久本雅美を支持する母体

今回取り上げるのは、タレントの久本雅美です。彼女が長年所属している団体といえば、WAHAHA本舗。彼女が熱心に信じていることといえば、福山雅治との結婚。だそうですが、今も昔も変わらずにテレビに出続けている彼女も、最近では「嫌いな女性タレント」のようなアンケートでもしばしば見かけるようになりました。あまりやることが変わっていないように見える久本雅美は、なぜ嫌われてしまったのでしょうか?

「よろチクビ!」の現在

昼間、外で働いている人は『ヒルナンデス!』をさほど見ないだろうが、家で働いているこちらは毎日のように見ているので、金曜日レギュラーの久本雅美が未だに「よろチクビ!」方面で笑いをとろうとする瞬間に度々立ち会う。「いつまでも結婚できない私」や「出っ歯」で、まだまだその場を健やかに荒らしている。テレビの前で彼女の話の流れを察知し、「くるぞ、くるぞ」と構えた後でそれらが本当に出てくるものだから、つい、釣り竿を「きたっ!」と引っ張り上げるような興奮を覚えるのだが、『釣りバカ日誌』が長い間、針に魚をつけた状態で釣り上げるシーンを撮影してきたように(後半から生きている魚に変わった)、それはあらかじめ約束されていた釣果ではなかったかと、昼間からヌルい察知を自省する。

NHK放送文化研究所は2003年まで「好きなタレント調査」を実施していたが、最後の6年間連続で男性1位だったのが明石家さんまであり、3年間連続で女性1位だったのが久本雅美である。互いにその頃から現在に至るまでスタンスを変えずにいるが、差は歴然としている。久本の出演番組が低減しているとはいえ、『メレンゲの気持ち』『秘密のケンミンSHOW』など、MCを務める番組を堅持していることを考えれば、とりわけこの数年間、彼女を受け付けないとする数値(週刊文春「女が嫌いな女ランキング」等)や言質を頻繁に見かけるようになったことを説明するには別途の理由が求められる。「同じことを繰り返している」という振る舞いに対する評定は、テレビの中の流行りの瞬間風速が上がれば上がるほど評価対象にもなるはずなのだが、久本の場合は「そうそうコレコレ」にならず、「またかよ」になる。なぜ「よろチクビ!」は受け入れられなくなったのか。

実体を伴わない下品

個人的に面白いと感じられない話者に萩本欽一と中山秀征がいるが、こういう時にこそすがりたい。久本雅美の対談集『マチャミの今日も元気で!』で、それぞれが久本と対談しており、彼女の特性を語っている。萩本は「あなたの下品さっていうのは、したくてしているわけじゃなくて、そうすればみんなが喜ぶだろうってサービス精神からきている」とし、女でお笑いをやる人は「不美人じゃあテレビを見ている人は怒るし、美人だと妬まれたりもして、好感をもたれない。そのあたりがマチャミの才能」と語る。中山は「久本さんには天性のかわいらしさがあるんです。僕は下品な人は嫌いなんですけど、久本さんには品があるから」と語る。

この2人の共通見解を抽出すると、「久本雅美はただの下品ではない」となる。片方はサービス精神だと語り、片方は備わっている「品」が下品を上回るのだと語る。私たちは彼女が「よろチクビ!」と叫んだり、若いメンズに向かって「食べちゃうぞ!」「抱いて!」的なことを繰り返す場面に遭遇しても、それを生々しいものとして感知してこなかった。慣習として「ウェディングドレス着たい!」を浴びてきた。好感度でトップに躍り出ていたのは、下品が実体を伴っていなかったからなのか。具材が乗っていないフライパンを強火で熱したからこそ、そこに笑いが生じたのか。

品を持たせるべきか、下品に走るべきか

久本は小学6年生の時の作文に「社会に出て男の人の中に交じって活躍したい」と書いているが、社会を男のものだけにさせてたまるかと勇むわけではなく、むしろ社会は男のものだからそこに対して従順でいようとする発想が目立つ。近著『人に心を開いてもらいたい時、私が必ずやること、やらないこと。』を開けば、「『飲みにケーション』は、お互いわかり合い、最終的にはいい仕事をするためにあるのでしょう。というか、そういう飲み会が大事です」とある。若手社員から総じて嫌われる男性上司っぽい言い分。中山秀征が言うように彼女は「品」を意識し、『メレンゲの気持ち』では「ある種の『品』は大事」なので、自分の問いかけが決してワイドショー的な根掘り葉掘りにならないよう心がけているという。少々場を乱したとしても、その場を根から乱すことがあってはならないと考える。

昨今、ワイドショーのコメンテーターに芸人が多用されているが、その理由についてフジテレビ『グッディ!』のチーフプロデューサーが「物知りなのに、知らないふりができる」と語っている(『日経エンタテインメント!』2016年11月号)。確固たる私見を精いっぱい出したり、敢えて抑えたりする柔軟性を持っているかどうか。確かに今のテレビに求められている要素だ。『グッディ!』に出ている東貴博、高橋茂雄、竹山隆範、川島明、土田晃之という名前を並べてみると、この場面は品を持たせるべきか、下品に突っ走るべきかを明確に選び抜くセンスの持ち主ばかりだ。

支持母体云々の議論の前に

久本雅美という人は常に「品」が保たれてきた。品を保ったままで「よろチクビ!」を言ってしまえる「程よい振り幅」によって好感度が保たれてきたが、今、その振り幅が「狭い」と感じられるようになってしまった。豪快に「知らないふり」ができる芸人と違って、久本は常に健やかに品を保ったまま関与していく。でも、今のテレビでスタメン入りする面々はもっと豪快に「幅」を管理している。つまり久本は、面白い、面白くない、というより、物足りない、という体感に置かれているのではないか。

彼女の分析をしようとすると、すぐに彼女が心酔する宗教=支持母体の悪口や派生した陰謀論が出てくるが、それは分析としては物足りない。支持母体ではなく、これまで支持していた母体=視聴者がなぜ液状化したのかを考えるべきだろう。彼女が保ってきた「品」が、振り幅の狭さとして露呈するようになった、というのがこちらの分析。すぐに議論を支持母体云々に行き着かせるのではなく、「幅」の伸縮と「品」の管理というデリケートな掛け合わせから問うてみた。

祝・重版出来!『紋切型社会』の著者・武田砂鉄による新しい時代の芸能評論。

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ワダアキ考 〜テレビの中のわだかまり〜

武田砂鉄

365日四六時中休むことなく流れ続けているテレビ。あまりにも日常に入り込みすぎて、さも当たり前のようになってしったテレビの世界。でも、ふとした瞬間に感じる違和感、「これって本当に当たり前なんだっけ?」。その違和感を問いただすのが今回ス...もっと読む

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cha20u06 「彼女の分析をしようとすると、すぐに彼女が心酔する宗教=支持母体の悪口や派生した陰謀論が出てくるが、それは分析としては物足りない」: 31分前 replyretweetfavorite

Yoshida234 #SmartNews 学会の提灯記事。久本に人気などあるわけないだろ。俺など、見た瞬間にチャンネル変えてるわ。人気投票にも、動員かけてるんだな。 https://t.co/a4I7l3QnbK 41分前 replyretweetfavorite

iyokan_nico おもしろい https://t.co/0r1EJzM0wx 約1時間前 replyretweetfavorite

u5u “久本は、面白い、面白くない、というより、物足りない、という体感に置かれているのではないか” 約2時間前 replyretweetfavorite