<参院選東北>被災者「1強」危惧と孤立感
与党圧勝で終わった参院選(10日投開票)で東北6選挙区は野党候補が5議席を占め、うち東日本大震災で被災した岩手、宮城、福島3県はいずれも野党候補が勝利した。震災から5年4カ月の11日、被災地の有権者の多くはアベノミクスや環太平洋連携協定(TPP)に「1強政治」の危機を感じ、震災復興の論戦が乏しかったことへのいらだちを募らせた。
被災した宮城県山元町の農業岩佐吉郎さん(75)は「アベノミクスのように今の政治は強い者に有利。農業政策も大規模農家を優遇するが、被災してローンを抱える農家は簡単に大きくなれない」と嘆く。「今後もその路線が続くと思うと心配だ」と漏らした。
「自民とは決別した」と明かす仙台市若林区の農業男性(64)は「TPP、農協改革。農政に苦しめられるばかりだ」と、今回は民進党を支持した。だが「自民よりはましという程度」といい、積極的な選択ではなかったと説明する。
選挙戦で復興の在り方を巡る論戦は影を潜めた。最大被災地・宮城県石巻市の仮設住宅に住む無職伊藤一子さん(76)は「仮設に入居後、今回ほど候補者が来なかった選挙はない。復興は道半ばなのに、忘れられたのか」と感じた。
福島県浪江町から福島市の仮設住宅に避難する無職大越ヨウ子さん(70)も「復興が置き去りにされた」と受け止めた。「復興を進める」と訴える各候補の政策の違いが分からず、「単に『私に(票を)入れて』としか聞こえなかった」と見透かした。
「風化を感じた。多くの被災者がいまだ仮設暮らしを強いられていることが忘れられている」。落胆するのは岩手県釜石市の平田第6仮設住宅団地の自治会長森谷勲さん(74)。「安保法制にせよ改憲にせよ、優先順位が違う。政治は生活に困る国民のためにある。もっと被災者に目を向けるべきだ」と注文を付けた。
2016年07月12日火曜日