ドナルド・トランプが勝ちました。
世界中のメディアや識者が驚いています。
エコノミストのポール・クルーグマン氏はニューヨーク・タイムズに寄せてこう言っています。
「我々は自分たちが住むこの国をわかっていなかった。オープンで寛容で、民主的な価値観を大切にする人々だと思っていたが、どうやら間違いだったようだ」
このような分析は、私もおそらくそこに分類されるであろう「リベラル陣営」の人間がよくする分析ですが、私はこれ、間違いだと思っています。
Brexitの時も同じでした。「教育を受けてない低所得者層が非合理的な選択をした」と言われました。
今回起きたのは、人々が民主的な価値を軽んじていたのではなく、民主主義の国に住んでいると信じてきたのにあまりにも「非民主的」になってしまった経済の残酷に対して、民主的に意思表明をしたということです。
「アメリカにとって悲劇の日となった」と言いますが、おそらくトランプに投票した人のうちかなりの人たちが、もっと前に「悲劇」を迎えていたのだと思います。
「トランプ支持者たちは自分たちが何をしたかわかっているのか?全てを失うことになるぞ」と言われても、彼ら的には、「もうとっくに失ってるよ。お前らのせいで。お前たちも同じ思いをすればいい」ということでしょう。
ただ、その意思表明のために用意された経路があの金髪トサカ頭の白人至上主義・男権主義的なファシストであったために、ああいう発露になったと見るべきです。
「正義」の言説をリベラル系が独占してきたがために、リベラルの偽善に裏切られ、正義の言説にオーナーシップを感じることができない人たちの力が、「平等」とか「人権」といった価値観を「きれいごと」として拒絶する方向に政治を動かしてしまった。ヘイトがメインストリーム化してしまった。
クルーグマン氏含む「リベラル系」が、そういう状況をちゃんと理解して、バーニー・サンダースを民主党候補にしていたら、トランプ票のいくらかは、スコットランド独立を問う住民投票で表明されたように、サンダースに流れた可能性があると思います(サンダースとトランプのTV討論見てみたかった!)。ただし、米国社会の中年以上の人たちの間では「社会主義的なもの」へのアレルギーが強すぎるので、トランプの勝利は変わらなかったと思いますが)
ただし、これから恐ろしい時代になるということは、おそらくその通りだと思います。
- 白人労働者階級や貧困への転落を恐れる「中の下」あたりが、他の選択肢もない中トランプに流れたことは、たしかに醜いながらも理解できることだとして、問題は、富裕層や「中の上」あたりにもトランプ支持がかなりの数存在することがわかっており、彼らの動機は排外主義、人種差別、貧困層への侮蔑と嫌悪以外の何物でもなく、まさに「醜悪そのもの」です。推測ですが、自ら壁を建てて周囲と隔絶し、富裕層だけが住むことが認められた「要塞都市」の住民と、かなり重なるグループでしょう。
- トランプ自身もこの寄生的な連中に近い存在であり、彼が今後大統領として自ら政策にイニシアティブを採るのであれば、トランプに投票した白人労働者たちを含む、いろんな意味での脆弱層やマイノリティに最も被害が及ぶでしょう。
- つまり、米国社会は正しく根拠のある怒りを表明したが、その表し方が自傷行為的なものになってしまった。
今回の選挙で明らかになったことは、「民主主義を守るのは、民主的な政治制度や手続きではなく、そこで選ばれた指導者が負託に応えて実現する民主的な経済」ということだと思います。
今後、リベラル陣営に求められるのは、新自由主義への根本的な批判であり、経済的弱者の間の連帯を構築することです。
トランプ的な方角から「移民のせいで賃金が下がる」という言説が垂れ流されたら、「賃金を下げてるのは移民ではなく、移民労働者を低賃金で搾取するあなたたち資本家だ」と言うこと。
「移民が社会保障にただ乗りしている」と言われたら、「移民たちは、あなたのような資本家が税逃れしている間にも必死に働いて納税してきた」と反論すること。
これまでCNNやニューヨーク・タイムズはどこまで本気でその努力をしてきたか。
それをせずに、やれ「ガラスの天井を破れ」だの「人種の平等」だのと言っても、なんか白々しいんですよ。
翻って、日本。
メディアの皆さん。「トランプ当選?信じられない」的な顔はぜひやめてもらいたい。
そのショックを、石原や橋下が知事になったときに表現しましたか?
彼らの言ってきたことは、トランプにまったく引けを取りませんよ?
さっきも「欧州の極右政党がトランプ氏当選に祝意」と報じてましたが、「欧州の極右政党」と、現在の自民党主流や「日本のこころを大切にする党」の違いは一体どれくらいありますか?なぜあちらを「極右」と呼び、こちらは「保守」なんですか?欧州では「保守」は「極右」を批判してますよ。
先日、フィナンシャル・タイムズ紙が世界の強権的指導者の一人に我が国の首相をカウントしていましたが、そういう感覚、持っていますか?
胸に手を当ててみれば、我々日本人は米英で起きてることがよーく理解できるはずで、逆に欺瞞に満ちたリベラルだったとしても、クリントンがトランプに接戦できる米国社会の方が、さらに言えばサンダース経由でクリントンを追い詰めた米国社会の方が、まだ健全と言えるのでは?
米英は新自由主義プロジェクトを始めた国。労働組合を破壊し、大企業オンリーの政治をした。その両国でほぼ同時に労働者階級が中指を立てたのは非常に示唆的。日本はこのプロジェクトがかなり遅れて始まったので、経済システムは米英社会ほど壊れていないけど、人権や平等に根ざした足腰が弱いから、米英よりも先に崩れていたと、言えるのではないでしょうか。
まぢで笑いました。安倍、小池、橋下、石原、を称賛してきたと思われる日本のマジョリティがトランプを選んだ米国に落胆する様子が。
沖縄に対する仕打ち、在日朝鮮人に対する仕打ち、移民政策、核の不拡散への取組み、僕にはトランプとの差が見えません。
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だよねー。
ダブルスタンダードもいい加減にしろ、と言いたいところだけど、多分、日本で起きていることをそういう客観的な物差しで見ることすらできていないんだろうね。
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ネットを見ていてこのサイトに行き当たり、読ませていただきました。
この13年間、うつ病で病気休暇を取りながら、なんとか首がつながっています。
職場には、一応「リベラル」を標榜する労組がありますが、はっきり言ってなんの役にも立ちません。むしろ、保守思想を持った個人的な友人たちの方が、「大変やね。けど治る病気やから、一緒にやろうよ。」と言ってくれるくらいです。
どんな思想も、庶民を離れてはありえません。それが良い思想であれ悪い思想であれです。
その日を懸命に生きる庶民は、高邁な思想よりもまずは、その日の衣食住を確保することに心血を注ぎます。
いや、電通の事件を見ていると、衣食住の確保すら、自由であり平等であり人権がないと満足に確保されないないことを、庶民感覚として政治が吸い上げなくてはいけないのです。
しかし残念かな、日本のリベラルは、そこが決定的に弱すぎる。アメリカもそうかもしれませんし、他の国もそうかもしれません。
結局のところ、庶民の暮らしを守らない政治は、見捨てられ崩壊するのではないかと、心底思いました。
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夜間飛行様
コメントをありがとうございます。
私も最近まで高邁な思想で満足していた部類の人間で、それではいかんというのが最近のテーマになっています。
皮膚感覚を大事にしたオルタナティブを紡いでいきたいですね。
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