シャープの2017年3月期第1四半期決算は、不採算事業の撤退や経費削減で営業赤字幅は縮小したが、全事業で減収となり、今後に不安を残す内容となった。3月末で312億円だった債務超過額は6月末で750億円に膨らんでいる。
シャープ、次期社長の「信賞必罰」に戦々恐々
台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業からの出資が実現すれば、債務超過は解消されるはずだった。当初、出資完了は6月末をメドとしていたが、いまだ実現されていない(8月3日現在)。
理由は中国当局による独占禁止法にかかわる審査が終わっていないことだ。シェアが比較的高くなるのは、車載用ディスプレー事業などが考えられるが、どの事業が実際に審査の焦点なのかは明らかにされていない。
■ すでに“実効支配”は始まっている
審査長期化の理由に、競合している中国の液晶メーカーによる、中国政府への働きかけを挙げる向きがある。中国の液晶大手、BOEや天馬微電子は地方政府からの手厚い支援を受け、液晶工場を近年相次いで新設している。自国企業への配慮から、鴻海・シャープ連合の成立をやすやすとは認められないというわけだ。「審査を理由にした情報収集や日本政府への牽制といった目的もあるのでは」とM&Aに詳しい早稲田大学の服部暢達客員教授は指摘する。
もっとも、中国政府の許可が下りないからといって、手をこまぬいているような鴻海ではない。すでに“実効支配”は始まっている。鴻海からは多くの人が送り込まれ、公然とシャープ社員に指示を飛ばしているという。出資完了までは経営の独立性を保つ必要があり、鴻海の戴正呉・副総裁のシャープ社長就任も、出資完了が条件となっているにもかかわらずだ。
「鴻海の幹部に『売り上げを生まないあなたたちはいつでも転職してくれて構わない』などと言われる」(40代男性社員)。現在シャープは希望退職を募集していないが、50代前後の管理職層の辞職が増えているという。「鴻海の社員は無理難題を押し付け、退職に追い込んでくる」といった声が聞かれる。
一方、鴻海では日本語に堪能な人材を中心に、シャープ改革の実行部隊採用に動いている。「日文人力資源主管(対日の人事の責任者)」、「日文財務會計與投資主管(対日の財務・会計・投資の責任者)」といったポストが台湾の人材サイトで募集され、採用人数は「不限(制限なし)」だ。
■ 考えられる2つのシナリオとは?
今後の焦点は、出資期限の10月5日までに独禁法の審査に通り、出資が完了されるのか。期限を過ぎた場合に考えられるシナリオは二つだ。
一つは期限の延長。ただ、シャープの株価は鴻海が取得する予定の88円を割り込む87円を一時つけ、90~92円をうろついているため、条件の見直しを迫られる公算はある。
もう一つは液晶事業のみの買収だ。瑕疵(かし)のない理由で出資できなかった場合、鴻海にこの選択肢も契約で認められている。ただ、液晶事業が審査長期化の理由なら、同様に審査は長引く。「人員や生産ラインに余剰感のある液晶事業は適正価格の算定が難しいという問題も出てくる」(みずほ証券の中根康夫アナリスト)。
結論が遅くなるほど、シャープは疲弊し、浮上が難しくなる。
田嶌 ななみ
読み込み中…