トヨタ生産方式の主題とその成果
2016年10月28日
ビジネスシーンでよく耳にする『トヨタ生産方式』という言葉ですが、この正確な意味をご存知でしょうか? 誤った理解をしている人も少なくありませんし、しかも、そこから『ジャスト・イン・タイム』、『カンバン方式』、『自働化』、『5回のなぜ』、『カイゼン』、『多能化』、『平準化』などの数多くのキーワードが派生していて、その用語の多さが理解を阻害している面もあります。
そこで、ビジネスを考える上で欠かせないトヨタ生産方式の正しい意味についてまとめてみました。
大量生産方式とトヨタ生産方式
トヨタ生産方式とはひと言でいうと『無駄の徹底排除』です。これはかつて国内の自動車市場がアメリカの自動車メーカーの独壇場だったころ、欧米で確立していた大量生産方式に対抗するために生み出した方法論です。大量生産方式は市場の拡大に合わせて大量の商品を作っていく方式で、過去の統計から今後どのくらいの販売が見込めるかを予測して早めに生産を開始します。
こうすれば、商品の在庫がなくなって売るものがないという機会損失を回避できるからです。ところが、市場が突然冷え込み、商品が売れなくなるとたちまち在庫の山となり大きな損失を生んでしまうという弱点があります。
それに対し、トヨタ生産方式は、無駄な在庫を作らず、コストをとことんまで削減する方法をとっています。予測をしてあらかじめ生産計画を立てるのではなく、実際に今必要な分だけ作るという考え方です。
そうすれば、確かに不良在庫を抱えて赤字になるというケースはなくなりますが、今度は商品が完成するまでのタイムロスによって機会損失が生じてしまうというリスクが生まれます。そこでトヨタ自動車が編み出したのが、『ジャスト・イン・タイム』という生産方式であり、『かんばん方式』という手法です。
無駄を省くための『ジャスト・イン・タイム』とその要となる『かんばん方式』
『ジャスト・イン・タイム』とは、「必要なものを必要な時に必要な分だけ作る」ことを意味します。しかも、大量ロットの生産を否定し、無在庫経営を目指しながらも注文から納品までの時間が長くなって機会損失を起こさないようにさまざまな工夫を取り入れているのが特徴です。
例えば、販売動向を常に細かく捕捉し、その情報をもとに生産商品を素早く変更し、同一生産ラインで多車種を製造する混流生産を実施するのです。そうすることで、同一ラインにおいて、ある時は大量に車が製造され、ピークを過ぎると稼働率が落ちるといった事態を防ぎ、生産の『平準化』を行うことにつながります。
しかし、それでも、生産現場では売れ行き不調や故障などのアクシデントがあると生産が予定通りに進まなくなる場合があります。そうした時に、部品を生産する前工程の担当が当初の計画通りどんどん部品を生産して、自動車を製造する後工程に届けていては、工場は無駄な部品の山となってしまうだけです。
それでは、『ジャスト・イン・タイム』の理念からは遠のいてしまいます。そこで、トヨタ生産方式の要ともいうべき、『かんばん方式』が登場します。
『かんばん方式』では前工程から送られてきた部品を使用する際に取り付けられていた表示カード(かんばん)を外します。前工程はそれ引き取り、表示カードに書かれている部品だけ用意して後工程に届けます。このサイクルを続ければ生産工場には使用した部品だけが補充され続けられ、無駄な部品が貯まるのを防ぐことができるというわけです。
さまざまな無駄の削減方法
トヨタ生産方式の主題は無駄を省き、コストの削減をすることにあります。しかし、無駄とは過剰生産や不良在庫だけから生まれるものではありません。生産上のトラブルも作業を滞らせ、無駄なコストを生む原因となります。
そこで、トヨタが取り入れたのが、『5回のなぜ?』です。これは何か問題が起こった時にそれがなぜ起こったかを繰り返して問いかけることで根本的な原因を掘り下げていくという手法です。
例えば、ネジが締められていなかったというミスがあったとすると、
「ネジが締められていなかったのはなぜか?」→
「ネジが欠品していた」→
「欠品していたのに作業が止まらなかったのはなぜか?」→
「センサーが壊れていた」→
「なぜセンサーが壊れていたのか?」→
「経年劣化によるもの」→
「なぜ定期検査の時に気が付かなかったのか?」→
「点検リストに入っていなかったから」
といった具合です。
問いかけは何も5回とは限らず、真の理由にたどり着くまで行います。こうして、理由を掘り下げる習慣を身につけることでミスについて自覚的になり、トラブルを起こす頻度が少なくなっていきます。
ただ、この手法を安易に使用すると、単なる犯人捜しや個人への責任の押し付けに終始してしまう可能性があるので、必ず熟練者と一緒に行うことが大切です。
その他にも、不良品が出たら機械が停まる仕組みを作り、無駄な生産をしない『自働化』、上の指示ではなく、現場のスタッフが中心となり、知恵を出し合って問題解決を図っていく『カイゼン』、スタッフのひとりひとりが専門家になるのではなく、複数のスキルを身につけることで互いをカバーし合う『多能化』など、無駄を省いてコストを削減する知恵がトヨタ生産方式の中には詰まっています。
そして、その結果としてトヨタ自動車は世界を代表する自動車メーカーにまで成長し、その方法論は世界中の企業から注目されるまでになったのです。
あらゆる分野に応用可能なトヨタ生産方式
トヨタ生産方式の無駄の削減という考え方は製造業だけでなく、あらゆる業種や業務などに幅広く応用が可能です。その方法論はあなたの人生そのものを充実したものへと変えていく可能性さえあります。そこで、トヨタ生産方式をじっくりと学習し、その上で、一度自分の仕事や生活を見直してみてはいかがでしょうか。きっと得るものがあるはずです。