心のベストテン

なぜPPAPが世界中でバズったかを、音楽的に答えるのは無茶である?

まさかの世界中で大流行しているPPAP(ペン・パインナッポー・アッポー・ペン)。どうしてこの楽曲がこんなに流行ったのでしょうか。柴さんは音楽ジャーナリストの立場からコメントを求められることが多いそうですが、真面目な分析に大谷さんからツッコミが入ります。
芸人、DJとして活躍されているダイノジ・大谷ノブ彦さんと、音楽ジャーナリストの柴那典さんの響きあうナビゲーションをお楽しみください。

ピコ太郎はなぜ世界に広まったのか

大谷ノブ彦(以下、大谷) ピコ太郎、すごいことになってますね。

柴那典(以下、柴) ね! まさかここまで大流行するとは。

 YouTubeの再生回数が日本人初の週間世界1位、ビルボードでは全米77位。日本人としては26年ぶり、松田聖子さん以来のランクインですよ。大谷さんはピコ太郎を見てどう思いました?

大谷 やっぱり最高なのは時間ですよね。尺の短さ。

 動画は1分9秒、実質音が鳴ってるのは45秒。ビルボードの100位以内に入った歴代曲の中で史上最短というギネス記録までとってしまった。

大谷 今の時代って、あらゆるコンテンツが無料で提供されているわけじゃないですか。だから、どんなエンタテインメントもお金をとるというより「お客さんの時間を奪うもの」という考え方で作っていかなきゃいけないと思うんですよ。そういう意味では、すぐ見終わっちゃうPPAPは最強。

 しかもすぐに真似できますからね。そもそもピコ太郎がどういう経緯でブレイクしたかというと、まずPPAPの動画がYouTubeにアップされたのが8月25日で。

大谷 そんな最近だったっけ?

 そうそう。その直後に同じ事務所で元々仲が良かったSKY-HIの日高さんが最初にツイートして、その後MixChannelで、「まこみな」や「りかりこ」といったスター的な存在の双子JKがピコ太郎の真似を始めて、中高生の間に話題が広まっていった。

大谷 いわゆる「踊ってみた」ですね。

 そうこうしているうちに、ジャスティン・ビーバーが「My favorite video on the internet」とこのビデオをツイッター上で紹介した。

大谷 そこいきなり飛躍しすぎでしょ!(笑)

 どうやら「9GAGS」っていう海外のお笑いサイトのFacebook動画が取り上げて、何かのきっかけでそれを目にしたようなんですけどね。ともかくフォロワー数8900万人のジャスティンがツイートしたおかげで、一気にワールドワイドになった。だから海外ではピコ太郎を日本人だと思ってない人もいるんです。

大谷 え? そうなの?

 タイとかインドネシアの人だと思われているらしくて。僕の知り合いでもインドの友達から「こういうのがインドで流行ってるよ」って教えてもらった人がいるくらい。

大谷 パロディ動画も世界中に広がってますよね。

 バラードにアレンジして歌い上げてる人もいる(笑)。

大谷 やっぱりピコ太郎って、韓国のPSY(サイ)がブレイクした時と比べて語られると思うんです。

 というと?

大谷 それまでのK−POPって、ルックスも歌もダンスもサウンドも、どれもアメリカのメインストリームに合わせて完璧に仕上げたものだったわけじゃないですか。でもそれではバズらなかった。その隙に彼らを押しのけて世界的に大ブレイクしたのがPSYだった。

 まさにそうですね。

大谷 これって、やっぱりギミック感があるもの、お笑い要素があるもの、真似しやすいものの方が口コミで広がっていくってことだと思いますね。

 そうそう、僕もPPAPに関してはかなり真面目に分析したんですけど—。

大谷 そうだ! 柴さん、ピコ太郎のネタをめちゃくちゃ音楽的に語ってたじゃないですか。「80年代のテクノサウンドが〜」とか。あれ読みながら大笑いしましたよ。

 プロデュースをしてる古坂大魔王さんのルーツが80年代のテクノポップにある、って解説したんですよね。そしたらファンの方から「違うんです、古坂さんは90年代のテクノも大好きなんです」って指摘が来て。「すいません、勘違いしてました」って本人にツイッターで謝る、という。

大谷 ははははは! その状況自体がおもしろいよ!(笑)。

ヒットの理由は「バットを振り続けた」こと

 でも、今の時代、何が当たるかなんて予想できないですよ。僕自身「なんでピコ太郎はヒットしたのか?」みたいなことをいろんな場所で訊かれたんですけど、正直、答えられなくて。

大谷 答えてるじゃん!(笑) 80年代サウンドがどうこうとか、『5時に夢中!』でもパ行がどうこうとか言って。「やかましいわ!」って(笑)。

 あはははは。でも実際、これはお笑い関係の人もきっと感じてることだと思うんですけど、ネタ自体は昔からよくあるようなものですよね。

大谷 そうなんです。だからネタのクオリティだけを見て「あんなの何がおもしろいんだ」って言う人もいる。それって、今のYouTuberがやっているようなネタを芸人がディスるのと似てるんですよね。「新商品食べてるだけじゃないか、あんなの何がおもしろいんだ」って。
 でも、今の時代にそういう風に笑いの質とかロジックだけで批評したってしょうがないんですよ。しかもそれを芸人が言うこと自体に意味がない。

 そうなんですよね。いつも思うことがあるんですけど、これだけ情報があふれている時代に「あんなのおもしろくない」「何がおもしろいの?」ってわざわざ発言をするのが、一番“おもしろくない”。

大谷 そのとおり! 間違いない!

 だって、それって自分が「おもしろくない」と思ってることへのアテンションを高める行為なわけですからね。だから、僕らが声を大にして言いたいのは「おもしろくないと思ったら黙っとけ!」ってこと(笑)。

大谷 そうそう、こないだ思ったんですけど、この前ピースの綾部が拠点をニューヨークに置いて活動するっていう話があったじゃないですか。
NY挑戦のピース綾部、海外逃亡説を否定 ピコ太郎には羨望も | ORICON STYLE

大谷 その会見の時に「英語もできていないのに大丈夫か」とか、大真面目に批判している記者がいて。

 「綾部、海外で通用するのか」みたいな記事にもなってましたね。

大谷 そこじゃなくて、「トム・クルーズが呼んでる気がした」って方がおもしろいじゃん! そこ取り上げろよ!って思うんですよ。で、こないだ千鳥の大悟が「2ヶ月くらいで帰ってきたら、めっちゃおもしろいっすね」って言ってて。

 ははははは!

大谷 そっちなんですよ! 「あんなのお笑いじゃない」とか「英語ができなきゃだめ」とか、そういう批判を言ったってしょうがない。世界に挑戦する人はもっとフラットなんだよってことを思いますよね。

 「とにかくやる」ってのも重要ですよね。ピコ太郎だって、今回PPAPがここまで当たったのは間違いなく偶然だと思うんですよ。

大谷 そうですよね。別に最初から世界なんて狙ってない。

 でも、古坂さん自身はヒットを飛ばすまで20年以上バットを振り続けてきた。

大谷 そうそう!

 底抜けAIR-LINE時代の1999年に爆笑オンエアバトルで「テクノ体操」というネタをやったり、NO BOTTOM!というテクノグループを結成したり、音楽とお笑いを融合した芸をずっとやり続けてきたわけで。
 ヒットはたまたまかもしれないですけど、そのためには、やっぱり打席に立ち続ける、バットを振り続けるっていうのが何より大事なんだと思います。

エンターテイメント業界に新しい波がきている

大谷 それにしても、今の時代はすごく希望がありますよね。世界というマーケットが目の前にあって、個人が発信したことが届いてしまう。

 しかもPPAPはSpotifyやApple Musicで全世界に配信されているわけですからね。YouTubeも再生回数で広告料が入るんですけど、それ以上に収益になる。昔は芸人の一発ギャグなんてお金にならなかったんでしょう?

大谷 テレビで飽きられたら終わりですからね。

 でも、今はちゃんと収益が還元されるようになった。たぶんこれを最初に実現したのはムーディー勝山の『右から来たものを左へ受け流すの歌』だと思うんですけど—。

大谷 でもあれ、2億くらい稼いだって言われてますけど、ここだけの話、あいつあんまりもらえなかったそうですよ。

 えーっ!(笑)。

大谷 そこは“よしもとの闇”ってことで(笑)。噂に聞いたのは「別に渡してもいいんやで? だけどこの先一切仕事がなくなるのと、ちゃんと定期的に仕事がもらえるの、どっちがええ?」って。

 ははははは!

大谷 こういう話をしてると、結局「芸能事務所ってなんなの?」って話になっちゃうんですけどね。

 そもそも日本の芸能界のシステムって世界的にはすごく特殊なんですよね。アメリカとか海外には「エージェント」という仕組みがある。スケジュール管理とかのマネージメントをする「事務所」の他に、アーティストや俳優が作品ごと、期間ごとに代理人としてエージェントを雇う。

大谷 ハリウッドがそうですよね。

 最近は日本でも編集者の佐渡島庸平さんがコルクというエージェント会社を立ち上げて、作家やアーティストのエージェントをやってますよね。僕は日本でもそういう仕組みが一般的になっていくべきだと思います。

大谷 ロバートの秋山がやってる「クリエイターズ・ファイル」がまさにそれですね。あいつはよしもと所属だけど、コルクと一緒におもしろい企画をやってる。

 あれ、めちゃくちゃおもしろいですよね! 毎回どっかの業界にいそうなクリエイターになりきってる。

大谷 あれ、1年かけて動画を公開して、その後に、DVD化、書籍化したんですよ。しかも今はそのキャラクターでCMタイアップをやってる。

 はははは! 天才的だなあ。

大谷 この企画をプロデュースしているのはコルクの佐渡島さんなんですけど、こないだ佐渡島さんと対談したら、おもしろいことを言ってたんです。
 実際に一緒にやり始めて佐渡島さんも気付いたことがあったらしくて。広告代理店が入って企業とのやり取りを始めたら、よしもとってめちゃくちゃ仕事のスピードが速いんですって。

 へ〜!

大谷 その速さはエージェントの自分たちでは真似できないと言っていて。だからこれからは、アーティスト本人と芸能事務所とエージェントと、お互いのいいところをうまく利用しあっていくことになるんじゃないかなって思いますね。

 たしかに。今まさにエンターテイメント業界にイノベーションが始まってるのは間違いない気がしますね。

次回「宇多田ヒカル『Fantôme』の衝撃」へ続く

構成:田中うた乃


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大谷ノブ彦 /柴那典

「音楽についてパァッと明るく語りたい! なぜなら、いい音楽であふれているから!」。ハートのランキングを急上昇しているナンバーについて、熱く語らう音楽放談が始まりました。
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コメント

monaken 売り方やマネージメントの変化って最近話題の印税で揉めたミュージシャンとは対極の話だなぁ…。 29分前 replyretweetfavorite

hyroaky_ ヒットの理由は「バットを振り続けた」こと 柴那典 @shiba710 /大谷ノブ彦 @dnjbig https://t.co/8vXiMNU32s 約2時間前 replyretweetfavorite

hilbert_d 【はてブ新着ゲーム・アニメ】 約3時間前 replyretweetfavorite