2016.11.16 11:02
SPECIAL
清武、転落の原因は「言葉の壁」以外ない
月刊フットボリスタ第39号『サッカーを笑え NO.133』
『フットボリスタ』創刊10年の間に、
「日本の方がスペインより先にW杯で優勝する」
と宣言するなど数々の誤りを犯した。
海外日本人選手の言葉の壁を軽視した発言もその一つだ。
セビージャにやって来た清武を間近で見られることは、
私の誤りを正す機会となった。
10年間の反省を込め、リーガと日本人について再考する
サッカーは世界共通の言葉であり日本人選手がリーガで活躍できないのは、その共通の言葉が下手なせいで、スペイン語が下手なせいではない――これが私の主張だった。「サッカーは世界共通の言葉だから大丈夫」と7月の清武の入団発表でセビージャのスポーツディレクター、モンチも言っていた。だが、あれから4カ月、清武が監督の信頼を失うプロセスを見ていると、言葉の壁以外の理由が見当たらない。
清武はシーズンを華々しくスタートした。UEFAスーパーカップ先発、スペインスーパーカップ第1レグ先発、リーガ開幕節エスパニョール戦先発で1ゴール2アシスト、第2節ビジャレアル戦先発とレギュラーの座を完全に手にしていた。しかし、1アシストした9月17日の第4節エイバル戦を最後に、もう1カ月半出番がない。清武が出番を失うのとナスリの台頭が重なった。キープ力のある万能型の攻撃的MFという点で2人は似ており、ナスリが最大のライバルであることは間違いない。だが、ナスリ台頭で清武を待っていたのはベンチではなく招集外という残酷なものだった。
ナスリ台頭だけでは説明がつかない
サンパオリ監督がメンバーを固定し始めたのは9月27日CLのGS第2節リヨン戦から。以降の6試合、攻撃的MF枠は3つで、先発はビトロ、フランコ・バスケス、ナスリが不動。4番手サラビアは出場4試合もプレー時間74分、5番手ガンソは同2試合38分と、サンパオリ監督はほとんどローテーションをしていない。それで5勝1分と結果が出ているのだから、采配を責めるべきではない。3つの交代枠のうち2つは守備固め(DFの増員や守備的MFイボーラの投入)、残り1つが攻撃的MFの交代に当てられているから、サラビア、ガンソすら出番が極端に少なくなり、攻撃的MFで6番目の清武がベンチにすら入れないのも理には適っている。
理に適わないのは、なぜ清武が急激に監督の信頼を失ったかだ。代表招集(10月第2週と第3週)による疲労を除いては清武の体調は万全だ。練習は全部出ているし、クラブもケガや体調不良の可能性を否定している。そうなると、監督やチームメイトとのコミュニケーションがうまく取れていないのでは、という結論にどうしてもなる。清武はサンパオリのフィロソフィを理解できず、チームメイトが期待するプレーと彼らに期待されるプレーができず浮いてしまっているのではないか?清武は戦術練習に腰を据えて取り組める貴重な機会を代表招集によって失ってもいるのだ。
セビージャは清武に通訳を付けていない。「付けると通訳に頼ってチームやクラブ、街への溶け込みが逆に遅れる」と考えているからだ。
通訳不在はデメリットが大きい
ラキティッチやエンゾンジ、コノプリャンカはスペイン語がしゃべれなかったが、そのまま合流させた。ラキティッチの場合は1年半でペラペラになり地元の女性と結婚した。エンゾンジの場合は英語を流ちょうに話すし、発音以外スペイン語そっくりのフランス語話者だから意思疎通に困ることはないだろう。逆に、コノプリャンカの場合は怠慢な守備で前監督エメリの信頼を失ったこともあるが、言葉にもクラブにも街にも馴染めず1年でセビージャを去った。
ラテン系言語(フランス語、イタリア語、ポルトガル語)の話者なら通訳不在の良い面が出るが、ウクライナ語や日本語ではマイナス面の方が大きい。日本語とスペイン語がいかに違うかクラブも実感できてないのだろう。ちなみに、エイバルは乾にサッカー経験者の通訳を付けている。
よって、清武とサンパオリとのコミュニケーションは片言のスペイン語と英語で行われることになる。清武の英語のレベルは「中くらい」と言う人もいるし「思ったより低い」と言う人もいるが、勉強中のスペイン語よりはるかに上なのは間違いない。
そして、サンパオリも助監督のリージョも英語はからっきしダメだから、練習やミーティングはスペイン語一本だろう。英語をしゃべれるコーチもいるが、彼らの言葉を清武がどれくらい理解できているか。これは清武だけでなくコーチの英語力の問題でもある。
清武獲得にOKを出したエメリなら英語も話せるし、戦術的にもオーソドックスな堅守速攻だから適応にこれほど苦労することはなかったろう。が、サンパオリとリージョは戦術的な革新者だから清武のサッカー言語が通じないところもあるに違いない。
言葉が通じず悔しい想いをした同じ日本人として応援している。たとえ、スペイン語がいかに習得困難で、サッカー界がいかに辞書に載ってない特殊用語にあふれているのかを承知していたとしても……。
(文/木村浩嗣)