全6回に渡りお届けしてきた連載「J2降格した時に大事なこと」。最後に番外編として大人気ブログ『フモフモコラム』のフモフモ編集長が登場! ブログ界屈指のエンターテイナーが語る「本当の意味での降格」と「本当に大切なこと」とは?
「J2降格時に大事なこと」というテーマで書いておいて言うのも何ですが、J2だから大切なこと、J1だから大切なこと、それって別のものなのでしょうか。プロサッカークラブとして、サッカーをお客様に見せてお金をちょうだいするという点で、J1とJ2には何の違いもありません。僕は「J2降格時だから」こそ大切なものなど、何もナイと思っています。大切なものは、いつも同じように大切なはずです。
そもそも「降格」というのは単にサッカーの強さだけの問題です。ライセンスはく奪やチーム解散とは違う、ただ弱かっただけのことです。「サッカーの強さ」はプロサッカークラブの価値の一端にすぎません。プロサッカークラブの本質は「お客さんを楽しませる」ことにあります。「勝つと楽しい」という、いくばくかの関連性があるから重要視されているだけで、勝つ=楽しいではない。負ける=楽しくない、ではない。
ことさらに降格を嘆くというのは、「サッカーの強さ」だけにとらわれて、本質を見失っている人の振る舞いです。クルマで言えば「このクルマはスピードが遅い!ポンコツだ!」と言っているようなもの。クルマの価値には「安全性」や「座席の数」、「燃費のよさ」、「馬力」、「デザイン」なんてものまで、さまざまなものがあるはずです。それなのに「スピード」だけで絶望したり、悲嘆に暮れたりするのはバカみたいじゃないですか? ていうか、バカだと思います。
泣いたり、怒ったり、悲しんだりしている人は、降格した今こそ気づくべきなのです。
自分たちのチームは弱かった、しかし、それ以上に「自分たちはサッカーを楽しむのが下手だった」のだと。
勝ち試合しか楽しめないなんてのは、楽しむことが下手糞なのもいいところ。負けて悔しいという気持ちは、次の勝利の喜びを増す刺激であり、すなわち「楽しい」ことなのです。降格して下のカテゴリに行くというのは、今季対戦していなかったチームと来季は戦えるという新鮮さ、すなわち「楽しい」ことなのです。上のカテゴリを目指すという新たな目標を得たことも「楽しい」のです。やむを得ず今いる選手と別れることがあったとしても、そのぶん新しい選手との出会いがあればやっぱり「楽しい」のです。
サッカーで勝つというのは相手があることですから、必ず達成できる目標ではありません。自分たちがどれだけ努力をしても、より資金があって、より頭が冴えて、より努力をするチームがあったら、やっぱり勝てない。ただし、楽しむことは自分たちだけの問題です。サッカーは強くなくても、楽しい時間を作ることができたなら、それこそが本当の意味での「プロサッカークラブとしての勝利」なのです。J2だからできない、J3だからできないなんてことは、絶対にない。
クラブのみなさん、残念ながら降格によって「サッカーが弱い」ということが判明しました。これは簡単には改善しない問題です。今はほかのことから手をつけましょう。お客さんが楽しくサッカーの時間を過ごせるように、できることはないですか?
スタジアムで食べる食事はオイシイですか?
外で食べるよりオイシイですか?
オイシイだけじゃなくシェアしたくなるネタは入ってますか?
そこだけの特別な「名物」ですか?
記念撮影はどこですればいいですか?
そこでしか撮れない特別な体験はないですか?
一番ポジティブなシェアを獲得できるのが「記念撮影」ですよ?
楽しそうにしている人の姿が何にも勝る広告ですよ?
サッカー以外に楽しいことはありますか?
丸一日遊びたいんですけど、丸一日遊べますか?
花見とか花火大会とかハロウィンとか、コッチも忙しいんですよ?
一年に一回しかできない祭りがたくさんあるんですよ?
「一年に一回」に勝てるものじゃないと、ずっとそっちに行きますよ?
「サッカー+花見」「サッカー+花火」「サッカー+ハロウィン」って無理ですか?
サッカーだけで終わったら、サッカー好きな人しかこないし、サッカー好きな人しか誘えないですよ?
グッズのデザインや品質はダサくないですか?
それ自分でも普段使いたくなるヤツですか?
「買ったよ」ってシェアしたくなるヤツですか?
作る値段は変わらないのに、ダサイの作ったらもったいなくないですか?
公式ウェブサイトに面白い読み物はありますか?
毎日見たくなるようなネタはありますか?
ファンが交流できるようなコミュニティサービスは用意していますか?
ファンがシェアして盛り上がれるための写真や動画を頻繁に公開していますか?
いい加減スマホで見られるようになってますか?
……全部「サッカーが強くなくてもできること」ばかりです。
どのカテゴリであっても、「楽しむ」ことに制限はありません。
そして、「楽しませる」ことにも制限はありません。
降格を機に新たに目標を定めるなら、「J1昇格」などという強さだけの目標ではなく、「満員のスタジアム」を掲げるべきでしょう。すごく楽しい時間を作り、たくさんの人が訪れる。満員のスタジアムが達成されれば、戦うカテゴリなどどうでもよくなります。お金も、選手も、愛も、強さも全部「満員のスタジアム」に引き寄せられるのです。強いだけでは達成できない難しい目標ですが、一番価値のある目標です。
この目標の達成には、サポーターを自認する人たちにも貢献できることがあります。それは、ひとりでもふたりでも多くの人に、自分が感じている「楽しさ」を伝えて、ともにサッカーを楽しむ仲間を増やすこと。あなたたちの声や熱意は、社長を罵倒するためにあるのではない。監督をののしるためにあるのではない。そんなことをしても「怖いなぁ」「この人たち、つまらなそうだなぁ」を拡散するだけ。その声は、身近な人にサッカーの素晴らしさを説くためにあるのです。大声を出し続けるだけでは達成できない難しい貢献ですが、一番価値のある貢献です。
楽しみましょう、J2を。
楽しめなかったら、それが本当の意味での降格です。
エンターテインメントという素晴らしいものから、ただの球蹴り遊びへの。
文=フモフモ編集長(フモフモコラム編集長)
■オムニバス連載【J2降格時に大事なこと】
広島編「 降格の責任を背負う経営者の決断 」
東京V編「 クラブに巣食う病理の正体 」
千葉編「 無免許医が出す処方箋にご用心 」
柏編「 北嶋秀朗『チャンスは一年しかない』 」
浦和編「 “世界一悲しいゴール”のその後 」
G大阪編「 腐った土壌に種を撒いても無駄骨 」
フモフモ編集長編「 降格時に大切なことなんて何もない 」