ビデオゲームの脳への影響

ビデオゲームに興ずる子供(写真:アフロ)

学童を持つ今の親にとって、子供がビデオゲーム中毒にならないよう、どうルール設け、それを守らせるのか頭の痛い問題だと推察する。学業に影響ないだろうか?将来の人格が変わるのだろうか?など心配の種は尽きない。

しかし脳研究から見た時ビデオゲームは必ずしも悪い面だけではない。例えば2013年9月には高齢者の認知機能を高めるビデオゲームについての構想がNatureに掲載され(301:97, 2013)、私のNPOのホームページでも取り上げた(http://aasj.jp/news/watch/407)。一方、シンガポールの学童の研究(Pediatrics 127:e319, 2011)や、英国の10歳から15歳の学童についての研究(Pediatrics 134:e716, 2014)は、ビデオゲームで遊ぶ時間が長いと、行動や社会性に悪影響を及ぼすことを示している。

証拠はないが、私もビデオゲームは脳の発達に大きく影響すると思っている。というより、そのようは変化を誘発できるゲームが人気のゲームとして売れるのだろう。いかに内容がバーチャルであっても、短い間隔で繰り返す興奮・失望・怒りなどの感情が脳の発達に影響しないとは思えない。ただゲームを善か悪かなどと断じることは難しい。特に、ビデオゲームを経験しない私たち世代だけで判断し得ることではない。

その代わりに、ビデオゲームの脳に対する影響について繰り返し調査を行うことは、将来その結果を振り返って調べるための貴重な資料になる。この点で、今日紹介するスペインのdel Mar病院から発表された論文は、3000人近い学童について調べていることと、また行動上の変化を脳画像の変化として捉えようとしている点で重要な貢献だと思い紹介することにした。タイトルは「Video gaming in school children: How much is enough ? (学童のビデオゲームの限度)」だ。

この研究ではスペインの39の学校から7-11歳の2897名をリクルートし、まずビデオゲームを日常行っているグループと、行わないグループに分け(2442名がゲーマー)、様々な脳機能、性格などについて、親からのアンケートを含む様々なテストを用いて評価している。加えて、約300人の子供達についてはMRIを用いて、脳の白質(神経繊維が豊富な部分)の大きさ、拡散テンソル法を用いた神経同士の結合について調べ、脳機能や性格と脳構造の変化を相関させようとしている。

対象となった子供達が行っているゲームの種類は実に多様で、それぞれで影響が異なるようにも思えるが、、今回はその内容で層別化することはしていない。

結果だが、まずビデオゲームは明らかに学童の運動反応を高める。このことは、これまでの研究でも指摘されてきた。ただ、この効果を得るためには週1時間ゲームで遊べば十分で、それ以上遊んでも運動能力がさらに高まることはない。また面白いことに、学業の方も、少しではあるがゲーマーの方が良いという結果が出ている。

一方、睡眠時間、作業記憶、注意力など他の様々な指標についても調べているが、今回の調査では差は見られていない。

悪い影響も認められる。ゲームで遊ぶ時間が2時間を超えると、遊ぶ時間に比例して行動障害の頻度が上がる。これはシンガポールや英国の調査を裏付ける。

以上を総合すると、週1時間程度は明らかに学童の運動機能を高める効果があるビデオゲームだが、やはりのめり込むと行動障害につながるという結論になる。

次に、この行動上の変化と相関するMRIによる脳画像上の変化がないか調べている。

主だった結果を以下にまとめるが、ここで出てくる脳領域の名前については、一般の人には馴染みがないと思うので、この部分は気にせず読み飛ばして貰えばいい。

1) まずゲームで遊んでいる対象では、運動機能に関わる領域、線条体の白質部分が、明らかに増大している。

2) 拡散テンソルで調べた神経結合性でも、線条体の側方につながる部分が上昇している。

3) 被蓋と尾状核との機能的結合の上昇もゲームで遊ぶ集団で見られる。特にゲーム時間が長いと、前帯状皮質との情動に関わる部分のとの結合性が上昇している。

脳画像については私も素人なので、どこまで行動と相関できているのか評価のしようがないが、要するに大脳皮質と視床を含む脳幹を結びつけている基底核で神経同士の結合が解剖学的にも、機能的もゲームで遊ぶ子供で上昇しており、これは運動機能上昇と強く相関してそうだという結論だろう。残念ながら、行動異常と相関する脳領域についてははっきりとした答えはまだ出ない。

結論的には、「やりすぎはいけないが、ゲーム自体は上手く使えば脳領域間の神経結合性を高め、運動機能の向上に寄与する」という結果だ。

しかしこの結果は、親のコントロールが効く学童の話だ。独立して生活している若者だと、全く自己規制が効かず中毒に陥る場合もあるように思う。従って学童に限らず、次は若者のゲーム依存症の調査も重要ではないだろうか。

高齢者にゲームが効果があるなら、青年の脳に及ぼす効果はもっと大きいはずだ。