スクープ!!衆院補選東京10区の鈴木庸介候補の応援から突如手を引いた連合東京!「結局は『野党共闘』になっている。だから『応援を控えるぞ』」!?連合の本音に迫るべくIWJが直撃取材! 2016.10.22

記事公開日:2016.10.22 テキスト
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(文:岩上安身 取材協力:原佑介・城石エマ)

 福岡6区とともに注目を集める東京10区の補選。豊島区と練馬区の一部からなるこの東京10区は、もともとは小池百合子氏の地盤である。小池氏の都知事就任によって空いた議席をめぐり、都知事選の時から小池氏を応援してきた、自民党公認の若狭勝候補と、民進党の鈴木庸介候補が競いあっている。

 「競いあっている」とは言っても、先の新潟県知事選で、市民が野党共闘して支えた米山隆一氏が劇的な逆転勝利をおさめたのとは対照的に、補選では野党候補の劣勢が伝えられている。

 新潟県知事選との違いは、その理由は誰の目にも明らかである。民進党を除く野党3党(共産、自由、社民)が共闘して闘った新潟県知事選と違い、補選では東京、福岡ともに野党間で政策協定も結んでおらず、野党3党も候補者への推薦を出していない。つまり、事実上民進党が単独で擁立した候補者なのである。

 これは民進党が独自候補の擁立にこだわったためだが、民進党候補が他の野党と協力することなく単独で自公候補と渡り合えるというのであれば、衆参の両院で3分の2以上の議席を改憲勢力に明け渡すような惨状は招いていなかっただろう。

 なぜ民進党は野党共闘に二の足を踏むのか。かたくなに「野党共闘」を拒んでいるのは誰なのか。鍵を握っているのは、民進党の最大の支持母体「連合」である。

 10月23日の投開票日まであとわずか2日というこの時期に、鈴木候補の選対事務局の舞台裏で「異常事態」が起きている、という情報が飛び込んできた。選対に加わっていた連合のスタッフたちが、突如、鈴木候補の応援から手を引いてしまったというのだ。

 IWJの取材に応じた連合東京の担当者は、「野党共闘」を認めないという連合の姿勢を明言し、同時に鈴木庸介候補に対して、選挙戦最終盤で応援を手控えた事実を認めた。

民進党・鈴木候補の主張「今の小池さんブームに勝てない。だったら逆に野党共闘じゃないほうが闘える」

 連合東京はなぜ、選挙の最後の最後の場面で、鈴木候補を突き放すような挙に出たのか。

 事の発端は10月20日、「野党共闘」で安倍政権と対峙しようとする共産、自由、社民の野党3党などが池袋駅前で開催した、鈴木庸介候補を応援する大規模な合同街宣だった。

 「勝手連」的なこの合同街宣では、共産党・志位和夫委員長、自由党・山本太郎共同代表、社民党・福島みずほ副党首など、そうそうたるメンバーがマイクを握り、大勢の聴衆を集めた。この街宣には民進党の安住淳代表代行も登壇したが、なんと、肝心の鈴木候補はその場に姿を現わさなかったのである。

 他の野党の党首が勢ぞろいして応援しているというのに、応援されている当の本人が顔を出さない。異様な光景である。

 これには野党共闘を支持する市民も驚きと怒りを隠せず、ネット上では、「勝つ気がないのか」といった厳しい声が溢れかえった。

 いったい鈴木候補本人は何を考えているのか。池袋での合同街宣の約2時間後、鈴木候補は東京・豊島区の要小学校体育館で開かれた個人演説会に姿を見せた。集会後、鈴木候補はIWJの直撃取材にこうこたえた。

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 「今回の闘いに関しては、やはり若狭さんと僕の闘い。この前、(対立候補の)若狭勝さん、小池都知事、安倍総理が並び立ったが、あの絵はすごい。あの絵には、こっち(野党)が立ったとしても勝てない。だから、そこ(野党共闘)に関しては躊躇したというのが正直、大きい」

 さらに鈴木候補は、合同街宣への参加要請は「もちろんあった」と認め、「絵と絵の闘いでは、今の小池さんブームに勝てない。だったら逆にこの(野党共闘の)絵がないほうが十分闘えると思った」などと、野党各党の党首がずらりと並んで自分を応援した合同街宣の場に顔を出さなかった「理由」を語った。

 しかし、これはいくら何でも不自然な理屈である。選挙中、自分を応援してくれる人が一人でもいたら、それが誰であれ、駆け寄って頭を下げ、握手を求めるのが「普通」の候補者だ。一票でも多く、自分への票を獲得したいと思うのが、候補者の自然な心理ではないか。

 NHKの報道出身の鈴木氏は、テレビマンがよく使う「絵になる」などという言葉を用いて、他人事のように語っているが、その表情はいかにも苦しげである。そもそも、選挙戦略とか、十分に闘うための選挙作戦などというレベルの話以前に、自分を応援してくれる人間に、素直に頭を下げて、感謝をあらわすことができなければ、一社会人としても失格だろう。

 鈴木候補は、そんな非常識で、礼儀知らずの、変人なのだろうか?

 私は、告示直前の10月9日、鈴木候補に直接、単独インタビューを行っている。私が見た鈴木氏は、折り目正しい青年然とした人物(本当は40歳だが、ずっと若々しく見える)で、30代前半に、「ニート」となり、何もできなくなった一時期があることを、初対面の私相手に包み隠さず告白し、涙を流していた。

 あれが「絵になる」ことを考えての「戦略的落涙」だったとは、ちょっと思えない。そもそも涙を流す姿は、「十分闘える絵」になどなっていない。「絵になる」ことを計算して、すべてソロバンづくで行動できるような器用な人物とは、到底見受けられないのである。

 私のインタビューにおいても、鈴木氏は共産党と距離を置いていることをしきりに強調していたが、その共産党は独自の候補者をおろし、鈴木氏の応援に回っている。そうした共産党の姿勢に、「感謝している」と言いつつも、しきりに突き放そうとする姿勢は、いかにもぎくしゃくとしたものだった。

「野党共闘」に「危機感」を抱いた連合東京が、鈴木候補の応援から手を引き、揺さぶり!?

 野党共闘より、単独で挑んだほうが闘える――鈴木候補のこの主張が現実離れしたものであることは言うまでもない。同時にこの現実離れした考えは、民進党の現執行部の方針でもある。

 自分を応援してくれる他の野党党首らを袖にして、合同街宣に顔も出さず、挨拶もしなかった鈴木候補は、党執行部の意向に忠実に従ってみせたわけである。

 そんな「忠実」な鈴木候補に対し、民進党の最大の支持母体である「連合」が、なおもダメ押しをするようにプレッシャーをかけている、という情報が入った。

 鈴木候補の選挙事務所に応援のスタッフを送り込んできた連合東京が、選挙の最終盤になって、スタッフを引き上げた、というのだ。しかもその理由が、野党の合同街宣に不満を募らせたため、というのである。

 事実であればことは重大である。連合が鈴木候補の選挙戦に強い負の影響力を行使し、鈴木候補の当落など二の次と言わんばかりに「野党共闘」の実現を阻止しようとやっきになっていることになる。しかも、鈴木候補は党執行部と連合の意向に「忠実」に従って、合同街宣への参加を見送っているのに、それでもなお気に入らず、ダメ押しをかけるかのように応援から手を引いていることになる。尋常ではない。

「結局は野党共闘になっている。だから『ちょっと(応援を)控えるぞ』、と」連合がIWJの取材に回答!民進党への圧力の実態!

 事の真偽を確かめるべく、IWJは合同街宣の翌21日、連合東京に直撃取材した。

 「連合本部ともやり取りする中で、引き上げたというより、少し(応援を)控えた程度です。推薦自体は取り消していないし、支援は継続しています」

 担当者の連合東京・小林氏は、取材にあたった原佑介記者の質問にこたえて、応援スタッフを「引き上げた」という表現には難色を示したものの、選挙戦最終盤になって応援から手を引いた事実は認めた。

――なぜ応援を控える必要があったのか?

小林氏「前々から『野党共闘』すべきでない、というのが連合のスタンスです。『そもそも政策が違う政党と組むのはどうなのか』ということを、連合は、民進党に投げかけています。

 今回の選挙にあたっては、野党同士で話しあい、共産党が候補者を降ろしました。野党同士で話して、民進党は民進党の公認候補を出した。参院選のときとはまた違います。そのスタンスが、選挙に入ってから少し変わってきたのは感じられますね。結局は『野党共闘』になっているということ。それは新潟県知事選のときから感じていました」

 新潟県知事選での、3野党と市民の共闘による米山氏の勝利によって、「野党共闘」の気運が急速に高まっていることは、連合にとってはどうやら懸念すべき事態であるらしい。

 野党の支持団体というならば、米山氏の当選は、歓迎すべき結末だったはず、という「常識」は、連合にはあてはまらない。そもそも自公推薦の森民夫候補を支持した連合にとっては、この「野党共闘の勝利」は望ましくないものであった。

――しかし、野党共闘なしで、鈴木候補は選挙に勝てるでしょうか?

小林氏「勝てる・勝てないというよりも、民進党は、共産党と政策、国家観が違います。補欠選挙とは言え、衆院選という政権選択の選挙です。もし、将来的に民進党が政権をとっても、政権で共産党と共闘ということにはなりません。目先の1議席、1票をとるために『野党共闘』するはいかがなものか、というのが連合サイドの主張になります」

――しかし昨日は、鈴木候補本人が野党の演説に参加したわけではありません。それで応援を控える、というのはどういうことでしょう。

小林氏「そうですね。私も合同演説はみました。でも、(他の野党が)言っていることは『(鈴木候補は)統一候補だ』ということです。『野党みんなで応援するぞ』という見方をしていたから、ちょっとこれは違うかな、という感じがします。

 もちろん、鈴木候補の責任ではありません。現場は迷惑を被ったというか、自分の意識とは異なるところで起こったのでしょうから、そういう理解はしています。だから『ちょっと(応援を)控えるぞ』ということは民進党のほうには話したが、まだ支援は継続しています。

 我々は民進党の応援団ですから、民進党が進んでいく道というのは、10年後、長いスパンでみた場合、目先の1議席ではないんじゃないですか、ということですよね」

 あっけにとられる話である。民進党候補に対する、3野党と市民の、勝手連的な応援は迷惑なのだという。しかも、民進党執行部と、うしろだての連合に忠義だてして、合同街宣に顔すら出さなかった鈴木候補に対して、なおも「ちょっと(応援を)控えるぞ」というのは、あまりにも筋違いの脅しではないか。

 連合は、これまでにも選挙の局面ごとに、こうした鞭をふるって民進党をあらぬ方向へ導いてきたのだろう。連合の示す「民進党が進んでゆく道」とは、どちらの方角なのだろうか。それは今の自公が進んでいる道と、どう違うのだろうか。

 補選のその先に控えていると言われる衆院選で、「野党共闘」は絶対に実現させない、という意思が、ひしひしと伝わってくる物言いである。

 10年後の民進党の姿を、誰が正確に予見できるのだろう?そのはるか手前で、あのグロテスクな自民党改憲草案に従って、憲法が書きかえられ、民主制の存続そのものが危機に立たされる懸念が、なぜ念頭にないのだろう?

 鈴木候補への嫌がらせめいた「お仕置き」は、民進党執行部に見せつけるための陰湿な見せしめなのだろう。「民進党の応援団」を自称する者たちに勝ち負けはどうでも良い「目先の1議席」扱いされた鈴木候補は、立つ瀬がない。

連合の顔色をうかがう民進党!野田幹事長は新潟県知事選での「勝利」を連合・神津会長に謝罪!?

 明確に「野党共闘」に反対し、ときに陰湿な圧力さえかけているのが連合であることは、もはや明白になった。

 民進党の個々の議員はそれぞれに、野党共闘を求める市民と連合の板挟みになっているのだろうが、現執行部が連合の側に大きく傾いているのは明らかである。特にその姿勢がはなはだしいのが、野田佳彦幹事長だ。

 野田幹事長は10月18日、連合の神津里季生(こうず・りきお)会長らに、新潟県知事選で、蓮舫代表が米山氏の応援に入ったことについて謝罪した。

▲連合・神津里季生会長――写真・横田一
▲連合・神津里季生会長――写真・横田一

 新潟県知事選をめぐっては、自公推薦候補の森民夫候補を支持すると決めた連合新潟が、民進党県連に対し、「民進党が責任をもって米山隆一氏の出馬を抑えろ(立候補させるな)」と申し入れをしたことが、IWJの取材ですでに明らかになっている。しかし、米山候補が猛追をみせると民進党の国会議員らが次々と応援に駆けつけ、最後は蓮舫代表までもが新潟入りせざるを得なくなった。

 蓮舫代表の新潟入りによって、滑り込みで勝ち馬に乗ることができた民進党だが、あろうことか、野田幹事長は米山候補が「勝ってしまった」ことを連合・神津会長に謝罪。自公候補を応援していた連合新潟は怒りを隠そうともせず、民進党県連の黒岩宇洋代表は「混乱の責任をとる」という名目で、県連代表のポストの辞任に追い込まれた。

 20日の会見で神津会長は、蓮舫代表が米山候補を応援したことについて、「(与党系候補を支援した)連合新潟にとっては、火に油を注ぐようなものだった」と怒りをあらわにしている。米山候補が原発再稼働に慎重だということも気に入らないらしい。神津会長は会見で「国の原子力規制委員会で安全が確認され、地元住民の同意があるものは再稼働すべきだというのが基本的な流れ」とも述べている。

 どの世論調査においても、新潟県民の多くが、柏崎刈羽原発の再稼働に反対であることが明らかになっている。「地元住民の同意」が得られていないのに、連合のトップは柏崎刈羽原発を再稼働させたいらしい。

 これが電力総連のトップの発言ではなく、連合全体のトップの発言なのだから、驚くほかない。連合は多様性のある労組の集合体というのは幻想で、「原子力ムラ」の歴然たる一角であることはもはや疑いの余地もない。

 こんな連合の顔色を、民進党はいつまでうかがい続けるのか。

 神津会長は、民進党が単独で候補者を擁立した衆院補選のあり方について、「まっとうなこと」と評価し、夏の参院選で共産党から推薦を受けたことで「逃げる票が相当あった」などと主張。次期衆院選もこの補選がモデルとなるとの考え方を示している。

 連合自身が「目先の1議席ではない」と、勝敗を投げ出した発言をする補選がモデルで、民意を得て勝利した新潟の「野党共闘」モデルは許さない、ということは、勝ち戦ではなく、負け戦を選ぶ、ということだ。その判断のどこが「まっとう」なのだろうか。

立候補を取り下げた共産党・岸良信氏の思い!IWJの取材に「野党共闘を求める市民の声にこたえることが、政党の責任です」と断言!

 今回の補選でも、共産党は候補者の擁立を取り下げている。東京10区補選に立候補予定だった共産党の豊島地区委員長・岸良信氏に話をうかがった。

▲共産党豊島地区委員長・岸良信氏
▲共産党豊島地区委員長・岸良信氏

 岸氏はこの選挙期間中、民進党・鈴木候補の応援に毎朝駆けつけ、応援ビラを配っている。岸氏はIWJの原記者の取材に、「私自身、野党共闘を前進させたいと思っていたから、その結果を受け止めて立候補取り下げを受け入れた」と振り返った。

――立候補を取り下げたうえに応援に回るというのも大変なことでは?

岸氏「まぁ大変ですよ、率直に言うと(笑)。やっぱり他党の候補者を応援するというのは、最初はだいぶ抵抗感ありましたけど、自分が降りたからには、鈴木さんにどうしても当選してもらいたいという気持ちがありますから、抵抗感は乗り越えましたけども」

――民進党や連合は野党共闘から距離を置きたい方針のようですが?

岸氏「(選挙の)現場は現場で、いろんな行動、共闘があるので、連合がおっしゃるようには、そう簡単にはいかないと思いますよ。私も毎朝、ビラ配りに立っているから、民進党区議の皆さんとも顔なじみになって、お話ができるようになってきました。豊島区では社民の区議さんなどとも、都知事選以来は親しくできるようになった。

 もちろん国政選挙なので、最終的には中央が決めます。私もすっぱりと野党共闘でいけるとは思っていませんが、現場での共同の積み重ねは、確実に進んでいます。有権者との関係がありますからね。

 いくら住み分けして各党がそれぞれやっても、現場では共闘が広がります。しかもそれは市民が強く要求していることです。それに答えるのが政党の責任、…それも、現場にいる我々の責任です」

――現場では、野党共闘を求める市民の声を感じますか?

岸氏「本当に感じます。市民の皆さんの強い思いは、我々以上です。それにいかに応えるかが共産党の責任だと思っています。その責任を果たすためにも、私個人は毎朝応援に行っています」

――応援というのは、演説などもされているんですか?

岸氏「いえいえ、演説はしません。あまり私が出しゃばると、鈴木さんの立場もなくなるでしょう。遠からず近からずで、ビラを撒いています。スタッフの人たちも『隣に立ってもいいですよ』と言われるが、それも遠慮しています」

 「共闘を求める市民の声にこたえるのが政党の責任」――。

 岸氏のこの言葉を、民進党の議員や関係者、支持者らはどう受けとめるだろうか。

 市民の方を向いて政治をするか、連合幹部の顔色をうかがった政治をするか、民進党は今、重大な選択を迫られている。

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