先日『意味不明なことばかり言ってるUXデザイナー達の代わりに「UXデザインとは何か」を端的に説明しよう』と言う記事がバズってた。
でもね、世に言う「UXマン」っているじゃないですか。
いかにも自分は上流工程だと言わんばかりに様々なフレームワークや聞こえはいい理論を振りかざしているにも関わらず、自分では手を動かしてモノをつくらないし、いざつくってもらったらアチャーなアウトプットだす人たち。
僕は、モノづくりに従事している人間なら「アウトプットで語れ」という哲学を持っていて、Twitter上で同意する考えをコメントした所、数名から辛辣すぎると言う意見をもらったので、もう考えを少し補足してみました。
UXデザインをチームに浸透させる事が使命になると本末転倒
僕もUXデザインを顧客重視のモノづくりと定義するならば、その考え方は凄く好きだ。
ただ、最近話題になるように 「UXを業界やチームに浸透させる事が使命」と言う人も出てきて、力の向き先が顧客やプロダクトでは無く、組織内や人に向いた布教が目的になっている人が出てきているのも事実だと思う。
UX業界の対外的UXの悪さはヤバいから、もうUXの布教にはUX業界全体でUXって単語の使用を禁止するほうが、UXのUXが高くなるのではないかという問題提起
— Takayuki Fukatsu (@fladdict) 2016年8月22日
敢えて言うけど、UXに特化したポジショニングのUXデザイナーや人間中心設計専門家って聞こえは良いけど、本人自体のモノづくりスキル、キャリアはいまいちな事が多くて、その知識で何を作ったか、作っているのか?と聞くとあいまいな回答が帰ってくる事も多い。
と言うのも僕の感覚では、1年〜2年手を動かす仕事から離れると技術変化に追いつけなくなるため、開発ディレクションを語るにはリアリティが無く、よほどサービス感がある人じゃないと、プロダクトを作り上げていくフェーズにおいては価値を発揮しにくい職能になってしまうと思う。
アカデミック知識の重要さを否定するわけではないけど、サービスを作る時一緒に働きたい人は、多識な人ではなく、今作ろうとしてるモノの領域を信じて執着できる人だ。その上で、「具体的にどういうインターフェースであるべきか、習慣化させるために必要な継続的な工夫は何か」を膝を付きあわせて話し続けられる仲間であって、予期的UXという一般論や概念では無い。
手を動かす人が企画して実行する方が生産性が高い
最終形態かもしれないがシンプルに考えて、開発チーム全員が手を動かせる状態の方が生産性が高い。そして専門知識より、MVPのフィードバックで得た経験値の方がチームをレベルアップさせる。
冒頭の記事で「UXとはみんなでちゃんと企画すること」と定義されてるけど、ここ数年バズった恩恵で、現場のデザイナーやエンジニアも「ユーザーの使い勝手の最重視」つまりユーザー・ファーストが大事な感覚を理解した上で、自分たちなりに工夫して実践し始めている。
例えば、最近読んだスライドでは
手を動かすプレイヤーがユーザーの使い勝手を想像し、工夫・実行できるように仕組み化しているので個人がディレクションするのではなく、客観的なフィードバックを受けられる仕組みがディレクションとなる文化に置き換わってきた。
その背景として、プロトタイピングツールやリアルタイムの分析ツールが一般化した事で、現場の人間が直接フィードバック受けれる機会が増えたというのも大きいと思う。
『おいおい。うちのチームまだそんなに良い環境じゃねーよ』って人もいると思うけど、コストもかからないのでまずはスライドなどを参考にやってみると良いと思う。
ただそこに”いわゆるUXマン”が参入してくると、ベーシックなフレームワークで被せられ『まずはペルソナ作りましょう』など広義な話に引き戻されるし、最悪なパターンとして「自分はセンスがないのでUIは任せますね」という感じで、上流工程でお手並み拝見スタンスになる事もある。
その結果、チームで企画を考えるのではなく、個人がディレクションする逆行状況になり、UXデザイナーに対する反論記事が増えてきたというのが事の顛末だと思う。
「僕はUXデザインだけではなく、モノも作れます!」って人も多いと思うけど、その場合は、理論でマウントを取りにいくのではなく、モノを作りながら結果で示してくれた方が周りの納得感も高いと思う。
・UXに関わる仕事をして感じた4つのこと
http://baigie.me/nippo/2016/07/19/ux%E3%81%AB%E9%96%A2%E3%82%8F%E3%82%8B%E4%BB%95%E4%BA%8B%E3%82%92%E3%81%97%E3%81%A6%E6%84%9F%E3%81%98%E3%81%9F4%E3%81%A4%E3%81%AE%E3%81%93%E3%81%A8/
・UXという理解し難いモノと向き合う forエンジニア
http://qiita.com/netetahito/items/88a61128d26ff17bd418
現場とUX専門家との役割を棲み分ける
では、UXデザイナーの専門家は何をする人なのか、という質問をされた時の答えとしては、対チームではなく対外的な交渉や巻き込む時において価値を発揮していくべき職能だと考えている。
前回の記事でも書いたけれどユーザーにとって理想的なモノづくりを実現するには、交渉力や関係者の巻き込み力が必要になる。特にIoTにおけるユーザー体験を追求していくと、ウェブ完結型ではなく非ウェブ業界との連携、アセット活用が重要になってくる。
例えば、スマートロックを使って感じるのは、既存の物理キーより解錠の手数が増えるUIになってしまうので、スマートと言うには若干遠い状況だ。理想としては、開ける意志を持ってドアに近づいた時だけ、自然解錠されるようなモノが望ましいが、内側のキーシリンダー外付け + iPhoneアプリでそのユーザー体験を実現する事は、iOSの仕様的に難しい。
そのため、独自では無く既存の鍵メーカーと組んで、鍵そのものの仕組みを置き換える事で理想に近づけると思うが、技術的には可能でも、実現にあたってリソース調達や技術連携は、モノづくりとはまた違うスキルが必要になる。
UXデザイナーがプレゼンスを発揮すべき所は、定量評価ができない状況・類似事例が無い場合においても、何故そのサービスが必要なのか、その理由の土壌みたいなものを言語化して説得する事だと考えている。非インターネット業界の人を巻き込む仕事は、今後重要になっていくと思う。
イノベーションを起こすためには何が必要か
世の中のプロダクトやサービスをよりよいものにしたいという想いが非常に強かったことを覚えています。ユーザー不在の組織や社会にイノベーションを起こす思想こそ、日本のものづくり文化の再建に貢献するだろうと確信しました。
とある、UXデザイナーのブログでこんな文章を読んだ事がある。
なんだかんだ言っても、良い物を作りたい想いは同じなんだと思うけど、あえて言うと”現場でユーザーの事を考えてない奴なんて居ないし、イノベーションを起こしたくない奴も居ない“と思う。少なくともウェブ業界にはかなり健全だ。
日本の新規事業開発においてよく言われるのは「大企業では、イノベーションを評価できる人がいないことから、新しいアイデアが生まれても、それを推進できる環境では無い」という課題がある。例えば、ソフトとハードウェア部門が分かれている事でアジャイル開発できない弊害や、入念な安全規格やリーガルチェックが入り無難なアイディアに着地せざるを得ない。それで、多くの技術者は悔しい思いをしてきたと思うし、僕もその経験がある。
でも、いつか実現できる時が来ると信じて僕らは日々技術を磨くのだけど、UXデザイン専門家がデザインの価値というモノを証明して、それらを変える動きをする事は、現場の最適化よりモノ凄くインパクトのある事だと思う。
現場からは以上です。