■現実とヴァーチャルを混ぜること
──「AR performers」(以下、ARP)以前にも、内田さんの作られてきたゲームでは『ラブプラス』でのRTC(リアルタイムクロック)システム(*1)、『ときめきメモリアルGirl's Side』での「ボーイズルーム」など、現実とリンクしたシステムへの志向がおありだったのではと思います。最初に「現実とゲームをリンクさせること」を意識されたのは、なにがきっかけだったのでしょうか。
(*1)RTCシステム:現実の季節や時間と連動してゲーム内の世界が変化していくシステム。
内田 ゲーム内の時間と現実の時間を仕掛けとしてリンクさせようと思ったきっかけは、おそらく《とんがりボウシ》シリーズなんですが、その以前からずっと、自分と同一の地平にいてくれるような存在をつくりたいということを考えていたようなところがあります。自分の生活とダブってくる面白さということで、RTCにトライしたということもありますね。『ラブプラス』でも、自分の言動によってキャラクターが自分の好みになったり、ならなかったり変化してくるというシステムを採用しましたが、やはり自分と同一地平上にいてほしいというような、そういう願いが昔からありました。
──そういったこれまでのゲームは画面の中で完結するものだったと思いますが、このたびARPを立ち上げるにあたって、ARというジャンルを選ばれたのはなぜなのでしょうか。
内田 ARという言葉が世の中で広く使われ始めたのは六、七年くらい前かと思うんですが、国内で最初に具体的に登場したのは「セカイカメラ(*2)」だと思うんですね。
(*2)セカイカメラ:2008年に公開された、スマートフォン上で動作するソフトウェア。アプリを起動すると、カメラで映し出された目の前の建物などに「エアタグ」と呼ばれる情報が表示される。
実際の空間のなかに必要なだけヴァーチャルなものを置いてしまうという手法を見て、「この手があったか!」というような衝撃がありました。そういう手法は、ゲーム内ではなかなか実現しづらかったんですが、ゲームの外、たとえばプロモーションの施策などでやってみたりと、それから頻繁に試すようになっていったんです。
元々、ゲームをプレイしていただいたときに、お話のなかだけのことにしないで、プレイヤーさんの経験として記憶に残したいというもくろみが昔からありました。ゲームの中に実際の風景や時間を取り入れて、ゲームのハードを持って同じ時間に現地に行ってプレイをするというような試み(*3)をやったりもしたのですが、そうするとゲームの中では描ききれない風の音や匂いとか、そういったものが記憶には補完されるわけですよね。
(*3)ゲームのハードを持って同じ時間に現地に行ってプレイをするというような試み:2010年の夏に開催されたイベント『熱海ラブプラス現象(まつり)』。市内の一部店舗・施設に『ラブプラス+』とDSを持ち込んで利用すると特典が受けられる、ARマーカーが市内各地に設置されておりヒロインと写真が撮れるなど、画期的なイベントだった。
なんとか、現実の経験とヴァーチャルのストーリーやキャラクターを混ぜてしまって、お客様の脳みその中の特殊な場所に収められないかなと思っていました。そういうことを考えたとき、ARというのは面白い手法だなと思いましたし、直感的に自分が欲していることに近いな、と思いました。その延長でARPをやっている感じですね。
——ARPは、今まで手がけられてきたソフトではなく、ライブをメインとしたコンテンツですね。
内田 以前ときメモGSで「デートに行こう!(*4)」というイベントをおこなったんですが、あれもただ映像を見ておしまい、というようなものにしたくはなかったんですよね。
(*4)「デートに行こう!」:2013年3月に開催された『ときメモGS』シリーズのイベント。画面に映し出されるキャラクターとデートしながら、出現する三択を観客が選び、それによって物語が展開していくというスタイルだった。
「デートに行こう!」は、キャラクターとデートに行くという、いわばごっこ遊びから始まって、そこでお客さんに三択のなかからキャラクターの行動を決めてもらって、一期一会の体験をしていただいた。そのとき、その部分に対して、お客さんから大きな反応をいただけて、「やってよかった!」と思いました。その頃から、架空のキャラクターとの、映像の再生ではない一期一会の体験をどうすれば実現できるかと考えていました。僕は2Dのキャラクターを今まで手がけてきて、そこについてはそこそこ評価をいただいていたんですけれども、その2Dのキャラクターを軸に、一期一会の体験を提供することに特化してなにをやるべきなのかということを考えたときに、ステージで大勢のお客さんとキャラクターたちが生で空間を共有してもらうことができそうだと思ったんです。ですが、コストもかかりますし、なかなか会社の経営陣に理解していただくのは難しくて。でも、何とかしたかった。いわゆる二次元のキャラクターだからこそ、実際のタレントさんではできないこともいっぱいある。そういう意味では、単純に現実を模倣するのではなくて、2Dの世界じゃないとできないことを現実空間でやるということによって新しいエンターテイメントの道になるのではないかなと思っていましたから。
■ARで「ひとりの人間」をつくる
──ARPでは、お披露目ということで四月にβライブステージが開催され、シンジと、レイジ&ダイヤからなるユニット「REBEL CROSS」がパフォーマンスをおこない、大成功のうちに終了しました。
2016年4月にベルサール秋葉原にて行われた、ARPのベータ版ライブ。
シンジとREBEL CROSSという二組のパフォーマーが対決した。
スマホの応援アプリを使って、コメントを投げたり、花火を出したりといったステージ演出に入っていけるシステムを採用。
観客の行動によって、最終的に応援ポイント数が高かったアーティストを勝利とした。
シンジはARPの最初のアーティスト。優雅でスタイリッシュなパフォーマンスが得意。
REBEL CROSSはレイジとダイヤ、男性二人からなるユニット。クールかつロックなパフォーマンスが身上。
——少々テクニカルなことをうかがいたく存じます。あれは実際に人が後ろで動いているのでしょうか?
内田 はい。簡単に言うと、人形浄瑠璃なんですよ。いろいろな人がいて、表情を動かす人、身体を動かす人、声を入れる人、ダンスを踊る人がいる。何人かでひとりのキャラクターをつくりあげているんです。
──シンジにしかない癖、みたいなのも当然ながらあるんですね。
内田 そうですね。それぞれにチームシンジ、チームレイジ、チームダイヤと呼ばれる人たちがいて、当然僕もそこに混ざってキャラクターの打ち合わせを綿密にして、生でパフォーマンスをするということをやっていまして。なので、ひとりひとりのチームメンバーの個性というものがいやがおうでも入ってくるんですね。完全に作られてしまったものを再生するだけではなく、その場でアドリブ的に作られるものなので、みなさんの個性が絶対に入ってきて、ひとりのキャラクターがつくられていくというのが非常におもしろくて、感動的ですらありました(笑)。リハーサルを重ねるうちに、みんなツーカーになってきて、ひとりのキャラクターとしての完成度があがってくるんです。
──βライブでの反応はどのようなものだったのでしょうか。
内田 来ていただいたお客さんに感じていただいた愛着みたいなものの勢いがものすごかったですね。始まる前はみなさん、やっぱりちょっと半信半疑だったんですね。おそらく、「いくつかモーションやボイスが用意されてて、スイッチで良い感じのやつが選ばれて再生されるんだろう」と想像されていたと思うんですが、キャラクターたちがきょろきょろしてお客さんと目があって、話しかけたり指さしたり名前を呼んだりするのを見ると、みなさんから次第にどよどよと、どよめきが(笑)。そこからの盛り上がり方がすごかったです。一瞬で「今そこに居る人物」と認識して、みなさんが反応してくれたんですよね。それを目指して作っていたわけなので想定外ということではないんですが、予想以上の反応をいただけましたね。生で、彼らが初めて人前に出る瞬間に立ち会えたということが、みなさんの愛着にも結びついたんでしょうし、初舞台でドキドキしているキャラクターたち、ちょっと挙動不審でステージ慣れしていない感じを目の当たりにされて、「あっ、こいつらいいな、応援してやろう」と思っていただいたというのもあると思うんですが。実際のタレントさんのデビューに居合わせたような経験をみなさんが持って帰っていただけたんだなと思って、すごく嬉しかったですね。
βライブにて、ファンの声援に応えるシンジ
——みなさんが、いざβライブに行ってみて、「本当にいるんだ!」というような反応をされたのだと思うんですが。
内田 そうなんです。ツイッターでも「シンジ、いた!」というものがあって(笑)、それがすごく嬉しかったですね。シンジが何を言うかわからないし、お客さんの側だってノリが悪ければステージ上からつっこまれるかもしれない(笑)。そういう「ライブステージの緊張感」があるのは、2Dキャラクター史上ではおそらく初めてだと思うんです。それは、みなさんにとっても新鮮に感じていただけると思いますし、刺激的だろうと思います。
(後半「ときめきの、さらに向こう側へ。」につづきます!)
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