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車内の化粧は誰に迷惑なのか?

2016年10月28日(金)

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 何十人もいる出演者の一人に、大麻で捕まった容疑者が含まれているのだとして、一体そのことで誰が迷惑を被るというのだろう。あるいは、その容疑者が映っている場面を放送することで、われわれの社会のどの部分が傷つき、毀損され、危機に陥るというのだろうか。

 こんなバカなことが起こるのは、クレームに対応する立場の人間が、クレーマーに対して毅然と対応する気力を持っていないのか、でなければ、苦情をはねのける説得の言葉を用意できていないからだ。そして、彼らは、視聴者の総数からすれば0.1パーセントにも満たない卑怯なクレーマーの声に屈して放送を楽しみにしている何十万人ものファンを裏切っている。なんとも愚かな展開ではないか。

 公共交通機関は、多様な人間を乗せて走るものだ。
 「多様な」というのはつまり「他の乗客に負担をかける乗客を含んでいる」ということだ。

 ベビーカーを押す母親は、通勤客にとって、迷惑な乗客だ。
 しかしながら、迷惑だからという理由で乗客を排除したら、電車は電車ではなくなってしまう。

 とすれば、マナー広告が発信するべきメッセージは、
 「ベビーカーは迷惑にならないように、車内では折りたたむように」
 というお話ではなくて、
 「ベビーカーと同じ車両に乗る乗客は、ベビーカーのために力を貸してあげましょう」
 であらねばならない。
 杖をついて歩く人間でも、車椅子移動者でも同じことだ。

 公共交通機関は、迷惑な乗客を折り込んだ上で運行されなければならない。
とすれば、電車に乗る人間は、他人の迷惑をいやがるのではなくて、同じ車両に乗る乗客の負担を分かち、移動や乗車が困難な乗客を助けなければならないはずなのだ。

 もちろん、そんなことは乗客のほとんどが分かっている。
分かっていても多くの人が協力できないのは、日本の通勤時間帯の電車があまりに混みすぎているからだ。
そして、スペースがないという物理的な問題を「マナー」で解決しよう、というのは、根本的に方向が間違っている。

 ベビーカーは錦の御旗ではない。だが、まずはお互い、荷物扱いされていることを怒るべきで、荷物どうしで八つ当たりしあっても仕方がない。

 その意味で、化粧をする程度のほんのささいな迷惑を、踊り付きで糾弾してやまないあの広告の凶悪さは、何度強調しても足りない。まあ、そこがギャグなんですということなのかもしれないが。

 結論を述べる。マナー広告は、むしろ“迷惑”を歓迎するマナーを啓発しないといけない。

 最大の問題は、人間に荷物のマナーを強要する日本の都市構造や勤務体制にある。だからといって心の底から荷物になっていいものなのか。

 わたくしどもは迷惑をもたらすお客様を歓迎します、と、ウソでも良いからそう言うのが、大人のマナーってものだぞ。

本を読んでいる人は気にならないのに化粧は気になる。
結局、見慣れているかどうかだけの問題なんでしょうか?

 全国のオダジマファンの皆様、お待たせいたしました。『超・反知性主義入門』以来約1年ぶりに、小田嶋さんの新刊『ザ、コラム』が晶文社より発売になりました。

 安倍政権の暴走ぶりについて大新聞の論壇面で取材を受けたりと、まっとうでリベラルな識者として引っ張り出されることが目立つ近年の小田嶋さんですが、良識派の人々が眉をひそめる不埒で危ないコラムにこそ小田嶋さん本来の持ち味がある、ということは長年のオダジマファンのみなさんならご存知のはず。

 そんなヤバいコラムをもっと読みたい!という声にお応えして、小田嶋さんがこの約十年で書かれたコラムの中から「これは!」と思うものを発掘してもらい、1冊にまとめたのが本書です。リミッターをはずした小田嶋さんのダークサイドの魅力がたっぷり詰まったコラムの金字塔。なんの役にも立ちませんが、おもしろいことだけは請け合い。よろしくお願いいたします。(晶文社編集部 A藤)

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「車内の化粧は誰に迷惑なのか?」の著者

小田嶋 隆

小田嶋 隆(おだじま・たかし)

コラムニスト

1956年生まれ。東京・赤羽出身。早稲田大学卒業後、食品メーカーに入社。1年ほどで退社後、紆余曲折を経てテクニカルライターとなり、現在はひきこもり系コラムニストとして活躍中。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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