(英フィナンシャル・タイムズ紙 2016年9月23日付)
米ノースカロライナ州ケナンズビルの選挙集会で演説するドナルド・トランプ氏(2016年9月20日撮影)。(c)AFP/MANDEL NGAN〔AFPBB News〕
米国大統領候補のドナルド・トランプ氏がロシアのウラジーミル・プーチン大統領を称賛していることは、意外でも何でもない。両者とも権威主義的な傾向があり、多国間の約束を軽視し、生々しい力の政治を志向するところも共通している。特に重要なのは、政治の理念よりも損得を重視する点だ。取引は国際的なルールや共通の価値観に縛られず、狭い意味での国益によって形作られる。
プーチン氏は、旧ソビエト連邦の崩壊という屈辱を晴らしたいと思っている。片やトランプ氏は「米国を再び偉大に国にする」と公約している。プーチン氏とバラク・オバマ米大統領との個人的な関係が良好でないのは、超大国の均衡という幻想に酔いしれることをオバマ氏が厳しい言葉で拒んでいるからだ。恐らく、トランプ氏の方がロシアの心理をよく理解しているのだろう。プーチン氏を決断力のある強い指導者として褒めたたえることを決してやめない。
クレムリンに取り入るのは、共和党の大統領候補だけではない。欧州諸国のポピュリストたち――マリーヌ・ルペン氏率いるフランスの国民戦線(FN)、ファシスト政党のヨッビク(ハンガリー)と黄金の夜明け(ギリシャ)――もモスクワに敬意を表している。プーチン氏のシンパは左派にもいる。英国労働党のジェレミー・コービン党首は、ロシアの失地回復政策をとがめるよりも米国の「帝国主義」を糾弾する方がしっくりくる。
最近まで、外交政策分野のエスタブリッシュメントたちは、ヒラリー・クリントン大統領の誕生に対応する準備をひそかに進めていた。トランプ氏が候補者になったことは悪夢であり、投票日翌日の11月9日には間違いなく醒めると考えていた。しかし、ムードは変わった。世論調査における両候補の差が縮小したことから、共和党も民主党も、トランプ氏が米軍の最高司令官になったらどうなるかを想像し始めたのだ。
米軍の将軍たちがたたく軽口――核攻撃の許可を出す道具、いわゆる「核のフットボール」については、トランプ氏に手渡す前に回路の基板を外しておこう、というもの――は、以前ほどには笑えなくなった。