小学生の頃、僕の頭の中の半分は食べ物、もう半分はサッカーで占められていた。毎日朝5時から近くの公園で一人朝練をする。
給食後の休憩時間にはクラス対抗でサッカーの試合をした。Jリーグもなかった時代だけれど僕は本気で試合して負けたら泣いた。
放課後は学校のグラウンドでコーナキックの練習をする。陽が落ちると家に帰って、ご飯を食べて、お風呂に入って、寝る生活。
ある日、同じクラスの女子から5歳の弟を朝練に参加させて欲しいと言われた。いいよと答えると次の日から公園にやってきた。
爪先じゃなく足の甲でボールを蹴ることを弟君に教えた。自分の練習が疎かになったけれど辛抱強く教えた。秋から冬になった。
冬の朝はきつい。足の指が霜焼けで痛くなる。それでも弟君は休まず参加した。次にヘディングを教えた。次の日、姉君が来た。
この子の頭はまだ固まってないので、ヘディングは教えないでと言う。リフティングも腿の骨が柔らかいので、教えないでと言う。
教える事がないので朝練は来ないで、と言うと弟君は泣きながら帰って行った。姉君は弟君を慰めながら、僕を睨み続けていた。
小学校卒業式の日。不思議な体験をした。校庭でサッカーボールの壁当てをしているとあの弟君がスカートを履いて近づいて来た。
髪も肩まで伸び、まるで女の子のようだ。あの時はありがとうございました、と実は女子だった、と聞かされて、びっくりした。
サッカーがやりたくて男子と嘘ついててごめんなさいと言われた。今は女子サッカー人気だが30年前はそんな時代だったのだ。
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