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【正論】韓国防相「THAAD情報は日本と共有しない」答弁は中国への配慮か 危機が韓国内で自己完結するはずがない 防衛大学校教授・倉田秀也

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韓国防相「THAAD情報は日本と共有しない」答弁は中国への配慮か 危機が韓国内で自己完結するはずがない 防衛大学校教授・倉田秀也

正論更新

 曲折を経て、高高度防衛ミサイル(THAAD)の韓国配備が決定した。配備されるのは韓国南東部慶尚北道の内陸、忠清北道との道境に近い星州という。韓国国防省はTHAADが配備されることで韓国が「戦時」に陥った際、日本海側からの米軍の増援を接受する釜山、大邱をはじめ韓国の大半の防御に寄与すると説明した。

中国に配慮した独自の解釈

 ミサイル防衛と韓国との関係は、1990年代後期、金大中政権の戦域ミサイル防衛(TMD)導入論議に遡(さかのぼ)る。それが逡巡(しゅんじゅん)を極めたのは、多分に韓国が置かれた地政的条件による。韓国にTMDが配備されれば、米国のミサイル防衛網に連動することで、中国がその対米抑止力が削(そ)がれるとの疑念を向けたからであった。逡巡の末、韓国が導入したのは、低層防衛のみ、しかもドイツ空軍の中古PAC-2だった。当時の韓国にとって、対米外交と対中外交の双方を管理する上での均衡点だったのかもしれない。

 朴槿恵政権もまた、低層防衛をPAC-3へ格上げするなど、韓国型ミサイル防衛(KAMD)を構想している。ミサイル防衛に「韓国型」の枕詞(まくらことば)を冠するのも、それが中国を対象としないことを強調するために他ならない。かくして、かの地ではミサイル防衛とは、中国を念頭に置く米国の構想と同義に解される。ミサイル防衛という語それ自体が、中国への含意をもつとでもいうべきか。

 今回のTHAAD配備が朴槿恵大統領にとって苦渋の選択だったのも、以前のTMDなどよりも、中国に向けてもつ含意が大きかったからに他ならない。確かに、THAADの迎撃ミサイルは、韓国を目標として下降する終末段階のミサイルにしか作動しない。問題は、THAADの一部をなすXバンドレーダーがそのモード次第では、中国の弾道ミサイルを追尾しうることだった。

 THAAD配備決定を受け、異例にもたれた国会臨時会でも、韓民求(ハン・ミング)国防相はTHAADが米国のミサイル防衛の一部を構成するものでないと殊更、強調した。THAADが在韓米軍の装備でありながら、山脈東側の星州に配備を決定したのも、そのXバンドレーダーが中国の弾道ミサイルを追尾するものではないことを示すためであったろう。

地域的に広がるミサイル情報

 ただし、ここで韓民求氏が、韓国軍が得た北朝鮮の弾道ミサイルの情報は日本と共有しないと答弁したことは吟味されなければならない。もとより、韓国に着弾しようとする北朝鮮のミサイルを迎撃するとき、自衛隊が果たすべき役割はない。その限りで、韓民求氏の発言は誤りではない。だが、THAADのXバンドレーダーは日本に向かう北朝鮮の弾道ミサイルも追尾できる。

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