フェイスブックがベトナム戦争の報道写真「ナパーム弾の少女」を次々削除…そして批判受け撤回
コメントする09/10/2016 by kaztaira
フェイスブックがコンテンツの扱いを巡って、さらなる騒動を巻き起こした。
発端は、ノルウェーの作家が、ベトナム戦争を象徴する報道写真「ナパーム弾の少女」をフェイスブックに投稿したことだった。
ナパーム弾の爆撃から逃げ惑う裸の少女を捉えたこの写真を、「全裸」を理由にフェイスブックが削除。抗議をしたこの作家のアカウントも停止に。
さらにこの経緯を問題の写真とともに報じたノルウェー最大の新聞や、同国の首相のフェイスブック投稿まで、削除されてしまったという。
沸き上がる批判を受け、フェイスブックは結局、削除措置を撤回した。
人間の編集者による「保守派メディア排除」批判、そしてアルゴリズムによるデマの掲示――とフェイスブックのコンテンツ選別を巡るぎこちなさは、これまでも紹介してきた。
※参照:編集者を解雇したフェイスブック、アルゴリズムがデマをピックアップする
「メディアではなく、テクノロジー企業」というフェイスブックの主張は、ますますその実態と乖離してきているようだ。
●削除された1枚
8月19日、ノルウェーの作家で・ジャーナリスト、トム・エゲランドさんが戦争に対する世論を変えた、被害者としての子どもたちを撮った8枚の報道写真をフェイスブックに投稿した。
すると、そのうちの1枚が削除された。削除の理由は「裸」が写っているからだという。
削除された1枚は、1972年のベトナムで、AP通信のカメラマン、ニック・ウトさんが撮影した「ナパーム弾の少女ナパーム弾の少女」だった。
当時9才の少女が、全裸でナパーム弾の攻撃から逃げてくる姿を捉え、ピュリツァー賞を受けた歴史的な報道写真だ。
さらにエゲランドさんが、これに抗議の声をあげたところ、一時的にアカウントそのものが停止されてしまったという。
●編集長が声を上げる
この問題に声をあげたのは、ノルウェー最大の日刊紙「アフテンポステン」の編集長、エスペン・エジル・ハンセンさんだ。
8日付で、フェイスブックCEO、マーク・ザッカーバーグさんへの公開書簡という形で、騒動の経緯を報じ、抗議を表明した。
「マークへ。私はこの写真を削除せよとのあなたの要求に応じるつもりはないということをお知らせするためにこれを書いている」と題した記事によると、同紙のフェイスブックへの投稿も、削除の対象になったのだという。
さらに9月7日、この写真とともにエゲランドさんの騒動を取り上げた同紙のフェイスブックへの投稿に対し、削除を要求するメールが、フェイスブックのドイツ・ハンブルグのオフィスから届き、それから24時間足らずで写真は実際に削除されたという。
「マーク、あなたは世界で最もパワーのある編集長だ」とハンセンさん。「あなたはそのパワーを乱用していると思う」
●首相の投稿を削除する
騒動は、そこにとどまらなかった。
ノルウェー保守党の代表で同国首相、エルナ・ソルベルグさんも「フェイスブックはこのような写真を検閲することで間違った方向に進んでいる」と、この写真を投稿。
すると、フェイスブックは9日にその投稿も削除したのだという。
ソルベルグさんは、フェイスブックへの投稿で、この削除について、こう指摘する。
フェイスブックがこの種の画像を削除するということは、それが善意によるものかも知れないが、私たちの共通の歴史を編集することになる。
フェイスブックはこの機会に、自らの編集ポリシーを見直し、幅広いコミュニケーションプラットフォームを運営する大企業が担うべき責任を引き受けて欲しいと思う。
●批判と撤回
ニューヨーク・タイムズによると、この削除作業は、アルゴリズムによってまずフェイスブックのポリシーに違反する可能性のある画像をピックアップし、さらに人間が可否を判断する手順になっているようだ。
フェイスブックの写真削除問題は、「#DearMark」のハッシュタグで世界的な批判の声につながっていったという。
フェイスブックはついに9日、写真削除の撤回を表明した。
声明の中で、フェイスブックはこう説明しているようだ。
裸の子どもの画像は、通常は我々のコミュニティースタンダードに違反すると推定されます。そして、いくつかの国では、児童ポルノと見なされる可能性もあります。今回のケースでは、我々はこの画像が、時代の特別な瞬間を記録した、歴史的、世界的な重要性があることを理解しました。
それを、もう少し早い段階で、理解してもよいのではないだろうか。
※ダン・ギルモア著『あなたがメディア ソーシャル新時代の情報術』全文公開中
※このブログは「ハフィントン・ポスト」にも転載されています。
Twitter:@kaztaira