<「想定外」のトランプ勝利を受け、米メディアは今、自責の念に駆られている。なぜ世論調査の結果を過信し、読み違えてしまったのか。ニューヨークのメディア業界を内側から見てきて感じたこと> (写真は11月7日のトランプ一家)
まさかの結果に、一夜明けた今も呆然としている。ドナルド・トランプ次期大統領に敗北宣言をしなければならないのは、ヒラリー・クリントンだけではない。紆余曲折ありつつも大統領選当日にはクリントン勝利をほぼ確信していた米メディアと専門家、世論調査会社も同じだ。
蓋を開けてみれば、本当のことを言っていたのは「我々」メディアではなくトランプの方だった。「メディアは真実を語っていない。(自分が劣勢だという)世論調査なんて嘘っぱちだ」と言い続けてきた彼の方が実は正しかったということが、証明されてしまったのだ。
【参考記事】クリントン当選を予想していた世論調査は何を間違えたのか
大統領選を迎えた昨日、ニューヨーク・タイムズ紙は投票が締め切られる直前の時点でクリントンの勝率を84%と予想していた。各種世論調査と期日前投票の状況から、私も「クリントン勝利」という青写真(とそれに基づく原稿案)を抱きながら彼女が「勝利演説」をするはずのイベント会場に向かった。マンハッタン中心部に設けられた会場の外には、開場時間の午後6時を前に多くの支持者が列を作っていた。「史上初の女性大統領」が誕生する瞬間を、見届けにきた人たちだ。
この時点で、私は「早ければ午後10時半には勝利演説が聞けるかもしれない」と予想していた。ここを落とせばトランプは終わり、と言われていたフロリダ州とノースカロライナ州両方の投票が午後8時には終了する。その後クリントンが確実に取ると言われていた州を順調に獲得すれば、午後9時過ぎには勝利へのカウントダウンが始まる――そう考えていた。クリントン陣営のイベント自体も、終了時間は午後11時とされていた。
ところが、午後8時からの数時間で「想定外」の展開が続いていく。事前の予想はことごとくはずれ、私は日付が変わった午前2時半、タイムズスクエアに集まったニューヨーカーたちと無言で電光掲示板を見つめていた。まさかの、トランプ勝利。ニューヨークはクリントンが大差で勝利した「クリントン推し」の州であり、周りの人たちは落胆を隠せない。
お祭り騒ぎになるはずのタイムズスクエアが、まるでお通夜のような静けさだ。今回初めて選挙権を行使しクリントンに入れたという18歳の黒人女性は、「トランプが勝ったという事実が怖い。明日からたくさんの人たちが怒りはじめるだろう」と肩を落とす。その横で、数人のトランプ支持者たちが「ゴッド・ブレス・アメリカ」を揚々と歌い始めた。
【参考記事】「トランプ勝利」世界に広がる驚き、嘆き、叫び
トランプは「ギャグ」のような存在だった
今、米メディアが「想定外」や「驚きの」勝利という言葉を使うとき、そこには間違いなく自戒の念が込められているはずだ。何とも言えない切なさや胸の痛みさえ感じているかもしれない。私の知る限り、周りのメディア関係者で今回の「想定外」を喜び、楽しんでいる人はいない。いたとしたらそれこそ「隠れトランプ支持者」だろうから、口元にわずかな笑みを浮かべているのを私が見逃しているだけかもしれない。
思えばトランプが出馬表明をした1年半前から、米メディアは「トランプ大統領誕生」という未来を本気で描くことができずにいた。言ってしまえば、大方の米メディアにとって彼は「ギャグ」のような存在でしかなかったのだ。
【参考記事】対談(前編):冷泉彰彦×渡辺由佳里 トランプ現象を煽ったメディアの罪とアメリカの未来
予備選でトランプが躍進し始めたころ、アメリカ人の同業者とメールを交わすたびに、彼らは合言葉のように「まったく今年の大統領選はクレイジーだよね」と最後に(笑)が付くような一文を添えてきた。メールの送信相手(私)がトランプ支持者である可能性は微塵も想定していないことに驚きつつも、この業界の人たちは(クリントン支持かどうかはさておき)少なくともトランプ支持者ではない、という暗黙の了解があるのだと悟った。
その傾向は、大統領選の討論会場でも明らかだった。9月末にニューヨークで行われた第1回目のクリントンvs.トランプの討論会は、会場に設けられたメディアセンターで観戦した。世界中から詰めかけている大勢の同業者たちと一緒にクリントンとトランプのやりとりを見ていたわけだが、トランプが何か発言するたびに周りの記者たちから失笑、ときに爆笑の声が上がる。さながら同業者たちと一緒にお笑い番組を観ているようで、ここでもトランプをどこかまともに捉えていない空気を感じた。
第3回目の討論会はコロンビア大学ジャーナリズムスクール主催の観戦集会に出向いたが、この時も会場内の「失笑ポイント」が同じで、妙な一体感があった。ニューヨークでジャーナリズムを学んだ後に米メディアの中枢に入っていくような人たちは、少なくとも「トランプ不支持」という価値観で一致しているのだなと、納得したものだ。
もちろんメディアで働く人間も、仕事上は自分の個人的な支持、不支持にとらわれない中立な報道を心がける。米メディアは媒体としてどちらの候補を支持するかを表明する傾向にあるが、中で働いているスタッフは原則として自分の支持する候補を利することを目的として報道することはない(オピニオン記事で主観を述べることはあるが)。だが仕事を離れればメディアの人間にも支持、不支持があり、それを仲間内で口にすることもある。その点で言うと、少なくとも私の周りで「私はトランプを支持している」と堂々と公言している同業者は1人もいなかった(共和党支持者はいる)。
ここまでの大どんでん返しは想定できなかった
では、立場上は客観的に分析していたはずの米メディアは、なぜ間違えたのか。既に米メディアにはさながら「反省文」とも言える記事が出始めているし、何を間違えたのかは今後徹底的に議論されていくだろう。しかしなぜ予想が外れたかについて現時点で誰の目にも明らかな理由の1つは、メディア側が世論調査の結果を過信し、読み違ったことだ。
勝敗予想の大きな根拠とされているのが世論調査である以上、もちろんどのメディアも「絶対」という言葉は使わなかったし、私も「最後まで何が起きるか分からない」とは思っていた。むしろ「世論調査をどこまで信じられるか」という話は同業者同士でよくしていたし、世論調査の「穴」を指摘する声もあった。ではなぜ、それでもメディアが世論調査を積極的に活用したのかと言えば、過去数年の結果を見ていて大どんでん返しと言えるほど極端に外れた例がなかったことが大きいだろう。
08年のバラク・オバマの大統領選でも、本音では黒人を受け入れない「隠れアンチオバマ」票があるのではとささやかれていたが、結局オバマが勝った。08年と12年の大統領選では、「天才統計学者」と呼ばれるネイト・シルバーがビッグデータを駆使して予想をほぼ完璧に的中させていた。
結果として、今回メディアは世論調査に出てこない「隠れトランプ支持層」の存在を見誤っていた。いや、その存在は分かっていたし、私も教養のある共和党員と話すほどに「隠れトランプ支持者」の存在を実感してはいたが、メディアはその数がここまで多くて、彼らが実際にトランプに投票しに行くとは思っていなかったのだろう。もちろん、とらえきれなかったのは「反エスタブリッシュメント」「クリントン嫌い」「アンチ民主党」の根深さかもしれないし、他にも「予想が外れた理由」は今後議論されていくことになる。だがとにかく、今回の大統領選はメディアと世論調査、統計学や専門家の完全なる敗北だった。
【参考記事】元大手銀行重役「それでも私はトランプに投票する」
どうしてメディアは「隠れトランプ支持層」の広がりと力を見抜けなかったのか。客観的に証明するのは難しいが、自戒をこめて個人的な見解を述べるなら、私は「アメリカ人の良識」を信じようとする心が、もしかするとどこかで予想にバイアスをかけたのではないかと思う。
誤解してほしくないのだが、メディアの人間が「トランプに勝ってほしくないから」という理由で「クリントン勝利」を予想していた、というのでは決してない。その一方で、「最後にはアメリカ人は『良識』的な選択をする」というあくまで主観的な期待を、「エスタブリッシュメント」側にいる人間が無自覚に抱いていたのではないだろうか。主観で世論調査の数字を変えることはもちろんないが、偏った「思い込み」は、ときに数字の向こう側を読み取ろうとする想像力を鈍らせる。
結果を受けて、ニューヨーク・タイムズ紙が載せた「反省文」はこうだ:
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火曜夜の失態は、世論調査の失敗以上のことを物語っている。アメリカの有権者の大部分の人が抱えている煮えたぎる怒りや、経済回復から取り残されているという心情、自分の仕事を脅威にさらす貿易協定に騙されているという気持ち、そして彼らがワシントンの既存の支配階層「エスタブリッシュメント」やウォールストリート、大手メディアに見下されていると感じていることを、とらえきることに失敗したのだ。
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敗北の理由は「アメリカ人の良識」を信じる心
メディアの人間はトランプに言わせれば「エリート」かもしれないが、トランプに共鳴する「怒れる支持者」たちの心情を理解できないわけではないし、トランプが支持される理由を理解しようとしてきた。私がいるニューヨークのメディアも全米各地で取材をするし、ニューヨークやワシントンが特にリベラル寄りだということは百も承知だ。そこだけを見て判断を誤ったわけではない。
おそらくトランプのいう「リベラルメディア」の人間は、差別発言やわいせつ発言を繰り返し、政治経験がゼロでまともな政策もないトランプが世界一の超大国のリーダーになるという筋書きを、どうしても本気で想定することができなかったのではないだろうか。アメリカに充満する怒りや不満を理解し、ときに共感さえしたとしても、そこから有権者の半分が「あのトランプに票を入れる」という現実には大きな飛躍があると考えていたように思う。ブレグジットの例もあるし結果まで分からない......と口では言いつつ、どこかで「アメリカ人の良識」を信じていたのだろう。
しかしその「良識」という概念こそ、実は「我々」の驕りだったのかもしれない。そもそもメディアは、「ギャグ」だと思っていたトランプが予備選で快進撃を続けるにつれて、自分たちの思い違いを思い知らされていたはずだった。にもかかわらず、最終的にはアメリカという広大な国の、その水面下に根を張った「有権者の本音」を見抜くことが出来なかった。トランプに票を入れたのは一部の熱狂的なトランプ支持者だけではなかったし、メディアは「トランプファン」以外の人々が「良識」に優先させるほど募らせていた憤りや悲壮感、現状への拒絶感や変化を求める声を、十分に聞くことが出来ていなかった。
トランプは勝利を受けて「忘れられていた人々の声が置き去りにされることは二度とない(The forgotten man and woman will never be forgotten again.)」とツイートしたが、確かにメディアは「忘れられていた人々」にくまなくリーチできていたとは言えないだろう。「声なき声」を拾うのがジャーナリズムの使命なのだとすれば、メディアはその意味でも自分の仕事をまっとうできなかったことになる。
メディアはトランプと闘っていたわけではないが、少なくとも昨日、トランプの「読み」に敗北した。今、我々メディアの役割はなぜ自分たちが読み違ったのかに謙虚に向き合い、聞き漏らしていた有権者の声に耳を傾けていくことだろう。まずは「驕り」を捨て、自分たちの敗北を認めることだ。既に米メディアはその方向に走り出しているし、その努力なくして、今や地に落ちつつある「メディアへの信頼」を取り戻すことはできない。
小暮聡子(ニューヨーク支局)
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米大統領選でドナルド・トランプが勝利し、政治の世界に激震が走った。彼が最もこだわってきたのが移民政策だ。選挙戦を通じて強硬な立場を崩さなかった。接戦を制した今、トランプや共和党の強硬派は、公約の柱としてきた移民政策をここぞとばかりに実行に移すはずだ。
トランプの勝利演説は薄っぺらかったが、移民政策の方針書に至っては詳細で具体的。簡単にいうと、トランプ政権はグリーンカード(永住権)の発給を現行より20~60%削減し、出入国管理にあたる職員を大幅に増員するという。これまでは親が外国人でもアメリカで生まれた子供はアメリカ人になれたが、その制度もやめるという。以下が具体的な中身だ。
壁の建設は本気
1) メキシコとの国境に壁を建てる
全長1600キロの壁を建設する。ただし現時点で約1100キロの壁や柵はすでに存在する。「バーチャルな」壁になる可能性もあるが、トランプはかねてから強固な本物の壁を造るとぶち上げていた。
【参考記事】トランプ、言った者勝ちの怖さ
【参考記事】「不法移民防止の壁」で死にゆく野生動物
壁建設の目的は不法移民の入国を阻止することだが、実のところ、アメリカへの不法入国者の数は1970年代以降で最も低い水準にとどまっている。事実と異なる国境地帯の混乱ぶりばかりが喧伝されるが、ヨーロッパのような危機とは違う。
不法移民を今以上に減らす最適な方法は、非熟練労働者が短期的に働ける就労ビザを創設するか、既存の制度を充実させることだ。だがトランプの方針はそうした選択肢を排除している。
2) 全米でE-Verifyシステムの導入を義務付ける
E-Verifyは国土安全保障省(DHS)と社会保障庁(SSA)が共同で開発した、新規採用者のアメリカでの就労資格を確認するオンライン・システムだ。身元に関する個人情報を米政府のデータベースに送ることで、就労の許可や却下が決定される。導入を全米で義務付けることで、正式な書類を持たない移民は雇用できなくするのが狙いだ。
E-Verifyを導入すれば、今でさえアメリカ国内で雇う従業員一人につき13.48時間をかけて就労資格証明(フォームI-9)を作成しなければならない雇用主にとって、さらなる負担となる。E-Verifyのデータベースの情報との不一致が発覚すれば、多くの合法なアメリカ人労働者の雇用の許可が下りずに雇用手続きが遅れる懸念がある。身分証明書が闇市場に出回るのを助長し、システムの導入にかかる税金や企業のコストが数十億ドル規模に膨らむといった弊害も指摘されている。
3)アメリカで生まれた人に自動的に米国籍を認めるのはやめる
これには合衆国憲法の改正が必要になりそうだが、著名なアメリカ人法学者リチャード・アレン・ポズナーは法律を改正すれば可能だと解釈している。
現行制度は法の下の平等を保障する合衆国憲法修正第14条よりもずっと昔に定められたもので、何世代にもわたり移民がアメリカに同化するうえでの拠り所となってきた。出生地での国籍付与を認めなかったヨーロッパの国々と比べると、アメリカの移民の境遇は対照的だ。もしこの法制を廃止するなら、国籍に関する法規で根拠となる概念が、現行の「出生地主義」から「血統主義」に取り換えられることになる。
4)不法移民強制送還の免除政策(DACA)を停止する
バラク・オバマ大統領は12年、入国時に15歳以下だった約66万5000人の不法移民の若者に、一定の条件を満たせば一時的な就労を許可し、強制送還を免除する政策を打ち出した。
DACAを継続するかどうかは、大統領に委ねられる。トランプの移民政策の方針書に明記はされていないが、トランプが更新を停止してこの制度を廃止に追い込む可能性は高い。
DACAの適用を申請するために提出された個人情報を手に入れればトランプ政権は不法滞在者の特定が可能になり、彼らをより効率的に強制送還するための証拠として転用する可能性がある。DACAの恩恵を受けてきた不法移民やその家族、友人らは、互いの関係を引き裂かれる人道上の悲劇に直面しそうだ。
合法・不法を問わず
5)不法移民を強制収容する
アメリカ国内で逮捕された全ての不法移民を収容する。この政策はすでに一部で実施されているが、トランプ政権は規模を一気に拡大する。それには、暴力や貧困から逃れて密入国した中米出身の子どもたちの収容施設を造ったのと同じように、新たな施設を建設する必要があるだろう。
【参考記事】不法移民、トランプが強制送還部隊の創設を提唱
6)合法的な移民の数も減らす
トランプは方針書で、外国人労働者に対するグリーンカードの新たな付与を「一時停止」するよう主張している。目的は「雇用されていない国内の移民や従業員を優先して雇わせるため」だ。
14年に発行された雇用に基づくグリーンカードは15万1596人分で、うち86%は別のビザですでにアメリカ国内に滞在していた人々が取得した。残りの14%は海外に居住していた労働者に割り当てられた。米政府は同年、家族関係に基づく64万5560人分のグリーンカードを発給し、すべての取得者がアメリカで就労することを認めている。
家族関係に基づくグリーンカードのうち61%が、別のビザを使ってでもアメリカに滞在していなかった移民に渡った。今後の方針にもよるが、トランプの政策下でグリーンカードの発行は毎年14~54万人分に縮小されそうだ。
7)H-1B(専門職就労ビザ)の基準賃金を上げる
これにより、法律知識や専門技術を持つ移民労働者の数を減らす方針だ。14年は12万4000人がH-1Bビザの発給を受けてアメリカで新たに雇用され、うち8万5000人は民間企業、残りは非営利の研究機関でそれぞれ専門職に就いた。
彼らの平均年収は7万5000ドルだから、そもそもアメリカ人の非熟練労働者の競合相手ではない。もしH-B1ビザの発給要件となる最低年収が10万ドルに跳ね上がれば、民間企業での雇用機会は縮小し、研究機関も雇用を減らすだろう。
H-1Bビザの制度は雇用に基づくグリーンカードの主たる対象でもあるため、市民権取得者の構成にも変化をもたらすだろう。
8)アメリカ人労働者を優先して雇用するよう義務付ける
この政策によって、特殊技能を持つ専門職の外国人労働者を雇うアメリカ企業の負担は増大する。1990年に議会がH-1Bビザを対象に導入を検討したが、規制にかかる費用が莫大になるという理由で却下された。もしトランプが自身の言葉通り、政府による規制に反対の立場を貫くなら、この案は拒否することになるはずだ。
人道的な難民受け入れ3割に
9)すでにアメリカで暮らす子どもや若者を対象にした難民制度を創設し、不法移民を国外へ追放する
この政策では制度の悪用や詐欺を削減するという名目で、海外からの難民や亡命申請者に対する認定基準が引き上げられるだろう。
トランプの移民政策は、人道的な理由による移民の数を70%削減すると主張する。仮に今年実行されていれば、アメリカで暮らす難民は約6万人まで削減されていた計算だ。
米シンクタンクのアメリカン・アクション・フォーラムの試算では、不法滞在者を残らず国外退去させて将来も移民の流れを食い止める措置を取るには、今後20年間で4190~6190億ドルもの税金を投入しなければならない。試算には、政策がもたらす経済的なマイナス影響や、移民が退去して経済規模が縮小することによる税収の損失は含まれていない。
同じく米シンクタンクの超党派政策センターは、国内人口が減ることにより、今後20年間で財政赤字が8000億円増大すると試算している。それには経済的な損失や、不法滞在者の排除にかかる米政府の財政負担を含んでいない。
アレックス・ナウレステ(米ケイトー研究所、移民政策アナリスト)
This article first appeared on the Cato Institute site.
<大統領選当日、「データは死んだ」と、アメリカのある政治アナリストは完敗を認める。だが予想を外したのは彼だけではなく、ニューヨーク・タイムズもハフィントン・ポストも同じだ。原因の一つは、トランプのような人間を認めない傲慢さだったかもしれない。その傲慢さのために、アメリカは昨日までとは違う国になってしまった>
米大統領選当日の夜、バラク・オバマ大統領はビデオメッセージでこう国民に語りかけた。
「何が起きても、朝になれば太陽が昇り、アメリカは地球上で最も偉大な国であることに変わりはない」
だがそれは間違いだった。大統領選の勝者は共和党候補のドナルド・トランプであることが明らかになり、多くの人にとってはまさに世界がひっくり返ったのだ。ほとんどのメディアや調査会社は、民主党候補のヒラリー・クリントンの勝利はほぼ確実だと伝えていた。一体何が起きたのか。
共和党系のベテラン政治アナリストでトランプへの不支持を公言していたマイク・マーフィーは、ツイッターに投稿した。
「30年間、選挙分析のデータは正しいと信じてやってきたが、データは今夜死んだ。私は今回の選挙ほど予測を間違ったことはない」
選挙分析に定評のあるサイト「ファイブ・サーティー・エイト(538)」は日本時間水曜午前6時の段階で、クリントンが勝利する確率を71.4%としていた。ところが午後12時頃にはトランプが勝つ確率が75%以上と完全に逆転してしまった。
ファイブ・サーティー・エイトのカール・ビアリクは速報ブログでコメントした。
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我々の最終の予測では、トランプ勝利の確率は27%だった。他社では1%という予測もあった。この背景には民主党の支持者が油断した可能性が指摘されている。先週、バズフィードの取材でトランプ政権になった場合の対応を尋ねられたテキサス選出で民主党の下院議員マーク・ヴィージーはこう言った。「そんなこと深く考えたことなんてない、あの男はジョークみたいなものだから」(午後1時39分)
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他にも、トランプが激戦州のフロリダを制した要因についてヒスパニック有権者のトランプ支持が予想を上回るなど、予想外の投票行動が目立ったと釈明した。だが予測を外した原因の総括には、もう少し時間がかかりそうだ。
トランプの政治運動を過小評価
ニューヨーク・タイムズ紙では、投票が締め切られる直前の時点で、84%の確率でクリントンが勝つと予想。だがそのわずか数時間後にはトランプが勝利する確率が93%とひっくり返った。
同紙の紙面を批評する立場のメディエーター・コラムニストのジム・ルーテンバーグは、選挙期間を通じてクリントンの勝利が確実だと伝えてきたメディア報道のあり方を批判。現実に起きる可能性があった政治のシナリオを示さなかったのはニュースメディアの「失態」であり、ジャーナリズムの「崩壊」だと手厳しい。
ルーテンバーグは選挙分析が外れたのは必ずしも実態を反映しない電話調査などの手法にも欠陥があったと指摘したうえで、最大の問題はメディアが「世界中で巻き起こる反エスタブリッシュメントの空気を読めていない」ことだと述べた。「トランプが大統領選への立候補を表明した当初からトランプの高い得票力や彼の政治運動を過小評価した」メディアは、なぜ群衆が彼をそこまで支持するのかを追求せず、生身の人々の状況から目をそらした結果に今、直面しているのだという。
ニュースサイトのハフィントン・ポストも、クリントンの勝利がほぼ確実だと押していたメディアの代表格だ。選挙分析を担当したナタリー・ジャクソンとアリエル・リーバイはトランプの勝利を受けて次のように述べた。
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「無口な多数派」や「シャイなトランプ支持者」が存在したという意見は無視できない。もし本当にそのような原因で予測を外したのなら、回答率が極めて低い世論調査の問題点や正確に有権者を割り出す方法を綿密に見直す必要がある....今後数週間で、何が上手くいって何が上手くいかなかったのかを分析し、今後の対策を検討する。
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事前の予想を完全に覆すトランプの劇的勝利は、世論調査の信頼性を根本から揺るがすものだ。なにより、データを疑わなかったニュースメディアと大衆の間には、決定的な亀裂が存在することを浮き彫りにした。
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部
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<大統領選の勝敗を決めたのは「白人対マイノリティ」という対立の構図だ。これからのアメリカのために、トランプは大統領選で作り上げた差別的な人物像をまず捨てなければならない>(写真:ニューヨークの勝利宣言会場で支持者にあいさつするトランプ)
ドナルド・トランプ大統領のアメリカで、人々の怒りはどこに向かうのか?
今回の大統領選は、最初から最後までが常識外れだった。
投票当日まで、メジャーな予測機関はすべてヒラリーの勝利を予測し、その大部分が80%以上という高い確率を出していた。
ところが、トランプが激戦州を次々と獲得しただけでなく、ヒラリーが楽勝するだろうと見られていた州でも苦戦した。
これは、世論調査だけでなく、トランプ陣営自身も予想していなかった結果だろう。
なぜこのようなことが起きたのだろうか?
トランプが予想外に得票を伸ばした地域を見ると、その原因が見えてくる。
【参考記事】「トランプ勝利」世界に広がる驚き、嘆き、叫び
これまで民主党が優勢だった地域でもトランプが優位に立っている。過去には重工業が盛んだったが、産業が時代遅れになって繁栄から取り残された「ラストベルト」と呼ばれる中西部だ。そこで暮らす有権者の多くは労働者階級の白人だ。
彼らは、予備選でサンダース候補を支持した人たちでもある。民主党は彼らの票を期待していたが、彼らは民主党ではなくトランプを選んだのだ。筆者がコラム『トランプに熱狂する白人労働階級「ヒルビリー」の真実』で書いた人々にとって、トランプもサンダースも、どちらも自分の声を代弁してくれる存在なのだ。
だが、もうひとつ明らかになったのは、「白人対マイノリティ/移民」という対立の構図だ。開票結果を見ると、これが最も大きなファクターとなったと考えざるを得ない。
アメリカの国民は依然として白人が最も多いが、近年はマイノリティが急増している。1992年には有権者の84%が白人だったが、現在は70%でしかない。彼らは、それを肌で感じているはずだ。
白人の支持が多いのは共和党で、92年には党員の93%が白人、16年現在も86%を維持している。一方の民主党は、92年は白人支持者が76%だったが、現在は57%に減少し、半数近くがマイノリティになっている(ピューリサーチセンターの調査より)。
黒人のオバマが出馬した2008年には、黒人の93%、ヒスパニック系の71%、アジア系の73%がオバマに票を投じた。今回の選挙ではヒスパニック系の投票が増えたと言われ、それがヒラリー有利に働くと予想されていた。
ところが、蓋を明けてみたら、黒人の投票数は前回2回の大統領選を大きく下回った。「黒人大統領」のオバマを応援するというモチベーションがなくなったからだろう。
そして、白人有権者は予想以上に多く投票した。白人有権者の不満を積極的に取り込んだトランプがこの票を集めた。この差が、思いがけない州での逆転につながった。
トランプは、予備選当初から「イスラム教徒によるテロ」「ヒスパニック系移民と都市部の黒人の暴力」「職を奪う移民」といったイメージを与え続け、「アメリカを、白人の国のままにしたい」と考える白人有権者が、堂々とソーシャルメディアでそういった意見を語れるようにした。
差別的な発言を繰り返すトランプが社会に与える影響に恐怖を覚えるマイノリティは、ヒラリーを支持した。アメリカの人口動態は劇的に変わりつつある。アメリカは、どんどん「マイノリティ」「無宗教」「都市型」「ジェンダーフリー」の国になりつつあり、現在は過渡期だ。
だが、メディアがそれについて語れば語るほど、アメリカでマジョリティ(多数派)としての地位を失いつつある白人有権者は恐れ、反発を覚えたのかもしれない。
トランプの「Make America Great Again(アメリカを再び偉大にしよう)」という選挙スローガンと「アメリカを優先する」というメッセージの本質は、「アメリカを、マイノリティや移民が乗っ取る前の、居心地がよい白人の国に戻そう」ということだ。トランプに投票した裕福な白人有権者の言葉からは、そういったセンティメント(心情)を感じる。
【参考記事】ヒスパニックが多いフロリダ州で、トランプが逆転勝利した意味
アメリカの人々は、オバマ大統領の「希望」にひかれた。だが、今回はエスタブリッシュメント(既存政治)に対する「不満」と「怒り」がエネルギーの源となった。
これからトランプが直面する問題は、不満を抱える白人有権者に過剰な約束をしたことだ。
トランプ次期大統領には、「メキシコとの国境に壁を作る」「オバマケアより安くてすばらしい医療制度を作る」「職が外国に行くのを防ぎ、高給の職を沢山作る」という選挙公約を実現するために必要な経験や政治手腕はない。
その結果、アメリカの景気が悪化し、生活が今よりも苦しくなり、病気になっても医療保険に加入できなくなったら、トランプを支持した人たちは、今度は怒りをどこにぶつけるのだろうか?
トランプがまずやるべきことは、大統領選で票を取るために作り上げたペルソナ(人物像)を捨てることだ。
そして、自分に票を投じてくれた人々の期待に応えるべく、国民生活を良くする政策に誠実に取り組む。一方で自分を支持しなかった半数の国民が安心して生活できるような言動を取ることだ。
大統領選ではマイノリティや移民への差別で票を取ったとしても、実際には差別に反対する毅然とした大統領になれば、4年後の再選も可能かもしれない。
渡辺由佳里(エッセイスト)
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<自己啓発本は前向きになることが幸せな人生のカギだとうたうが、楽観主義を強要されて鬱になるリスクも>
「楽観的になりなさい!」「幸せは自ら選んで手に入れるもの」――書店には幸せになるための自己啓発本が数多く積まれている。アメリカで1952年に出版され、15カ国語に翻訳された『積極的考え方の力――ポジティブ思考が人生を変える』(邦訳・ダイヤモンド社)は今でも根強い人気だ。
プラス思考を身に付ければ誰でも幸せになれるという考え方は、問題に対処するスキルを向上させたり心の健康を保つ手法として、学校や職場、軍隊などで広く採用されてきた。
しかしこの考え方が広まるにつれて、鬱や不安に悩んだり、時々ネガティブな感情を抱くだけでも恥ずべきことだと思う意識も高まり始めた。その弊害は、心理学の学術誌「モチベーション・アンド・エモーション」でも指摘されている。
同誌10月号に掲載されたエール大学の研究者エリザベス・ニーランドらの研究によると、感情を簡単にコントロールできると考えている人は、そうでない人に比べて、ネガティブな感情を覚えたときにそれを自分のせいだと感じやすいという。
心理学者たちは何年も前から「ポジティブ心理学崇拝」の危険性、特に自尊心に及ぼす影響を研究してきた。その結果、ポジティブ思考によって幸せになれる人もいるが、挫折感を覚えたり鬱に陥る人もいることが示されている。
【参考記事】「誰かに認められたい」10代の少女たちの危うい心理
幸せじゃないのは自分に問題があるせいだと責め立てられるようなポジティブ思考の押し付けによって、アメリカの鬱病患者はかえって増加していると訴える専門家もいる。
メンタルヘルスにおけるポジティブ心理学のアプローチの始まりは、1950年代にさかのぼる。アメリカの心理学者アブラハム・マズローが54年に著した『人間性の心理学――モチベーションとパーソナリティ』(邦訳・産業能率大学出版部)の中で、「ポジティブ心理学」という言葉が初めて登場した。
マズローはこう書いている。「心理学はこれまでポジティブな側面よりもネガティブな側面ばかりに光を当ててきた。人間の欠点や病気、罪について多くを研究してきたが、人間の潜在能力や美徳などについてはほとんど目が向けられていない。自ら研究領域を半分に制限してきたようなもので、しかもそれは人間の暗く卑しい心理だ」
笑えない自分に罪悪感
近年は企業や軍隊でもポジティブ心理学が採用されるようになり、その影響は大衆文化にも及んでいる。だがポジティブ心理学が広まるにつれ、そのアプローチはよりシンプルな言葉で表現されるようになった。「ポジティブ思考」だ。
心理学者のマーティン・セリグマンが考案したポジティブ心理学の下に、ずさんな研究が数多く発表されるようになったと、ウェルズリー大学のジュリー・ノレム教授は指摘する。それらの研究の大半が、楽観主義とポジティブ思考が幸せな人生をもたらすと主張した。
だが、このように簡略化されたポジティブ心理学は、むしろ人々の心に害を及ぼすのではないかとの懸念が近年高まっている。「前向きになることを強要されている」と、ボードン大学の心理学者バーバラ・ヘルドは言う。「苦しいときでも笑ったり楽観的になれない人は駄目だという雰囲気がある。深い悲しみに陥っても、数週間で乗り越えるべきだと思われている」
ヘルドによれば、ポジティブ思考の強要は2段階で襲ってくる。まず心に痛みを抱えている自分が嫌になる。次にそこから前に進めず、プラスの側面に集中することができない自分に罪悪感を覚えるようになる。
ポジティブ思考が裏目に出ることは複数の研究でも証明されている。クイーンズランド大学(オーストラリア)が12年に行った研究では、後ろ向きになるべきではないと周りから思われていると感じていると、よりネガティブな感情を抱きやすいことが分かっている。
09年にサイコロジカル・サイエンス誌に掲載された研究では、「私はみんなに好かれる人間だ」などポジティブな言葉を使うよう強制されると、かえって自信が持てなくなる人がいるという。
【参考記事】中絶してホッとする女性はこんなに多い──ネットで買える中絶薬利用、終身刑のリスクも
プラス思考で金融危機に
世の中には、ポジティブ思考よりもネガティブ思考、いわゆる「防衛的悲観主義」のほうが向いている人が存在する。防衛的悲観主義者はすべてが悪いほうに転ぶ可能性を考えることによって不安を緩和し、往々にして悪い結果を回避すると、ノレムは言う。
一方で防衛的悲観主義者がポジティブ思考を強要されると、潜在能力を発揮できなくなる。ノレムによれば、アメリカ人の25~30%が防衛的悲観主義に当たる。
ポジティブ思考のもう1つの弊害は、現実から目をそらす「否認」だ。深刻な状況に陥っているのは明らかなのに、すべてうまくいくと信じて、問題の解決を図ろうとしない。
『ポジティブ病の国、アメリカ』(邦訳・河出書房新社)の著者バーバラ・エーレンライクは、08年の金融危機の責任の一端は人々が住宅ローンを払えなくなるといった悪いシナリオから目を背けたことにあると指摘する。
結局、現代人が抱える複雑な問題を一気に解決して幸せをもたらすような魔法の心理療法はない。人生がうまくいかなくなったときに後ろ向きの感情を抱いてしまうのは、決して悪いことではない。
「いつも前向きでいる必要はないし、第一そんなことは不可能だ」と、ノレムは言う。「前向きでいられないのは心に問題があるせいではない。人間としていろんな感情を持つのは当然のことだ」
モーガン・ミッチェル
[2016.11. 8号掲載]
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<2016年11月8日米大統領選当日。固唾を飲んで投開票を見守るイスラム教徒の苦悩>
米ニューヨーク市にあるマディーナ・モスク(イスラム礼拝所)でイマーム(集団礼拝の指導者)を務めるアブ・スフィアンは、アメリカを分断する米大統領選が進む中、イスラム教徒に対する暴力の連鎖が爆発的に広がる様子を間近で見てきた。8月にはニューヨーク・クイーンズ地区で、知人のイマームが朝の礼拝を終えてモスクから出たところを背後から男に頭部を撃たれ、助手とともに殺害された。今年初めには、彼と同じモスクに通うイスラム教徒の女性も、ニューヨーク・マンハッタン地区を歩行中に車に突っ込まれた。
固唾を飲むイスラム教徒
いよいよアメリカの次期大統領が判明する火曜日は、ほとんどの国民が固唾を飲んで開票結果を見守るだろう。だが他のどの層よりも大きな不安を抱えて当日を迎えるのは、アメリカのイスラム教徒だ。共和党候補ドナルド・トランプが反イスラム感情や暴力をここまで煽った後では、たとえ民主党候補のヒラリー・クリントンが勝利したとしても、火曜日の夜を境に自分たちの身に何が起きるのか不安で仕方ないと、イスラム教の指導者たちは語った。
「2016年はモスクが攻撃される事件が急増し、過去最悪だった」と米イスラム関係委員会で政府業務を担当するロバート・マカウ所長は言った。「トランプは選挙集会でしきりにイスラムフォビア(イスラム恐怖症)を唱え、イスラム嫌いを根付かせた。偏狭な人種差別を勢いづかせ、ムスリム社会を狙った暴力を助長している」
【参考記事】戦死したイスラム系米兵の両親が、トランプに突きつけた「アメリカの本質」
トランプはイスラム教徒を狙って、大衆の憎悪を煽ってきた。アメリカやヨーロッパでイスラム過激派やISIS(自称イスラム国、別名ISIL)のイデオロギーに染まったローンウルフ(一匹狼)型のテロ攻撃が続発したのを機に、イスラム教徒の入国禁止を訴えたのがよい例だ。
【参考記事】「イスラム教徒の入国禁止」を提案、どこまでも調子に乗るトランプ
トランプの躍進と並行して、イスラム教徒に対するヘイトクライム(憎悪犯罪)の件数も2001年9月11日の同時多発テロ以来最多を記録した。
「9.11のときよりひどい」
「イスラム教徒を取り巻く環境は当時より悪化した」とスフィアンは言った。「9.11以降は悲しみに包まれみんな傷ついていたが、今は当時と違う。仕組まれたように憎悪がはびこり、アメリカ社会がまるっきり分断されてしまった」
【参考記事】トランプに熱狂する白人労働階級「ヒルビリー」の真実
テロの脅威からアメリカを守る救世主を自称するトランプは、事あるごとにイスラム教徒がアメリカの安全保障を脅かしているとやり玉に挙げた。アメリカにいるすべてのイスラム教徒にデータベースへの登録を義務付けるという主張は、多方面から批判を受けて撤回を余儀なくされた。だがイスラム教徒への監視を強化して、怪しい動きを察知すれば裏付けなくモスクを捜査させるという主張については撤回を拒んでいる。
「前例のない手法で対処しなくてはならない」と、去年の11月に米ヤフーニュースの取材に応じたトランプは言った。「戸惑う人も出てくるだろうが、今はだれもが安全を最優先にするべきだと感じているはずだ」
全米のモスクの関係者やムスリム団体の多くは、トランプが掲げた一連の反ムスリム政策を現実には実行しないとわずかな希望を抱く一方、彼は本気だと受け止めるしかないと感じる人々もいる。
「トランプは自分がやると言ったことを必ずやる」と、首都ワシントンのマスジド・ムハンマド・モスクでイマームを務めるタリブ・シャリーフは言った。「彼はイスラム教徒が市民権を獲得するのを難しくして、イスラム教徒が暮らす地域への監視も強めるだろう。そうしたトランプの政策を後押しする支持者の群衆は、彼なら実行に移してくれると期待を高めている」
アメリカの人口のなかのたった1%に過ぎないイスラム教徒にとって、理不尽で気が気でない大統領選がいよいよ幕を開ける。
ジェイソン・ル・ミエーレ
(International Business Times)
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<若き「青年新政」議員2名の就任宣誓"パフォーマンス"から、デモ隊vs.警官隊の衝突へと発展。彼らはなぜ議員資格を失うようなことを「わざと」やったのか。また、中国政府はなぜ拙劣な対応を取ったのか> (写真は11月6日、騒動の発端となり、抗議デモに参加した梁頌恒〔左〕と游蕙禎〔右〕)
香港でデモ隊と警官隊が衝突する事件が起きた。主催者によると参加者は1万人を突破、一部は中国政府の出先機関である中央政府駐香港連絡弁公室前の道路を占拠しようとする動きを見せた。雨傘運動よ、もう一度というわけだ。6日に始まった抗議活動は8日現在も継続中で、小規模な衝突も起きている。
衝突の発端となったのは悪ふざけのようなパフォーマンスだ。今年9月の立法会(香港議会)選挙では独立派政党の青年新政から梁頌恒、游蕙禎の2人が当選した。10月12日、議員就任宣誓式が行われたが、2人は「Hongkong is not China」と書かれた横断幕を持ち込み、また「CHINA」の発音を「Chee Na」、すなわち「支那」と聞こえるような言い方をした。「支那」という言葉は近代以降の日本で侮蔑的な意味で使われたことは中国でよく知られている。青年新政の言葉もまた差別的なものだと受け止められている。
香港の憲法にあたる基本法の104条は、主要官僚や議員、裁判官など司法関係者は就任時に基本法を守り、中華人民共和国香港特別行政区に忠誠を誓うと宣誓しなければならないと定めている。非親中派にとってはあまりうれしい話ではない。かくして以前から宣誓式は"面従腹背パフォーマンス"の場となってきた。
決められた宣誓の言葉の後に「天安門事件の名誉回復を」と付け加えてみたり、中華人民共和国の部分だけ小声で話してみたり、あるいはわざとらしく咳き込んでみたり、1文字ごとに5秒ずつ沈黙してみたりと、あの手この手の芸が登場している。見逃されたケースもあれば、宣誓のやり直しを命じられたケースもある。
その最新版が青年新政の「支那」宣誓だったというわけだ。いくらなんでもやりすぎだとして親中派のみならず、非親中派からも批判を浴びた。非親中派の中でも青年新政などいわゆる本土派は「香港と中国は別物」という考えだが、伝統的な民主派では「中国共産党は嫌いでも自分は中国人」とのアイデンティティを持つ人が多いだけに批判も当然だろう。
【参考記事】「民主主義ってこれだ!」を香港で叫ぶ――「七一游行」体験記
青年新政にとってはむしろ大成功
だが事態はたんなる批判にとどまらず展開していく。まず香港政府は2人が基本法を遵守しなかったとして議員資格を喪失したと主張、裁判所に審査を申し立てた。行政が司法を通じて立法府の議員を排除する。三権分立を否定するかのような動きに出たのだ。裁判所の審査結果はまだ出ていないが、今度は中国の全国人民代表大会常務委員会が7日、「基本法104条に関する解釈」を決議した。
宣誓は「誠実かつ荘厳に」「正確かつ完全に」行わなければならない、守らない場合には資格を喪失する、宣誓のやり直しは認められない――という内容だ。中国側は基本法の解釈権を行使したと主張しているが、梁頌恒と游蕙禎の2人を議員にさせないとの目的は明らかだ。高度な自治を認めた一国二制度が踏みにじられたとの見方が広がっている。
かくして非親中派による大規模なデモが激化している。民主派からはあくまで平和的な抗議活動をするべきとの呼びかけが出ているが、青年新政や本土民主前線など独立派は民主派を「左膠」(クソサヨク)と批判し、道路占拠を呼びかけるなど勇ましい指示を発している。
せっかく議員になれたのにあんな悪ふざけで議員の資格を失ってしまうなんてもったいない。普通ならばそう思うところだが、青年新政からしてみれば今回の騒ぎは決してマイナスではない。
もともと立法院において独立派は2議席しか持っていない。まじめに議員をやっていてもたいした影響力は行使できないので、パフォーマンスで存在感を示すしか方法がない。悪ふざけのようなパフォーマンスこそが最大の仕事なのだ。ましてや今回は香港政府に三権分立を無視させ、中国に一国二制度を破らせることに成功した。相手に大きな汚点をつけ、香港市民の怒りをかき立てたのだから大成功と言えるかもしれない。
【参考記事】「政治冷感」の香港で注目を集める新議員、朱凱廸とは?
高級百貨店で白菜叩き売りの怪
中国と香港は別物というのが独立派の主張だが、「パフォーマンスを武器にする」という発想は香港のみならず、中国本土でもよくある戦術だ。
先日も友人からこんな写真(下)が送られてきた。場所は天津市の大手日系百貨店の7階レストラン街にある日本風洋食店だ。なんと入り口脇に白菜と大根が無造作に積まれ、叩き売りされている。友人によると、「白菜、白菜、白菜はいらんかね~」と呼び込みまでやっていたのだとか。高級百貨店の中で白菜(中国では安い物の代名詞として使われる)が売られているという異常な状況は多くの人の目を集めていたという。
写真提供:筆者(画像を一部修正しています)
なぜこんなことが起きたのだろうか。洋食が売れないからやけになって白菜を売ってみた......わけではない。答えは上の横断幕を見ればわかる。「日本人が借金を支払わぬまま夜逃げした。誰が私たちを助けてくれるのか」と書かれている。レストランを経営する日本企業が従業員の賃金を支払わぬまま夜逃げしたとの訴えだ。日本まで追いかけて借金を取り立てるのではコストがかかりすぎる。ならばとりあえず騒ぎを起こして百貨店や隣の店舗を困らせ、なんらかの解決策を引き出そうという戦略だ。
「ともかく騒ぎを起こせば問題解決につながるかもしれない。注目を集めれば集めるほどその可能性は高まる。だから見る人が驚くような騒ぎを起こしてやろう」こうした発想は中国ではごくごく一般的なもの。「囲観」(野次馬)という言葉もあるほどで、とりあえずサプライズを起こして野次馬を集めれば力になる、傍観者も、野次馬となって事件を見守るだけで圧力をかけるというアシストができるという寸法だ。
中国しかり、香港政治しかり、裁判やら選挙やらの合法的な紛争解決手段が機能しない場合には、パフォーマンスによる動員が唯一有効な手段ということなのだろう。
【参考記事】「退役軍人がデモ」も「愛人に手紙」のように誤読の可能性あり
共産党はなぜ"悪手"を指すのか
問題は中国政府の拙劣な対応だ。上述のとおり、パフォーマンスによる抗議など中国ではありふれているだけに、どのように対処すれば沈静化するのかというノウハウも蓄積されている。パフォーマンスによる抗議は瞬間的な力はあっても持続力はない。しばらく放って置いて野次馬が消えたところで処理するという「秋後算帳」(収穫後に決済するという意味の言葉。転じて、時間をおいて処断する)は効果的だ。
青年新政にしても、放っておけば過激パフォーマンスが疎まれて支持を失っていく可能性が高かっただろう。誘いにのって議員就任阻止の決議を出したことによって、独立派のみならず自決派や民主派の怒りもかき立て、独立派の存在感を高める結果となった。なぜ中国政府は明らかな"悪手"を指してしまったのか。
「香港をいかにうまく統治するか」という観点では明らかに非合理的な決定だが、それ以上に中国共産党内部の論理が優先されたということなのだろう。独立を目指すと公言し、中国を侮辱するような輩を香港特別行政区の議員にしたままでいれば中国共産党の沽券に関わる、中国共産党指導者が弱腰だと批判されかねないという発想だ。
先の見えない混迷の季節を迎えた香港。警察による催涙弾の使用などがあれば、2014年の路上占拠運動「雨傘運動」のような事態へと発展してもおかしくない状況だ。独立派と中国共産党のマッチポンプはどこまで続くのだろうか?
高口康太(ジャーナリスト、翻訳家)
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中国の家電メーカー小米科技(シャオミ)は、ブロックのパーツを組み立てるとロボットになる玩具「シャオミ・トイ・ブロック」を発表した。ニュースメディア「マッシャブル」などが報じている。
「レゴ風」の組み立てロボ、変形も可能
トイ・ブロックは中国で11月11日、499元(約7700円)で発売される予定だ。「レゴ」ブロックの玩具のように、ブロックのパーツを組み立てると完成するロボットで、両腕が機銃のようなデザイン、両足部分にモーターとタイヤを装着したスタイルが基本形。ほかに、二足歩行の恐竜のスタイルや、双発プロペラ機のスタイルにも"トランスフォーム"できる。
スマホで操作、プログラミングにも対応
心臓部には32ビットの「ARM Cortex-M3」チップを搭載。ジャイロスコープなどのセンサー群を備え、自立姿勢を保つほか、複数台のロボットで協調的な行動にも対応する。
アンドロイドOS版の専用アプリが提供され、スマートフォンやタブレットを使ってトイ・ブロックを遠隔操作できる。ジョイスティック・モード、ジャイロ・コントロール、パス・モード(画面上に指で線を描いて走行コースを指定)という3種類の操作モードが用意されている。
さらに、このアプリでは、ロボットの動きをプログラムできる。さまざまな動きのプログラムがモジュール化され、これらのモジュールを画面のGUI上で組み合わせることで、より複雑な動きを指示できるという。
【参考記事】スター・ウォーズの球形ロボトイも作ったスフィロ社の教育向けロボット
過去にはハスブロとコラボした「トランスフォーマー」も
シャオミは今年5月、米玩具メーカーのハスブロと提携し、同社製タブレット「Mi Pad 2」を模した平板の形状から、『トランスフォーマー』のキャラクター「サウンドウェーブ」に変形する玩具を発売した(ただしタブレットの機能はない)。
同社はほかにも、「ルンバ」に似た掃除ロボットや、「セグウェイ」のような立ち乗りスクーターなども販売している。
【参考記事】「テック界の無印良品」シャオミは何がすごいのか
高森郁哉
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先週末、インドの首都ニューデリーの住民たちを恐怖が襲った。町が突然、1月の冷たい冬の霧のようなものにすっぽりと包まれたのだ。だが天気は穏やかで、霧の発生はありえなかった。
霧のようなものは実は煙で、首都圏に住む何百万もの人々はそれを吸い込んだのだ。
不安を感じた住民たちは、先を争うようにマスクや空気清浄機を購入した。多くの人が目や肺の不調を訴えた。健康に関する勧告が出され、特に子どもと高齢者は、外出したり屋外で運動したりすることを控えるよう呼びかけられた。
「デリーの大気汚染は悪化しており、戸外はまるでガス室のような状態だ」。デリー首都圏首相のアルヴィンド・ケジリワルは11月5日の記者会見でそう語った。
【参考記事】計測不能の「赤色」大気汚染、本当に政府が悪いのか
視界不良は終日続き、空気質指数(AQI)によると、汚染物質の危険レベルは安全基準の17倍に及んでいる。
11月7日には、学校は休校となり、自宅勤務を許可する企業も出ている。
煙の背後で責任のなすり合い
一定の季節に発生する大気汚染に、高い湿度と弱風が相まって、デリーの大気汚染は最悪のレベルに達した。アメリカ環境保護庁(EPA)の調査によると、ニューデリーの大気汚染は現在、世界最悪にランクづけされている。
しかしケジリワル首都圏首相に言わせれば、その直接的な責任は、隣接する農業州のパンジャブとハリヤナにあるという。これらの州では野焼きが広く行われているからだ。
両州の農民の大多数は、米の収穫後に残る藁などを焼却処分しているが、それによって有毒なエアロゾルやガスが大量に放出される(藁などから堆肥を作るなどして環境にやさしい手段を用いると次の作付まで時間がかかる上、そのためにかかる設備や費用は農民にとって大きな負担となる)。
【参考記事】赤色警報の中国も仰天、インドの大気汚染
だが両州の政府は責任はデリーの大気汚染にあると言う。確かにデリーは、世界保健機関(WHO)の調査で2014年に世界で最も汚染された都市という「お墨付き」も得ている。
さらにインドの政治家が口にしたがらない最大の原因がヒンドゥー教の新年のお祝い「ディーワーリー」だ。毎年恒例のこのお祭りは今年は10月30日に開催され、何千発もの花火が国内と首都圏各地で打ち上げられた。そして花火が空に打ち上げられるたびに、WHOの安全基準をはるかに超える有害な汚染物質が排出されるのだ。
市民運動の反対も強まっており今年の花火の売上は減少したものの、爆竹を鳴らすことが自分たちの宗教的自由の一部だと考えるヒンドゥー教徒は多い。デリー政府は爆発物の使用を禁じているが、「宗教的会合」のために使用される場合は例外扱いだ。ヒンドゥーの祝祭を規制するのは、政治的にはそれほど危ない行為なのだ。
デリー政府はその代わり、その場しのぎの対策を打ち出してきた。例えば、建設作業の一時的な禁止策や、汚染を引き起こす工場の閉鎖、今年に入ってからは首都圏で2週間にわたって車両の通行規制などだ。
その一方で、長期的な解決策となる公共交通機関の増強や自転車道の整備、工場での自然エネルギー導入などはまだ目処が立っていない。
安心して呼吸をしたいなら、町を離れることが一番かもしれない。
ニミシャ・ジャスワル
PRI's the World
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<中国の指導者の中でも最高位の呼称「核心」を自分に対して使わせるようになった習近平は、かつて毛沢東が歩んだ終身独裁者への道を歩みつつある>
2016年10月27日は習近平にとってかなり重要な1日だった。共産党の機関紙「人民日報」は党の重要会議「6中全会」閉幕を伝える社説の中で、正式に「習近平同志を核心とする党中央」という表現を使った。
「核心」は中国政治の中でとても大きな意味がある言葉だ。中華人民共和国の創建した第1世代の指導者で、独裁者でもあった毛沢東にしてみれば、「核心」の肩書を持つ者は自分一人で十分。ところがその後任者の鄧小平は、自分の呼称に「鄧小平を核心とする党中央」という言い方を使い、さらに後継者として江沢民を指定した後、この称号を江に贈った。しかしその後任の胡錦涛は権威が足らず、江は胡にこの称号を授けなかった。習近平が自分で「核心」の帽子をかぶり始めたことは、彼が「皇帝の夢」へとまたさらに一歩近づいたことを意味している。しかし、この一歩で彼が近づいたのは王の玉座なのか、破滅へ向かう深淵なのか。
彼は外交ではまるで帝国主義のような横暴な政策を進め、多くの隣国との関係を悪化させてきた。同時に国内の外貨準備高が急減する現状を無視して、ややもすれば数十億ドル、あるいは100億ドルを使ってフィリピンとマレーシアなどの国を「買収」してきた。
【参考記事】香港学生リーダーを捕まえる「邪悪な竜」の長い爪
以前の香港映画、特にカンフー映画ではよく「大中華」をたたえる表現が使われた。自然と流れ出る愛国主義的感情は全中国を感動させたものだ。中国で改革開放が始まる前の1950年代、大量の中国国民がまだイギリスの植民地だった香港に密航し、親切な香港人はこの難民たちを受け入れた。2008年の四川大地震で、香港の人々は100億香港ドルを被災地域に寄付した。ところが習近平政権が始まった後、中国と香港の対立は激化し、2014年には「雨傘運動」が起きた。最近はこれまでなかった「香港独立運動」の動きも現れている。
習近平は台湾問題でもかなり失策を犯している。台湾に対して手を差し伸べるどころか恫喝を繰り返し、かえって台湾人の憎しみを激化させ、国民党の惨敗を招いた。その結果、台湾は中国からだんだん遠ざかっている。
中国経済は熱狂的かつ根拠なく楽観的な急成長を経験した後、ついにバブル崩壊の現実に直面しようとしている。ところが習近平が取り組んでいるのは国民の期待する改革ではなく国有企業の強化、さらには計画経済時代への後退だ。
政治面では、習近平は政敵を「消す」一方で自分の腹心を取り立て、民間の反体制派を厳しく弾圧してきた。ある程度大胆な人々さえ、今は習近平の力を恐れてだんまりを決め込んでいる。もともと習近平の政治改革に期待していた知識人は沈黙し、習近平は任期にとらわれず続投していいというムードを高揚する文章が絶えず現れている。
ギリシア神話にナルキッソスという名の美少年の話がある。ナルキッソスは池の水面に映った自分の姿に心を奪われて離れられず、最後はやつれて死ぬ。そして死んだ後、水仙に変わる。習近平は今、自分の皇帝姿にうっとりして、水辺から離れることができない。彼はおそらく毛沢東の後継者の中で、最も終身独裁者になる可能性がある人物だ。ただし、中国共産党の最後の指導者になる可能性もある。独裁で始まり、その崩壊で終わる――独裁者の水仙は美しいだろうか?
辣椒(ラージャオ、王立銘)(風刺マンガ家)