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キャッキャッ、キャッキャッと喜んだ熱帯夜の思い出

雑記

旧式のダッジバンに揺られ窓から東京の景色を眺めていた。カビ臭いシートに体を沈め缶ビールの空き缶に煙草の灰を落とす。

わたしが眼鏡を掛けておらず短髪を金色に染めあげ、今よりも五キロほど痩せていた、若かりし日の夏の思い出。

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わたしは汗をかいた缶ビールを片手に新しいマルボロに火を着けて少し窓を開けた。湿った熱帯夜の生温い風が頬を撫でる。ダッジバンの中には運転中の友人の他に三人の友人が乗りあわせていた。それぞれが片手にビールを持ち各々窓の外を眺めている。

わたし達は友人が経営する小さな居酒屋を目指していた。麻布十番にあるその小さな居酒屋は炭火で焼く本格的な焼鳥が売りでそれなりに繁盛していた。本人曰く、遊ぶ金に困らない程度には稼げているらしい。まあそうなのだろう。

缶ビールがなくなり不機嫌になりかけた頃ようやく十番に到着した。ダッジバンを停めて小さな居酒屋へ雪崩れ込む。小さな居酒屋はやっぱり小さくてわたし達五人がカウンターに座ると空いている席はたった三つしかなかった。それくらい小さな店だった。

貸し切った店の中でわたし達はくだらない与太話を延々と繰り返し、飲めや騒げやで大いに盛り上がった。待ち構えていた鶏肉達をビールや焼酎とともに蹂躙し、串を捨てる竹筒には新たな串を挿す余裕はなく、辺りには溢れた串が散乱していた。小さな店の中は鶏肉の油が炭に垂れて立ち昇る芳ばしい煙と、わたし達が吐き出す煙草の煙とで白く霞み皆一様に目の縁を赤くしていた。

ボロボロになった小さな店を閉め友人達と六本木へ向け歩き出す。いい気分に酔っていたわたし達はDQNよろしく歩道一杯に広がり練り歩いた。二次会の店を探しフラフラとあてもなく歩く。喚き、奇声を上げるわたし達の前にラフな格好をした図体のでかい外国人がこちらに向かって歩いてきた。不穏な空気が漂い出す。わたし達も外国人もお互い道を譲る気配がない。

いざ衝突。そう思った瞬間「えッ、レバンナじゃん!」と甲高い声で友人のひとりが叫んだ。「なんだ知り合いか」そうわたしが胸を撫で下ろしていると「うぅわっ、サム・グレコピーター・アーツ!!」と別の友人が叫ぶ。

そこにいたのは当時全盛期だった格闘技K-1の、選手であり顔であるピーター・アーツサム・グレコそれにジェロム・レバンナだった。喧嘩を売っていたら確実に殺されていただろう(ま、そんなことをプロの彼等はしないのだが)。

興奮したわたし達は一斉に握手を求めた。彼等もいい気分に酔っていたのか気さくに対応をしてくれる。調子に乗ったわたしがレバンナの腕の筋肉や腹筋を叩いていると、抱き上げてベアハッグをかましてきた。嬉しかった。まさかK-1の選手にプロレス技を掛けてもらえるなんて。ものすごい高さまで持ち上げられたわたしは子供のようにキャッキャッ、キャッキャッと無邪気に喜んだ。

 

ーあとがき

実はこの後、彼等と一緒に店に入り呑んだのですが、途中で金髪美女の軍団に彼等を奪われました。その後、わたしは友人達を裏切ってその店で逆ナンしてきたイギリス人の女の子とコッソリ328へ消えたのですが、その話しはまた別に機会に。

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