2016年9月23日/伊藤隆剛
先週に引き続き、ピエガClassic 3.0で邦楽の注目作品をハイレゾとLPを聴き比べてみたいと思います。前編では旧作のリマスター3作をピックアップしましたが、後編は新譜を3作いってみます。
自宅ではハイレゾやCDリッピング、ストリーミングなどのデジタルファイル全般をリンのネットワークプレーヤーMAJIK DSで、アナログレコードをデノンのアナログプレーヤーのエントリーモデルDP-300Fで聴いています。
これらをデノンのプリメインアンプPMA-SA11でドライブしたClassic 3.0で聴くと、ハイレゾとLPそれぞれの味わいが浮き彫りになって面白い、というのは前回書いた通り。
MAJIK DSとDP-300Fには製品としてのグレード(というか価格)にけっこうな開きがあるので、厳密な意味での比較には当然ならないのですが、Classic 3.0にはいい意味で二面性があり、普段自宅システムで聴いていて感じるハイレゾの精細さやレンジの広さ、アナログレコードの太筆書きの力強さをそれぞれに際立たせつつ、安定感のある堂々としたサウンドを聴かせてくれました。
それは今回聴いた新譜3作についても同様で、再生メディアが多様化する現代にぴったりの小型スピーカーという印象をさらに強めることになりました。「アナログって言っても、今のレコードのマスターはハイレゾと同じデジタルでしょ?」という声もあるかもしれませんが、こういった微妙な質感の違いを楽しみたい向きには堪らないスピーカーだと思います。
原田知世『恋愛小説 2 ~若葉のころ』
まず最初は原田知世『恋愛小説 2 ~若葉のころ』です。昨年リリースされた洋楽カヴァー集に続く邦楽カヴァー集で、プロデュースはギタリストの伊藤ゴローさんが担当しています。
伊藤ゴローさんの手がけた作品はどれも音がよく、ブラジル人チェリストのジャキス・モレレンバウムとの連名によるアルバム『RENDEZ-VOUS IN TOKYO』は特におすすめです。192kHz/24ビット/FLACのハイレゾ、CD、LPでそれぞれリリースされているので、未聴の方はぜひ。
この『恋愛小説 2』から1曲目の「September」(竹内まりやのカヴァー)を88.2kHz/24ビット/FLACのハイレゾで聴いてみると、シンバルヒットやウィンドチャイムが煌びやかで、シティポップ的なサウンドの狙いがとてもよく伝わってきます。
ヴォーカルのヌケもよく、とにかく爽やかで好感触。終始ベースとユニゾンでリズムを刻むバスドラムは、わずかに歪みっぽい響きを含んでいるのですが、そういったディテイルまで気持ちよく聴くことができます。
アナログレコードはLPもリリースされていますが、今回は先日発売されたばかりの7インチシングルを試聴しました。リズム隊がやや後退し、ヴォーカルが前面に出てきます。全体的にまとまりがいいものの、ハイレゾで聴けたようなブライトな印象はなく、やや陰りのあるサウンドです。
あくまでもわが家の再生システムでは、という前提ですが、この作品ではハイレゾの明るく爽やかな音が断然合っていると思いました。
サニーデイ・サービス『Dance To You』
続いてはサニーデイ・サービスの通算10枚目、『Dance To You』。大滝詠一『A Long Vacation』などで知られるイラストレーター、永井博のジャケットが示す通り、夏っぽさ全開のアルバムで、LPは2ndプレスも完売と好セールスを続けているようです。
もともとサニーデイ・サービスのサウンドプロダクションはアナログライクなものが多く、テープヒスやスクラッチノイズを意図的に味つけとして加えるなど、S/Nとか解像感といった尺度では測れない独自のサウンドを追求しています。
そう書くとオーディオ的にローファイ志向な感じがしますが、フロントマンの曽我部恵一はソロで『氷穴 e.p.』というDSDによるフィールドレコーディング作品も発表しており、作品ごとに最良のメディアをつねに模索している様子がうかがえます。
この新作はLP/CD/ハイレゾ/カセットの4フォーマットでリリースされていますが、手持ちのLPと48kHz/24ビット/FLACのハイレゾを聴き比べると、やはりLPの音を好ましく感じました。
3曲目の「青空ロンリー」では、ザラついた弾き語りにベースとパーカッションが絡んだアンサンブルが、立体的に再現されます。何よりヴォーカルに説得力があり、気迫も充分。
ハイレゾでは各パートの定位などが鮮明で、アコースティックギターのストロークも心地いいのですが、全体に押しが弱く、落ち着きがよすぎ。LPの方がバンドの意図に近いサウンドであるのは間違いないと思います。
坂本慎太郎『できれば愛を』
最後は坂本慎太郎のソロ3作目『できれば愛を』。サニーデイ・サービスと同じく、アナログレコード好きとして知られるアーティストですが、本作では48kHz/24ビット/FLACのハイレゾもリリースされました。今回聴いた3作の中ではハイレゾとLPの印象の差がもっとも小さいと感じました。
1曲目のタイトル曲を聴くと、ハイレゾでは空気感が、LPではリズム隊の気持ちよさが分かりやすく前に出てくるものの、ミニマルな編成による異形のバンドサウンドはどちらでも生々しく感じられます。
たっぷりと確保された音の隙間や弾力に富んだベースライン、ピュンピュンと飛び回るペダルスティールなど、音響的な快感に満ちたこの作品の魅力を十全に聴かせてくれました。
前編でも書いたように、普段わが家ではハーベスHL-CompactにパイオニアのスーパートゥイーターPT-R6を組み合わせたスピーカーシステムを使っています。この組合せは、何でも心地よく、のんびりと聴かせてくれる傾向の音。ていねいに描かれた鉛筆画のように濃淡がスムーズで、ハイレゾやLP、CDといったフォーマットの違いを特に意識させることがありません。
自分にとってはまさに“ミドル・オブ・ザ・ロード”な音なのですが、それに比べるとピエガClassic 3.0は先述の通り、フォーマットの違いを割合はっきりと感じさせる音です。分解能が高くS/Nのいいハイレゾも、MMカートリッジで聴くエネルギッシュなアナログレコードも、それぞれを持ち味として聴かせてくれました。
デスクトップで使えるほど小さくはありませんが、Classic 3.0はポータブルオーディオを中心にデジタルファイルを楽しんでいる人が「そろそろ据え置きのオーディオシステムを……」と考えた時に、最初のスピーカーとしてぴったりのモデルだと思います。
いっぽうで、長くCDやLPなどのフィジカルメディアを自室やリビングで楽しんできた人のリプレイス候補としても有力モデルになるはずです。今回は3.0のみでしたが、上位モデルの5.0や7.0の音も聴いてみたくなりました。
今回試聴した気になるアイテム
ピエガClassic 3.0
¥160,000(ペア、税別)
※マカッサルピアノは¥30,000アップ(ペア、税別)
●型式:2ウェイ2スピーカー・バスレフ型
●使用ユニット:AMT型トゥイーター、
180mmコーン型ウーファー
●再生周波数帯域:38Hz~40kHz
●クロスオーバー周波数:4kHz
●出力音圧レベル:89dB/W/m
●インピーダンス:4Ω
●寸法/質量:W210×H350×D280mm/約8kg
●問合せ先:フューレンコーディネート
電話番号 0120-004884
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