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[猫ブログ] いろいろな連載と、ときどきお知らせ。

ネコノミストの研究室

2016年09月21日

ペットの生体販売について考える(前編)

みにゃさま、こんにちは。ネコノミストの武井です。

今回は、みにゃさまからの反響が大きそうなテーマです。そしてみにゃさまが、実はあまり見ないようにしているであろう分野をあえて取り扱おうと思います。それは「ペットの生体販売について」です。

初めに、武井の立場を申しますと、これまで生活を共にしてきた愛猫達はすべて野良猫でした。ですので、猫を飼いたいと思われた方々の多くが、保護・野良猫を引き取ることによって素晴らしい猫ライフをスタートしてもらいたいと願う立場にいます。

他方、現在日本のペット産業においては、犬や猫達を生体販売する企業・個人の業者が存在しています。また、血統書付の猫やある特定の品種の猫と暮らしたいと考える猫派の方々も存在します。それぞれの供給と需要がマッチするところが、「生体販売市場」であると認識しています。

現在の犬猫の殺処分問題への認識の高まりによって、この「生体販売」を反対する立場の人たちが増えています。その理由として、テレビ番組や雑誌等で、悪質ブリーダーの大量の動物遺棄事件が報道され、繁殖犬・猫の劣悪な状況を伝えるメディアが増えてきたこと、また欧州をはじめとする先進国では生体販売を禁止している国も多い(第8回でその情報が正しくないことは記載しました)という「情報」などがあるようです。

私は、猫を愛する一市民としてふと疑問に思いました。確かに悪質ブリーダーやいわゆる「引き取り屋」のような存在は非常に大きな問題です。解決されるべき重要な課題だと思います。また市場原理により、命に価格を付けられ、生き物を「取引」することの違和感も感じます。しかし、一部のメディアが報道するように「生体販売を禁止すれさえすれば、犬・猫の殺処分の数は減る」という単純な論調にも疑問を感じています。生体販売の是非を議論する前に、生体販売の何が課題となっていて、それはどういう解決方法があり得るのかを適切に整理する必要があると感じました。

そのため、こういった疑問の答えを探るべく、今回は、日本の生体販売における現状と課題等を、あくまで中立に整理してみたいと思っています。


猫はどこから来たのか?


まず、生体販売の構造に入る前に、一般的な猫達は、どこから来ているのか、ペットショップから迎えられる猫がどのくらいいるのかを知りたいと思いました。

ペット総研さんの2016年の「ペットのお迎え」アンケート調査によると、猫を迎えた人で最も多かったのは、「拾った・迷い込んできた」で約4割、次に「知り合いから」が約3割、「ペットショップ」からが2割弱、「愛護団体・シェルター・保健所から」が約1割となっています(ご参考までに、犬の場合は、1位が「ペットショップから」で半数を超え、次いで「知り合いから」が2割弱、「ブリーダーから」が約1.5割、「愛護団体・シェルター・保健所から」は1割にも満たない状況です)(注1)。

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図:ペット総研のアンケート結果をもとに、現在の日本の飼い猫の迎え先を分類したもの(数字は大まかなものです)
出所:筆者作成

さらに見てみましょう。少し古いデータになりますが、東京都が平成23年度に実施した「東京都における犬および猫の飼育実態調査の概要」によると、飼い猫になった経緯の1位は、「拾った」33.8%、2位は「知人から貰った」22.4%、3位は「いつのまにか居ついた」15.1%となっており、「譲渡団体・行政機関からの譲り受け」は5.7%、「ペットショップで購入した」5.7%にとどまっています(注2)。

つまり、飼い猫の多くは保護猫・野良猫出身であり、ペットショップや生体販売を経て飼われている猫は、全体の2割程度にとどまっているということ、またその割合は犬に比べて低いということがわかります。

第2回の連載でご紹介した通り、現在殺処分される犬・猫10万頭のうち、約8割が猫、そのうち約8割が子猫であることから、多くは野良猫の産んだ子猫が犠牲になっていると考えられます。上記のデータから考えられることは、現在ペットショップから迎え入れられているだろう200万頭のうち、一部でも保護猫・野良猫からの引き取りになれば、殺される猫達の命を救うことができる、とも考えられます(しかしながら、血統書付や決まった品種の猫が欲しいという飼い主さんのニーズがあることも確かで、そういった飼い主さんが保護猫・野良猫から引き取りを検討することは少ないでしょう)。

注意しなければならないのは、上記の10万頭という殺処分の数字は、あくまで行政機関での対処数であることです。悪質ブリーダーや引き取り屋が密かに葬った猫達の数は、行政の統計には反映されていないことも指摘されています。


猫はどこで売られているのか?


猫が「販売」を通じて飼い主に届けられる際には、ペットショップかブリーダー経由のどちらかのケースが多いと考えられます。ペットショップは、一部の大手チェーン店と、8-9割を占める零細・小規模の店舗で構成されているといわれています。
また、ブリーダーも零細・小規模の経営者が多く、高齢化が進んでいるといわれています。

ペットショップは、主に、全国に17か所あるといわれている、ペットパーク(ペットオークション)または卸業者から、犬や猫達を仕入れています。ペットオークションに参加する売り手(ブリーダー)も買い手(ペットショップ、卸業者)も、通常は登録制となっています。

ブリーダーは、①ペットオークション、②卸業者、③ペットショップ、④直接飼い主へ、の4パターンで販売していることが多いようです。ブリーダーによっては、①のみ、③のみ、または生き物をオークション(せり)にかけることが抵抗があるブリーダーは④のみ、といった販売をしているようです。

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図:猫の生体販売の構造
出所:筆者作成


猫はいつ販売される/引き渡されるのか?


ペットショップやブリーダーで動物が販売される場合、法律の規制があります。第2回の連載にもある通り、2012年に改正され、2013年に施行された改正動物愛護管理法により、基本的には生後56日齢以後の動物が販売されることとなりましたが、「2016年8月31日までは生後45日を期限とする」旨の注意書きが付記されていました。

ちょうど8月にこの期限が終了し、2016年9月1日からは、生体販売の日齢は生後49日以後に変更となりました。この日齢が、もともとの法律の規定の56日(8週齢)にいつ切り替えるのかは明らかとなっていません。2016年度の環境省の委託調査において、動物の販売日齢に関する調査が実施されていますので、来年度初めにはその研究成果が公表されるのではないかと推測されます(注3)。

では、飼い猫の4割を占める、知り合いや愛護団体からの猫はいつ頃飼い主のもとに譲渡されるのでしょうか?個人的な事例で恐縮ですが、我が家のこたろうともももは、埼玉県で保護猫活をしている里親さんから、生後2-3か月後(保護猫だったため正確な日齢は不明)第1回の三種混合ワクチンを打った後に、我が家にやって来ました。里親さんに聞いてみましたが、里親活動をしている人の多くは、子猫をおよそ2-3か月(56-79日齢)で譲渡していることが多いといいます。

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お気に入りのスポットで寛ぐこたろう

ちなみに、販売日齢や出産の回数制限(繁殖制限措置)に関しては、2012年の動物愛護管理法の改正のために設立された、中央環境審議会動物愛護部会「動物愛護管理のあり方検討小委員会」の中で何度も議論に上っていたのですが、最終的にまとめられた2011年12月に「動物愛護管理のあり方検討報告書」においては、この2点に関しては「~すべき」という、事業者の自主的な取組みとして記述がなされたのみになっています(注4)。一部の報道によると、ようやく出産回数制限に関しては、環境省が規制を設ける方向で検討会にて議論を開始するとしています。

出産の回数制限は、犬に関しては、英国やドイツのように、年齢1歳以上で、生涯で5-6回の出産にとどめるべき、という意見が多いようですが、猫に関しては、同上の報告書では特に記載がないという状態になっています。

長くなってしまいましたので、次回に続きます。


(注1)ペット総研(http://www.pet-soken.jp/result/blog.cgi/permalink/20160719020000)によるアンケート調査結果より。複数回答。アンケート実施期間は2016年3月、有効回答者数1,407名、うち猫の回答者数は466名となっている。
(注2)「東京都における犬および猫の飼育実態調査の概要(平成23年度)」(http://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/
kankyo/aigo/horeishiryou/siryou.files/23tyousa_gaiyou.pdf
)によるアンケート調査結果より。アンケート実施期間は2011年12月、有効回答数は、猫で175件となっている。
(注3)環境省が2016年8月に公示した「平成28年度犬猫幼齢個体を親兄弟から引き離す理想的な時期に関する調査手法等検討業務」(http://www.env.go.jp/kanbo/chotatsu/20160804_92808.html)の結果を待ちたい。
(注4)中央環境審議会動物愛護部会「動物愛護管理のあり方検討小委員会」第5回議事録(http://www.env.go.jp/council/14animal/y143-05a.html)等。「動物愛護管理のあり方検討報告書」は以下に掲載(http://www.env.go.jp/council/14animal/r143-01.pdf)。



ネコノミストの研究室ブログライター紹介

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北 洋祐

京都大学経済学部卒業。三菱UFJリサーチ&コンサルティングの研究員として、中小企業政策、スタートアップ企業政策の研究に従事。一匹の野良猫を保護して飼い始めたことをきっかけに猫派となり、それ以来ライフワークとして動物愛護分野の研究にも勤しむ。2016年からは、人と猫の望ましい関係について考え発信する「ネコノミスト」として活動。現在は元野良猫のシンスケと保護団体から譲り受けたゴマの2匹とともに暮らす。好きな猫マンガは伊藤潤二『よん&むー』

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武井 泉

市立高崎経済大、東京大学大学院卒業。独立行政法人の研究所等を経て2007年より三菱UFJリサーチ&コンサルティングに入社。アジア・アフリカの国際協力事業(農村開発、社会保障等)や、ハラール市場についての業績多数。2015年より、ネコの幸せと人との共生を考える「ネコノミスト」としても活動を開始。現在、5歳の2匹の元保護猫と暮らす。これまで一緒に暮らした猫は40匹以上にのぼる。趣味は、園芸と、海外出張の合間のネコ撮影、ネコグッズの収集。

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