あけましておめでとうございます!育児に学業、そしてお仕事と、2016年は今まで以上に忙しい1年になりそうですが、周囲の手を借りながら、バランス良く頑張りたいと思います。
前回に引き続き、スポーツを通して得た「力」についてのエピソードをご紹介させてくださいね。
「伝える力」 自分を表現すること、ぶつかることを恐れないこと
今は「コミュニケーション能力が大切だ」とよく言われますよね。でもコミュニケーションの方法・距離感は、日本とグローバルでは違います。日本人は繊細だから、人の顔色を見て空気を読もうとする。でも海外では、何を考えているのか、何を求めているのかわからない、と言われてしまう。文化や国民性の違いがあります。
私も、自分から前に行くタイプではなかったので、最初のうちは戸惑いもありました。観客の多いセンターコートではなく、できるだけ端っこのコートに入れて!と思っていたくらい。でも、1年のうち8ヶ月は海外にいる生活になると、もう慣れざるを得ません。郷に入っては郷に従え。その環境に自分をフィットさせる方法を身に付けていきました。
コーチやトレーナー、スタッフなど私をサポートしてくれる「チーム愛」のメンバーとは、一人ひとり本気でぶつかり合いました。上っ面だけの付き合いでは、チームは組めません。嫌なこともきちんと伝えて解決していかないと、信頼関係は築けない。そのためには自分自身もオープンである必要があるし、嫌なことを言われても受け止めなくちゃいけない。そうしてどんどん深いところで、厚い信頼関係が築けていく。そういうコミュニケーションの取り方が素敵だな、と私は思います。
今はメールやSNSなど、コミュニケーションの手段が増えました。私は筆不精なので、昔の“文通”の時代は、ほとんど手紙を書かずに音信不通状態、なんてこともありました。だから、SNSで手軽に繋がれるのは、便利な面もあります。ブログ・Facebook・Twitter・LINEなどSNSにも様々あって、「誰に向かって何を言うのか」を上手に使い分けている人もいますね。それぞれにコミュニケーションの深さ・浅さがあり、SNSは一つのツールです。時には顔を見たり声を聞いたりしながら、状況に応じたコミュニケーションを選んでいきたいな、と思います。
「負けたくないと思う力」 戦う相手は自分自身だということ
「負けず嫌いの子どもだった」とお話しすることが多いので、「今でも負けず嫌いですか?」とよく聞かれます。確かに子どものころは、トランプゲーム一つを取っても、負けることが嫌でした。でもだからと言って、相手がわざと手を抜いて勝たせてもらうのも、嫌。真剣勝負で勝ちたい、という思いが強かったんでしょうね。
私にとっての負けず嫌いは、自分がやるべきことをやらなかったり、もっとできるはずのことで力が出せなくて負けること。以前、車椅子テニスプレイヤーの国枝慎吾さんとお話しする機会があったのですが、「去年の自分と今の自分が対戦したら、10回中7~8回は勝ちたい」と言っていました。戦う相手は、自分自身なのです。
だから、たとえば自分が全然練習をしないままゴルフに行って良いスコアが出なくても、悔しくありません。練習をしていないことは、自分自身が一番よくわかっています。スポーツの世界は、そんなに甘いもんじゃない(笑)。
スポーツは、勝ち負けの世界です。負けたら、悔しい。だからそれを受け止めて、次に勝つためにはどうすればいいのかを考えて努力する。そうして次に進むことが、自分の成長につながります。でもそのためには、自分の弱さと向き合わなくちゃいけない。フタをして見たくないような部分を認めて、そこを磨かなくちゃいけない。このプロセスが、強くなるために必要なのだと思います。
「乗り越える力」 初心に帰り自分と向き合うこと
ジュニアのときはスランプを感じたことがなかったし、結果も付いてきてくれた。もちろん負けるときもありましたけど、挫折を感じることはありませんでした。でもプロになって上を目指すほど、すごい人はたくさんいることに気づきます。17歳でプロになり20代前半まで勢いで走り続けてきましたが、トップになるためには勢いだけではダメ。「私の持ち味はなんだろう。世界で戦う上で私の“得手”はどこにあるんだろう。何を磨けば世界と戦えるんだろう」。初めて“壁”を意識したのは。25歳のときでした。
テニスをやめたいと思いました。周りの人がみんな上手に見えて、誰にも勝てる気がしない。ボールが飛んで来るのが怖い。フォームもグチャグチャで、自分のテニスがわからない。自分を見失って、苦しみました。そんな私をどん底から救ってくれたのは、母でした。私は母に「これからどうやっていいのか、自分ではわからない。ママは私がどうすればいいのか、私のこれからが見える?」と尋ねたんです。すると母は「見えるわよ」とアッサリ答えた。だったらこの人に付いていこう、そう思いました。こうして母子でタッグを組んでのトレーニングが始まったんです。
そこからは、技術面も体力面も精神面も、すべて一から変えました。初心者のようにフォーム作りからやり直して、トコトン自分と向き合いました。一度どん底に突き落とされたからこそ、すべてをリセットして初心に帰ることができたし、人間的にも精神的にも成長できた。このスランプがあったからこそ、自分の夢である世界トップ10入りも果たせたのだと思って、今ではスランプに感謝しています。
母のことを、母親として、コーチとして、そして一人の人間として尊敬しています。そんな私が2015年の夏に出産し、一児の母となりました。私の母から学んだことを振り返りながら、自分らしい子育てをしていきたいと思います。
※このコラムは、保険市場コラム「一聴一積」内に、2016年1月14日に掲載されたものです。
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PROFILE
杉山 愛 (すぎやま あい)
元プロテニスプレーヤー、スポーツキャスター
1975年神奈川県生まれ。4歳でラケットを握り、15歳で日本人初の世界ジュニアランキング1位に輝く。17歳でプロに転向し、17年間プロツアーを転戦。グランドスラムでは女子ダブルスで3度の優勝(2000年全米オープン、2003年全仏オープン、2003年ウィンブルドン)と、混合ダブルスでも優勝(1999年全米オープン)し、グランドスラムのシングルス連続出場62回の世界記録を樹立。オリンピックには4回連続(アトランタ、シドニー、アテネ、北京)出場。WTAツアー最高世界ランクで、シングルス8位、ダブルス1位。2009年10月、東レパンパシフィックオープンを最後に現役を引退。2011年11月に入籍。現在は、後生育成活動やコメンテーターとして活躍中。
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