しかし、駅からちょっと歩くと、雰囲気は様変わりします。伊勢佐木町、長者町、果ては町名すら定かではない裏路地……。大型商業施設の明かりに煌々と照らされたメインストリートや、洋風造りの建物が立ち並ぶ「これぞ横浜!」と観光客が喜びそうな小洒落たスポットとは全く異なる、淫靡な雰囲気。
錆びついた看板の商店がちらほらと軒を連ねる、人気のない街並みには、昭和の残滓のようなものがいたるところに染み付いており、どこからともなく青江三奈の「アァ~…」という吐息交じりのあのブルースが聴こえてきそうです。
観光地としての「港町・横浜」に組み込まれることを頑なに拒否しているかのようなその街に、よく似合う女性がかつていました。横浜メリーと呼ばれた伝説の娼婦です。
横浜の「陰」の部分を伝える存在だったメリーさん
今や「メリー」といえば、「SMAP解散の黒幕」をイメージする方が多いと思いますが、こちらのメリーは、歌舞伎役者のように白粉を塗り、フリルのついた純白のドレスに身を包むという、驚くほど真っ白な白髪の老娼婦。96年くらいまで横浜駅や伊勢佐木町近辺によく出没していたらしく、30代後半から上の横浜出身者にとっては名の知れた人物です。
彼女が老いてなお、娼婦として街頭に立ち続けていた理由はよく分かっていません。…