スーパーに登場 “ウナギ味”のナマズ
大手スーパーのイオンがことしの「土用の丑の日」商戦の呼び物として投入したのが、ウナギの味に近いナマズのかば焼きです。かば焼きは半身で1枚1598円(税込み)。大手スーパー各社に問い合わせたところ、これは一般的な国産ウナギのかば焼きよりは安く、中国産よりは高い価格水準だということです。
7月30日の「土用の丑の日」を含む3日間、最大で121店舗で合わせて7000枚を限定販売し、話題性もあってほぼ完売だったということです。
かば焼きに使われたのは近畿大学の水産・食料戦略分野の研究グループが、ウナギの代わりにしようと7年前から開発を続けているナマズです。ウナギの味に近づけるため、川や湖で育つナマズを地下水で育て、脂分をより多く含むエサを使ったということです。
大手スーパーで販売したかば焼きを試食させてもらいましたが、さっぱりとしていながらも脂がのって、ウナギに近い味わいだと思いました。私が幼いころに食べたナマズで印象に残っていた泥臭さは感じませんでした。
近畿大学の開発したナマズが大手スーパーで販売されるのは初めてで、今回は表面にオリーブオイルを塗るなどして、ウナギのかば焼きの食感の再現に努めたということです。
研究グループの有路昌彦教授は「大手スーパーでの販売を通じて、多くの人に食べてもらえるようになったことが本当にうれしく第一歩を踏み出したと思う。量産化ができるようになれば価格はさらに下げられるだろう」と話していました。
高騰が続くウナギ
なぜ、ナマズのかば焼きの販売を始めたのか。イオンリテールの松本金蔵水産企画部長は「ウナギの高値が続いて消費者の手に届きにくくなっているなかで、なんとか土用の丑の日の消費を盛り上げていきたかった」と話していました。
背景にあるのは、養殖に使う稚魚のシラスウナギの減少とそれに伴う価格の高騰です。農林水産省によりますと、国内でことし取り引きされたシラスウナギの価格は1キロ当たりの平均で182万円。去年より8万円高く、10年前(平成18年)の27万円の6倍以上になっています。
また、シラスウナギの減少で中国や台湾など海外で養殖されたウナギの日本への輸入量も減少し、輸入のウナギの価格も上昇傾向にあるということです。
東京・目黒区で50年以上にわたって店を続けるウナギ専門店「八ツ目や にしむら」では、仕入れ価格の上昇分を吸収できないとして、ことし4月からすべてのウナギのメニューを200円値上げしました。
うな重の「上」は、これまでの3000円から3200円になりました。店主の松本清さんは「多くの人に食べてもらいたいので、値上げを我慢してきたが限界です。今回の値上げ幅も採算がとれるぎりぎりのラインですが、お客も減ってきています」と話していました。
“ポストウナギ”を狙って
こうしたなか、冒頭で紹介したナマズのように、ウナギに代わる商品の販売に力を入れる動きも広がっています。
大手デパートのそごう・西武は、全国23店舗でさまざまなかば焼きを売り出しています。このうち、西武池袋本店ではイワシやハモ、そして豚肉などをかば焼きにした商品を約60種類販売して、売り上げは去年に比べ1割増えたということです。
そごう・西武の営業企画室の金丸芳正さんは「土用の丑の日と聞くと、甘辛い味付けのかば焼きが食べたくなることを狙った取り組みで、いずれの商品もウナギよりも割安で手頃な価格設定を意識した」と話していました。
ウナギは高級食材に
一方で、「土用の丑の日」には、おいしいウナギを食べたいという需要は根強い、とみているのがコンビニ業界です。ローソンは国産のウナギを使った3280円(税込み)の弁当を、ファミリーマートも国産のウナギと天ぷらをセットにした2780円(税込み)の弁当をそれぞれ予約販売しました。
さらに最大手のセブンーイレブンも、ことしから2680円(税込み)の高級なウナギ弁当の販売を始めました。去年、最も高かったウナギ弁当よりも850円高くなっていますが、ことしはウナギを炭火焼きにし、量も20%増やしました。セブンーイレブン・ジャパンの商品本部の郷智彦さんは「最近は土用の丑の日をイベントとして捉え、コンビニでもより価値のあるものを食べたいと国産のウナギ弁当を選ぶ人は増加傾向にある」と話していました。
あの手この手に注目
日本の食文化として定着しているウナギ。私も安く食べたいと思いますが、ウナギの資源回復や完全養殖の実用化にはまだ時間がかかるのが現状で、国産のウナギの価格高騰はまだ続きそうです。
こうしたなかで少しでも「土用の丑の日」に消費してもらおうという小売り各社のあの手この手の戦略に、今後も注目していきたいと思います。
- 経済部
- 加藤 誠 記者