オタクはパッション、サブカルはファッション
芳麗 先日、吉田さんのラジオを聴いていたら、ゲストの新人アイドルグループについて、マニアックな情報を吉田さんが立石に水のように紹介していて。さらに素敵だったのが、当のアイドルに「すごくくわしいですね!」と言われて、「僕、アイドルオタクですから」とさらっと返していたこと。
吉田尚記(以下、吉田) ありましたね(笑)。
芳麗 聞き手である吉田さんの個性も自然と際立っていた(笑)。吉田さんは生まれながらのオタクだったんですか?
吉田 はい、もちろん。ただね、人ってみんな子供の頃はみんなオタクだったと僕は思ってるんです。ゲームとか漫画とか、何かしら大好きなものがあるじゃないですか。なのに、いつの間にか、それを好きじゃなくなる人が多い。
芳麗 確かに子供はみんな、昆虫でも乗り物でも、何がしかの強い好奇心を持っていますよね。
吉田 でもだいたいの人は、卒業しちゃう。
芳麗 同じような話を歌手のaikoさんとしたことがあります。aikoさんも漫画とか大好きなんですよね。最新のおもしろい漫画にもすごくくわしいし。夜中に1人遊びしたり、小学生みたいないたずらもいまだに大好きだと。「なんで、みんなは大人になるとこういうのを卒業するんだろうね」っていっていて、すごくわかるなぁって(笑)。
吉田 オタクは卒業できないんですよね(笑)。言ってしまえば子供なんですよ。
芳麗 たぶん女性は男性よりも卒業するのが早い人が多いんですよ。結婚とか出産とか、早めに目標設定して、計画的に現実的に生きていかないとならないから。
吉田 あー、そうですよね。僕は、なぜ人がオタクを卒業するのかというと、モテたいせいだと思っていて。
芳麗 「モテ」が人をオトナにしてしまうんですね。
吉田 宇野常寛さんとはしょっちゅう、そのことについて話しているんだけど。辿りついた結論が、オタクとサブカルは別の物でその分かれ目は「モテ」だって。
芳麗 えっ、どういうことですか?
吉田 「オタクはパッション、サブカルはファッション」なんて言ってるんですけど。
オタクは、二次元の女の子がちやほやしてくれるからその子を好きなわけじゃない。そもそもコミュニケーション取れないマンガやアニメの中にいてくれれば、それでいいんです。でも、サブカルはかっこいい洋画を見て、それを誰か、できたら女の子が「ステキな趣味!」って言ってくれないと成立しないんです。「モテ」がどうでもいい存在と、「モテ」がすべてな人たち。まったく逆の存在なんですよ。
オタクと結婚すれば、幸せになれる?
芳麗 納得ですけど、その思考や経路って男性ならではかも?
吉田 いやいや。だって、モテの極北が女性誌じゃないですか!
芳麗 あはははは! たしかにモテ系女性誌は、オタクワールドの対極にある。でもね、そういえば、10 年ほど前に「59番目のプロポーズ」というオタクくんとキャリア女性の恋愛を描いた実話小説が話題になりましたよね。
吉田 それは知らなかったです。どんな話ですか?
芳麗 作者のアルテイシアさんは、見かけは女性誌的なファッショナブルで有能なキャリア女性。いわゆるエリートイケメンにもモテモテだし、様々な恋愛を経験してきたものの、うまくいかなくて傷つくばかりだったけど。最終的には純朴なオタク男子に巡り合って、恋をして結婚するというストーリーです。mixi日記から火がついて、書籍にもなって。
吉田 mixiっぽいですね。僕らオタクも「電車男」なら知っていますけどね。
芳麗 ちなみに、のちに藤原紀香さんと陣内智則さんでドラマ化もされて、2人が結婚するきっかけにもなったんです。
吉田 へぇ。演じた陣内さんは、オタクじゃないですけどね(笑)。
芳麗 あの時、女性たちは、オタク男子に憧れと希望を持ったんです。もしかして、スペックの高いイケメンに翻弄されるよりも、純朴なオタクと真面目に恋したら幸せになれるかもって。近年の女性誌の定番である「結婚したいのに結婚できない」というお悩みを解消する術かもしれないと!
吉田 キャリア女性的には、「結婚したいならハードルを下げろ」って結論ですか?
芳麗 いえいえ。「オタク男子って掘り出し物! 磨けば光る原石かもしれない」……という視点です。
吉田 あながち間違っていない気がします。オタク側のコンテンツにキャリア女性は登場しないですけど、女性目線でオタクをカッコよく描いた物語は昔からありましたよね。岡野玲子さんの「ファンシィダンス」とか。理系の物理学に入れ込んでいるイケメンでオタクな青年が、女性誌的な最先端の女性に惚れられて、付き合い始めるっていう。
芳麗 そういうの大好き(笑)。女のファンタジーかもしれないけど、オタクとなら純愛が可能かなと思っちゃう。結局、男のモテはマメと慣れだと思うけど、コミュニケーションに慣れている男の人って、やっぱり表面的な人が多い気がして。こちらも多少は経験を積むと、そういう人の胡散臭さが見えてきますから(笑)。
吉田 cakesでも話題になっていた恋愛工学の世界ですよね。
芳麗 そうです、そうです。
吉田 著者の藤沢さんの専門である金融工学に基づいた恋愛テクノロジーで「たくさんのレベルの高い女性とセックスできる」ようになるっていう。
芳麗 それが男性の「モテ」ですよね。女性の多くは「一人の素敵な男性に深く愛されたい」が「モテ」なんですよ。
恋愛工学の小説を読みましたけど、正直な話、ミソジニーが強すぎるなと感じてしまって、共感できなかったです。女性への愛がないなって。おまけに「モテ」るようになった男性に色気も感じられない。でも、男性には、熱心な読者が多いのかな?
吉田 僕は対岸の二村ヒトシ派ですから。
芳麗 私も二村派です。……っていうか、女性はだいたい二村派だと思うんだけどなぁ(笑)。『なぜ、あなたは「愛してくれない人」を好きになるのか』は名著ですよね。欲望ばかりで愛のないダメ男に振り回されてしまうのは、女の自己肯定力が低いから、「心の穴」があるからだと喝破している。
吉田 そうですよね。実は僕、AVも好きなんですけど……。
芳麗 はい(笑)。
吉田 だから、最初に二村さんを知ったのはAVだったんです。二村さんのAVって他の監督のとは何か違うなと思っていて。
芳麗 へぇ! そうなんですね。
吉田 それから、大学卒業直後くらいに二村さんの『すべてはモテるためである』を読んで。「あなたがセックスできないのはあなたが気持ち悪いからである」っていう言葉に感動したんです。これは素晴らしい!と。
芳麗 名言ですよね。当の男子でもそう思うんだ。
吉田 はい(笑)。感動したから、のちに二村さんを自分のイベントのゲストに呼んで対談して仲良くなりました。
ここで、さっきの「モテ」の話に回収すると、その対談で二村さんに聞いたんです。僕は、二村さんもオタクだったらセックスも含めてリアルな女の人と交わるなんて、最大の恐怖なはずなのに。「AV監督なんていう『おそろしい仕事』についたのはなぜですか?」と。
芳麗 あははは! 二村さんの答えは?
吉田 シンプルに「僕は死ぬほどエッチなことが好きなんです」と。怖いよりも前にエッチなことが好きだからなんだと。
芳麗 どういうことですか(笑)。
吉田 二村さんは、「モテ」のためにいろいろな女性とそういうことをしてるわけじゃないんですよ。僕がマンガを死ぬほど好きなように、二村さんは女性とエロをマニアックに好きなんです。三つ子の魂百までの精神で、女性とエッチなことが好きだからエロにオタクだったんですよ。つまり別にモテたいから、美女を手中にしたいからがんばるんじゃない。説明が難しいですけど(笑)。
芳麗 二村さんは、女性とかセックスを自分の欲望を満たすだけの道具だとも、自己顕示欲を満たすためのトロフィーだともとらえていない。純粋に女性が好きだし、交わるのが好きだからがんばっている(笑)。
吉田 そうなんです。不特定多数の美女にモテたい男って、性欲はあっても、実は女性との人間的なコミュニケーションには心が向いていないと思います。
芳麗 おっしゃる通りですね。だから、モテたい男の人とセックスしても、寂しい気持ちになってしまう。
今、話していて、二村さんの恋愛・セックス論と、吉田さんのコミュニケーション論は、根底が同じだなと思いました。
吉田 そうですね。僕もコミュニケーションすることでモテたいとか、自分をカッコよく見せたいみたいな目的はないつもり、です。そりゃモテたらうれしいですけど、それはおまけですね。まずは相手が楽しんでくれてないと、気が休まらない。
芳麗 そこに私も賛同します。
次回「人を嫌いにならない唯一のコミュニケーション術」へつづく
構成:中島洋一
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