過大評価している自分を見つめ直す

bar bossa店主・林伸次さんはお店でしばしば合コンの反省会をやっているグループを見かけるそう。反省会というくらいですから、「イマイチだった」という話をしているのを見るのが多いそうなんですが、その様子を見て林さんは先日落語会で聞いた落語家さんのある話を思い出しました。「イマイチだった」と言ってしまう前に、この話を聞いてみてください。世の中の見え方が変わるかもしれませんよ。

落語会で聞いた「噺家の上手さ」の話

いらっしゃいませ。
bar bossaへようこそ。

バーでよく見かけるシーンで「合コンの反省会」というのがあります。大体女性3人組とか男性3人組とかで、「あの人、素敵だった」とか「あの子、絶対にオマエに気があるよ」とかって盛り上がったり、あるいは「割り勘っておかしいよね。男の人たちの方がすごい飲んでたし」とか「あの子たち、男のおごりだからってちょっと高いの頼みすぎだよね」とかって盛り下がったりする場合もあります。

さて、こういう法則があるのはご存知でしょうか?

合コンで相手の人たちが大したことないなあ、いまひとつだなあと感じたら、相手の人たちも同じように感じている。

同じような話でこういうパターンもあります。婚活で結婚相談所のようなところに入会して、いろんな人を紹介されますよね。すると、「結婚相談所で紹介される相手って本当に良い人っていないもんだなあ。この中から選べって言われてもちょっと無理だなあ。どこかにもっと良い人いないかなあ」なんて感じることがよくあるそうなんです。この場合も「紹介された相手も同じことを感じている場合がよくある」のだそうです。この現象、前からどうしてなんだろうとずっと気になっていまして、最近知ったある言葉で疑問が氷解しました。

最近、妻が落語にこっていまして、僕も休日になるとなにかといろんな落語会に連れて行かれます。そんな落語会で先日、瀧川鯉八さんという方がまくらでこんな話をされていました。落語家の間でよく言われる定義があるそうなのですが、「この噺家、だいたい自分と同じくらいの上手さだなあ」と感じたら、その噺家は自分よりも数段も上手い人らしいんです。

さらに、「うわー、この噺家、すごく上手いなあ」と感じたら、その噺家ははるか雲の上のそうとう上手い人だし、逆に「この噺家、下手だなあ」と感じたら、その噺家は自分と同じレベルだそうなんです。これ、なかなか厳しい話ですけど、わかりますよね。

合コンの反省会と結婚相談所の出会いを見つめなおすと……?

ここで僕の話をしますと、最近、小説を書いてみようと思ってまして、いろんな作家の文体だけを意識しながらパラパラと読んでみてるんですね。試しに椎名誠を久しぶりに読んでみたら、やっぱりすごく上手いんです。どうでもいいような日常の身近なことを書いていたかと思えば、それは椎名誠の世界観に慣れさせる導入口であって、「わ!」っと物語に引き込むんです。

この間も「青春小説みたいなの書けないかなあ」と思いながら、本屋でパラパラといろんな作家を見ていたら、佐藤多佳子が目に付きまして、「ああ、この人、読んだことないなあ」と思って、『サマータイム』という処女作を見たら、冒頭の抑制された始まり方がすばらしくて、「うわあ、上手いなあ」って感心してしまいました。こういう人たちは、先程の落語家の定義によると、「はるか雲の上のそうとう上手い人」なんですよね。

インターネットもたくさんの文章に溢れていますよね。そんな中、「ああ、この人、なかなかやるなあ。まあ自分と同程度くらいかな」って感じることってあるんです。その人は「僕よりも数段上手い人」。さらに、本当にすいません、たまに「うーん、良いところあるんだけどなあ。荒削りだなあ。もう少しこなれてきたら上手くなるかなあ」なんてことを偉そうに僕は思ったりすることがあるんです(ほんと、上から目線でイヤな奴ですね)。その人は「僕と同じくらいのレベル」なんですよね。

いやはや、この「落語家の定義」、真理をついている感じがしませんか? 人間ってやっぱり自分を過大評価しているんですね。そうじゃなきゃこのつらい世界でやっていけないんでしょうね。でも、「本当は自分がどの程度のレベルなのか」っていうのも把握しておきたいと思いませんか? そんな時はぜひ、この「落語家の定義」で自分の才能を見つめ直してみてください。

というわけで話を合コンの反省会に戻しましょう。「合コンで相手をいまひとつと思った場合」と「お見合いでもっと良い人いないの?と思った場合」をこの落語家の定義に当てはめるとどうなるでしょう。

「合コンで出会う」ってことは、そこに参加している男女はどちらも、同じような階層に属しているはずです。だからお互い同じくらいレベルになりがちのはずなのですが、同じレベルの人を自分より低く感じるから「なんか今日の相手、レベルが低いなあ」となってしまうわけなんです。

結婚相談所の場合も同じです。普通、結婚相談所のスタッフは「二人はお似合いだろうなあ」と思って紹介しています。同じレベルのはずなんです。でも、「同じくらいのレベルは自分より低い」と感じてしまうというわけなんです。

合コンとか結婚相談所にはいい出会いがないって言う人、結構多いですよね。それはこのあたりに原因があるのかもしれません。人間、どうしても自分を過大評価してしまいますよね。一度、自分の才能やレベルを「落語家の定義」でちゃんと把握してみて、あの時であった相手のことを考えてみてはいかがでしょうか。意外とあっさり恋人ができたり結婚が決まったりするかもしれませんよ。

ケイクス

この連載について

初回を読む
ワイングラスのむこう側

林伸次

東京・渋谷で16年、カウンターの向こうからバーに集う人たちの姿を見つめてきた、ワインバー「bar bossa(バールボッサ)」の店主・林伸次さん。バーを舞台に交差する人間模様。バーだから漏らしてしまう本音。ずっとカウンターに立ち続けて...もっと読む

この連載の人気記事

関連記事

関連キーワード

コメント

ryuzo_takahashi 目を覚ましたら王子様がいるというメルヘン教育を受けて来たのだから、自己評価は難しいでしょうね。 41分前 replyretweetfavorite

gentetsu7 耳が痛いなぁ…。でも確かにそうですね。「この噺家、だいたい自分と同じくらいの上手さだなあ」と感じたら、その噺家は自分よりも数段も上手い人」|林伸次 @bar_bossa | 約2時間前 replyretweetfavorite