前回、中島氏と松原氏によって紹介されたSF小説&漫画『未来の二つの顔』のストーリーは、「AIが人類滅亡の脅威となりうるほどの進化を遂げるとき」というニュアンスで使用される「シンギュラリティ」のリスクを想起させるものでした。しかし、両氏は「『シンギュラリティ』はもともとの定義とちがった意味合いで使われている」と指摘し、その本来の意味と、今後、人類はAIの進化にいかに対応すべきかについて語り合いました。
(文・構成/佐保 圭、写真/涌井タダシ、協力/高柳 浩=公立はこだて未来大学 客員教授、撮影協力/日本ビジネスシステムズ)
人類が生物学を超えるとき
――最近、「シンギュラリティ」という言葉をよく耳にします。『未来の二つの顔』のストーリーを考えると、やはり、AI(人工知能)が進化して「シンギュラリティ」を超えてしまったら、私たち人類はAIをコントロールできなくなって、AIに支配されたり、攻撃されたりしてしまう可能性もあるのでしょうか?
中島:その話をする前に確認しておきたいのは、最近「シンギュラリティ」という言葉が、もともとの意味とはちがった使われ方をしているということです。
――一般的には、2045年頃と予測されている「AIが人類の知能を超える時点」と考えられていると思うのですが?
中島:もともとは、そういう意味ではありません。
松原:そう。いろんな人がいろんな意味で使い始めちゃったけれど、もともとは、ちがう。
中島:2045年にシンギュラリティが起こるかどうかはわからないけど、「シンギュラリティ」の本来の意味は、人類の......AIじゃないですよ......人類の進化曲線が、無限大になるポイントを指す言葉で、「技術的特異点」と訳されます。たとえば、「y=1/x」で「x=0」になると「y」は無限大になる。そういう「特異点」を指す言葉で、平たく言えば「AIは人間を超える」というよりも「人間はAIと合体して、もっとすごくなる」という話。
松原:本来の意味は、そうですよね。
中島:「シンギュラリティ」の本来の意味を知るには、カーツワイル氏の『シンギュラリティは近い』を読むといいよね。
松原:最近、要約版も出ましたから。
レイ・カーツワイル(Ray Kurzweil)著 NHK出版編『シンギュラリティは近い [エッセンス版] ―人類が生命を超越するとき(The Singularity Is Near: When Humans Transcend Biology)』(NHK出版発行)
中島:『シンギュラリティは近い』でカーツワイル氏が展開している理論の主旨は、「人間の生物的進化はあまり進まないが、そこをテクノロジーの進歩で超えよう」というもの。だから「When Humans Transcend Biology」というサブタイトルがついている。
中島秀之(なかしま・ひでゆき):東京大学大学院情報理工学系研究科 先端人工知能学教育寄付講座特任教授、公立はこだて未来大学名誉学長。1952年、兵庫県生まれ。
1983年、東京大学大学院情報工学専門博士課程を修了後、同年、当時の人工知能研究で日本の最高峰だった電総研(通商産業省工業技術院電子技術総合研究所)に入所。協調アーキテクチャ計画室長、通信知能研究室長、情報科学部長、企画室長などを歴任。
2001年、産総研サイバーアシスト研究センター長。2004年、公立はこだて未来大学の学長となり、教育と後輩の育成、情報処理研究の方法論確立と社会応用に力を注ぐ。2016年3月、公立はこだて未来大学学長を退任後、同年6月、同大学の名誉学長に。