩をアピールし、国威発揚をはかる思惑もあったと見られます。

軍主導の宇宙開発

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中国の宇宙開発で忘れてはならないのが、人民解放軍との密接な関係です。今回、宇宙飛行士が帰還した直後、管制センターで「任務は成功した!」と高らかに宣言したのは、有人宇宙飛行プロジェクトのトップ、張又侠氏です。張氏は「中央軍事委員会」のメンバーで、軍幹部です。また、今回、宇宙に滞在した宇宙飛行士2人も、空軍出身のパイロットなのです。

中国は、2007年、弾道ミサイルを発射して人工衛星の破壊実験を行い、その後も人工衛星に向けて弾道ミサイルを発射する実験を行った可能性が指摘されています。別の国の衛星を壊す兵器の開発につながりかねない実験で、軍事衛星を多く持つアメリカからは懸念が示されました。軍が主導する中国の宇宙開発について、国際社会からは、宇宙の軍事利用に歯止めがきかなくなるのではないかと心配する声も出ています。

開発は、火星探査から“中国版GPS”まで

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そうした国際社会の心配があるなか中国は、幅広い分野での宇宙開発に乗りだしています。宇宙ステーションの開発と並行して、火星探査計画も進めており、2020年ごろに中国初の火星探査機を打ち上げる方針です。

さらに中国は、実用的な技術の開発にも余念がなく、解読することが不可能だとされ「究極の暗号」とも言われる量子暗号通信の実験衛星をことし8月に打ち上げました。

その翌月、ことし9月には、直径およそ500メートルのアンテナを備えた世界最大級の電波望遠鏡の運用を内陸部の貴州省の山間部で始めています。

このほか、アメリカのGPSに対抗して「中国版GPS」とも呼ばれる「北斗」システムを独自に開発。陸上だけでなく、海洋進出を進める東シナ海、南シナ海もカバーし、受信機器はすでに中国当局の船や漁船などにも搭載され実用化されています。

強まる“宇宙外交”

中国が、幅広い分野で宇宙開発を行う目的の一つが、外交上の影響力の拡大です。将来運用する宇宙ステーションは、途上国を中心に、多くの国に利用を呼びかける方針です。中国の宇宙開発に詳しい日本人の専門家からは「まだ1人の宇宙飛行士も出していないような途上国から将来宇宙飛行士を選んで中国の宇宙ステーションに滞在させることをするかもしれない。そうして、その国で英雄となる宇宙飛行士誕生に協力すれば、中国にとって外交上のメリットは計り知れないくらい大きい」といった指摘も出るほどです。

また、「中国版GPS」も、現在、パキスタンやタイなど30か国以上で利用できるようになったとしていて、中国政府は、2020年ごろには、全世界にサービスを提供するとしています。さらに最近では、他国の衛星打ち上げも積極的に行っていて、去年11月には隣国ラオスが使う通信衛星「ラオス1号」の打ち上げも成功させました。

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各国の宇宙開発に詳しい政策研究大学院大学の角南篤副学長は「中国は大国としてのプレゼンスを高めるために宇宙空間を利用しようとしている。今後、外交や国際関係に大きな影響を及ぼすことになるのは間違いない」と話しています。

宇宙への新たな拠点は“中国のハワイ”海南島!

“宇宙強国”を目指す中国が、今後、地上の拠点と位置づけるのが「中国のハワイ」とも言われる南部、海南島です。今月3日、25トンもの高い運搬能力を誇る新型のロケットの打ち上げに成功し、宇宙飛行士の宇宙滞在とならぶニュースとして伝えられました。アメリカに次ぐ世界2番目の高い運搬能力と言われる新型ロケットの打ち上げは、初めてで、高い技術レベルを内外に示しました。

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ロケットの性能に加え、注目すべきは、新たに運用が始まった海南島の発射場です。中国では4か所目となるこの発射場。内陸部にあるほかの3か所とは違う大きな特徴があります。それは、赤道に近く海沿いにあるという立地です。これまでより赤道に近くなるため、打ち上げには地球の自転の力を利用でき、ロケット燃料が節約できるのです。また、海沿いにあることから、これまで鉄道を使っていたロケットなどの輸送も船でできるようになります。

さらに秘密のベールに包まれたような中国の宇宙開発ですが、海南島の発射場は、ロケットの打ち上げが周囲の街からもよく見えるのが特徴です。内陸部にあったこれまでの3つの発射場は、山間部や砂漠のなかにあったため、一般の人が打ち上げを見学するのは非常に困難でした。これに対して、新しい発射場は、およそ4キロ離れた場所にある外資系の高級ホテルからでも見ることができ、このホテルがロケット見学を売り物にするなど見学する人を当て込んだ動きもでています。発射場近くに「宇宙飛行幼稚園」や「宇宙飛行小学校」、さらに「宇宙飛行シティーホテル」なども誕生しています。“宇宙開発”を利用し、地上のまちづくりも進めてしまおうという盛り上がりも出ています。

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国家の威信をかけて進められている中国の宇宙開発。「アメリカやロシアの追随にすぎない」とか「独自の成果を出さない限り評価できない」といった否定的な声も聞かれるなか、中国が、その思惑どおりに将来“宇宙強国”として、世界をリードすることができるのか、真の力量が問われるのはこれからです。

戸川武
中国総局
戸川武 記者