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「学び直し」しない日本の会社員人生は危ない

東洋経済オンライン 8月15日(月)9時0分配信

 日本政府は閣議決定した事業規模約28兆1000億円の「未来への投資を実現する経済対策」に経済界から特に要望の強い働き方改革を盛り込みました。すべての労働者が意欲と能力を十分発揮して生産性の向上を図り、仕事と生活の調和のとれた働き方を実現するための取り組みを進めていくことになるようです。

 安倍首相は記者会見で、ここでの最大のチャレンジは働き方改革であり「同一労働同一賃金を実現し、非正規という言葉をこの国から一掃する」と力を込めて宣言。おそらく、内閣改造で新設された「働き方改革担当相」により正規・非正規雇用の賃金格差を解消することや、時間外労働規制の見直しなどに着手することになるのでしょう。

 すでに行政のHPには働き方改革をすすめる宣言などがアップされています。話題の東京都HPには「TOKYO働き方改革宣言企業制度を創設します!!」と高らかにうたって企業を支援する制度が記載されていました。

■ 社会人の「学び直し」のニーズが低い状態

 確かに働き方に関して、生産性、創造性などの点で世界と比較して日本は大きく劣っていると言われています。その改革になればいいのですが、いくつかとくに海外との差などから改善が必要と思う点があります。

 そのひとつは休暇取得でしょう。この点については、長時間労働の是正や年次有給休暇などの取得促進などのため、各種の施策が準備されるようです。

 もうひとつ、当方がぜひ改善が必要と思うのが「学び直しがない」という点です。

 日本では25歳以上の大学入学者の割合が2%と極端に低く、特に社会人の「学び直し」のニーズが世界的に低い状態です。では、学び直しをしたくないか? というと、そうではないようです。

 内閣府の調査でも大学などで学びたいと考えている人は8割近くになります。ただし、学びたいと考えている人のうち半数は教養を深めて人生を有意義に過ごすのが目的。残りの半数は仕事上の必要性を感じてと回答しています。なので、全体で4割は仕事のための学び直しを希望していることになります。とすれば、学び直しはしたい人がたくさんいるのに誰もできないのが現在の職場環境ということになります。これは大きな問題ではないでしょうか。

 世界では25歳以上の大学での入学割合について、第1位はアイルランドで32%。以下、ニュージーランド、スウェーデンと続き、日本が最下位。OECDの平均は18.1%。さらに就業を目的とする高等教育機関への入学者のうち25歳以上の割合は、OECD各国平均で3割超にも達し、社会人学生も相当数含まれる一方、日本人の社会人学生比率は約21%と同様に低い状況です。つまり、社会人になってからの自分の社会人としての成長機会は会社における人材開発に限定されるのが実態ということになります。はたして、これで働き方の改革はできるのでしょうか? 

■ 学び直しさせた社員が辞めてしまう問題

 日本企業でも社員の学び直しを重要視し、選抜した社員の国内外の大学への留学を積極化していた時期がありました。ところが、学び直した社員が別の会社に転職をするケースが続出。これでは、会社にとって意味がない……とやめてしまうのも仕方がありません。

 ちなみに当方もリクルート社時代、国内の大学院に留学させてもらいました。その当時、同じように留学した社員が数名いました。ところが卒業すると間もなく、当方以外はベンチャー企業の役員に転職、ないしは自ら起業するなどして会社から去っていきました。当然ながら、留学にかかった費用はそれなりのもの。「学び直しさせても、会社にはメリットがない」と留学の中止を叫ぶ役員の意見があって、その後に留学制度がなくなったと記憶しています。

 おそらく同じような出来事が起きて、学び直しを見直した会社がたくさんあったのでしょう。それから、時間は経過しましたが、この問題はあまり改善されぬままの状況が続いているようです。

 さらに問題なのが人材開発のための研修などの実施が、内製重視になっているという点。文部科学省の調査でも企業の人材開発で大学を活用しているのが数%しかないのに加えて、外部の研修機関を活用することをせずに社内で行う傾向が顕著になっています。

 取材したあるコンサルティング会社のマネージングディレクターは、海外のMBAを取得。会社を辞めずに学び直しするということを会社に理解してもらおうと、根回しには相当な時間をかけたようです。残念ながら会社側は学び直しを応援する状況ではなく「会社に迷惑をかけないのであれば、どうぞ」という渋々な感じであったようです。このような状況では大抵の人は学び直しはあきらめてしまうのではないか、と語ってくれました。

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最終更新:8月15日(月)9時0分

東洋経済オンライン

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