J-Waveを救い、獄中の木嶋佳苗をトリコにする、オシャレなバンドの秘密

さまざまな文化が異なる関東と関西ですが、音楽においてもまったく異なる文化が育っているそうで。J-Waveどころか獄中の木嶋佳苗も夢中な、オシャレ関東代表Suchmosの本質とは。そして、芸人ばりのツッコミをみせる関西代表の岡崎体育の振り幅とは。
芸人、DJとして活躍されているダイノジ・大谷ノブ彦さんと、音楽ジャーナリストの柴那典さんの響きあうナビゲーションをお楽しみください。

東のオシャレ代表Suchmos

柴那典(以下、柴) 今回は、東京と関西の話をしようと思うんです。お笑いの世界ではよく言われることですけど、音楽シーンでも東京と関西の文化の違いが目に見えて違うものになってきてる。
 結論から言うと、東は「排他性」、西は「母性」ってキーワードで語れるんじゃないかなって。

大谷ノブ彦(以下、大谷) 排他性と母性? おもしろそう!

 というのも、まず今の時代、東京ローカルと関西ローカルで全然違う音楽文化が育ってると思うんですよ。

大谷 たしかにね。しかもどっちもおもしろいバンドがどんどん出てきている。

 そう。まず東の話からいくと、僕は今の「東京っぽさ」を象徴しているバンドはSuchmosだと思っていて。

大谷 Suchmosね! ネオシティポップの話「音楽と資本の蜜月の終わり! ネオシティポップの"新しさ"とは」でも話題にしましたよね。

 あの時はceroやAwesome City Club、Yogee New Wavesと並べて語りましたけど、彼らは「STAY TUNE」という曲でちょっと違ったステージに行った気がする。

大谷 最近、僕はSuchmosを「J-WAVEを救ったバンド」と言っているんですよ。もしくは、ショーンK騒動から救ったバンド(笑)。

 あははは、J-WAVEを支えていると。

大谷 1日にどれだけかかるんだよって。でも非常にJ-WAVEらしいですよね。洋楽のフレーバーも持っているし、不良っぽいところとかが絶妙にオシャレ。

柴 うん。で、Suchmos売れてるなーってつくづく実感した話があって。大谷さん、死刑囚の木嶋佳苗さんって覚えていますか?

大谷 付き合った男の人がみんな不審死しちゃった事件の……。

 そうそう。彼女は今、東京拘置所にいるんですけれども、支援者を通してブログを更新しているんですよ。そこに彼女が今Suchmosに夢中になっていることが書かれている。


2016年04月25日21:18|
木嶋佳苗の拘置所日記
夫に"サチモスが好き"と伝えたら、『今度差入れる』と言われました。お菓子だと思ってる模様」「もう Good nightと手紙に書いたら「寝てるよ」とキレられました。「STAY TUNE」の歌詞だと気付いていない確率99.9%〉

大谷 あははは。これはおもしろい!!!

 いやはや、拘置所の木嶋佳苗まで届くSuchmosの音楽を評価するか、拘置所からSuchmosをキャッチする木嶋佳苗のセンスを評価するか、議論が分かれるところですが(笑)。

大谷 拘置所がまさか「東京 Friday night」だったとはね(笑)。

 で、そんな木嶋早苗さんがSuchmosの虜になってるのは彼らがとにかくオシャレだからだと思うんですけど、オシャレさのポイントって、単にセンスがいいことだけじゃなくて「排他性」にあると思うんです。

大谷 「排他性」というと?

 つまり、「わかるやつだけわかればいい」というか、さらに踏みこんで言えば「何がダサいかを決める決定権を持ってる」ってことですね。

大谷 あー、なるほど! 確かに。

 特に「STAY TUNE」の歌詞はまさにそれを物語っている。

ブランド着てるやつ もう Good night
Mで待ってるやつ もう Good night
頭だけ良いやつ もう Good night
広くて浅いやつ もう Good night

「STAY TUNE」より

大谷 ほんとだ! めちゃくちゃ排除してる(笑)。

柴 僕の憶測ですが、「M」はマクドナルドのことをさしているんじゃないかな。マックなんかで待ち合わせするやつは先帰って寝ちゃいなって。

大谷 ダセえと。

柴 「ブランド着てるやつ、ダサいよ。頭だけ良いやつも広くて浅いやつも、もう帰っていいよ。これからわかってるやつらだけで、楽しい夜が始まるんだよ」っていう歌。排除しまくってるんです。

大谷 それも「Stay tune in 東京 Friday night」ですからね。地方度外視。でも、そう言えちゃうのがかっこいい。

柴 もちろんSuchmosはサウンドもいいけど、彼らの人気が広がっている要因は歌詞にあると僕は思ってますね。かっこよくてオシャレなサウンドを鳴らしてるバンドは他にもいるけど、ここまでオシャレなアティテュードを明快に書いたバンドはいなかった。

大谷 なるほど。それっぽいサウンドの真似はできる。でも、歌詞のメッセージやビジュアル、立ち方含めての説得力がそこにあるかどうかが大事なんですよね。

柴 そうですね。

大谷 ちょっと話ずれますけど、やっぱりビジュアルの説得力って大事だなって思うんです。

柴 と言うと?

大谷 いやね、THE YELLOW MONKEYが復活してつくづく思ったんです。音楽はもちろんいいけど、やっぱり4人とも背が高いのが何よりかっこいいなって。
※平均身長約177cm(菊池英昭 174cm、吉井和哉 183cm、 菊池英二 176cm、広瀬洋一 176cm)

柴 あー、わかります! 有無を言わさぬ説得力。

大谷 だってあんなに背の高いバンドっていなかったじゃないですか。やっぱり、THEE MICHELLE GUN ELEPHANTだって、サウンドも歌詞ももちろん最高だけれども、あのガタイにロックンローラーとしての説得力があった。
※1991年結成、2003年解散。一番左のアベフトシは187cm、左から3番目のウエノコウジは182cmあるとされる。

西の岡崎体育・ヤバイTシャツ屋さん

柴 ガタイの話でいうと、今話題の関西勢、岡崎体育のルックスは別の意味でずるいですよね。

大谷 あー、あの親しみやすいルックスといい、出てくるタイミングといい、すべてが絶妙でしたね。

柴 彼の『MUSIC VIDEO』観ました?

大谷 みたみた! めちゃくちゃおもしろい。「カメラ目線で歩きながら歌う」「急に横からメンバー出てくる」みたいなMVあるあるネタをひたすら歌ってる。

柴 そのMVを監督した寿司くんっていう人が、こやま名義でボーカルとギターを務めるバンドがあるんですけど。

大谷 ヤバイTシャツ屋さんでしょ?

 そう! あのバンドはとんでもない。

大谷 最高ですよね。彼らはこの前のダイノジロックフェスにも出たし、2年前には「出れんの? サマソニ」で大谷ノブ彦賞をあげてるんですよ。

柴 初めてヤバTのことを見た時、どう思いました?

大谷 「出れんのサマソニ!?」って野外ステージでのオーディションだから、お客さんが足を止めてくれるかどうかの一点で考えるんです。それだったらヤバTが一番おもしろがられるだろう、って。音楽性どうこうより、初めて来た人も一緒に巻き込んで楽しめるバンドだって思いましたね。

柴 「喜志駅周辺なんもない」という曲なんて、すごいですよね。「喜志駅周辺でいい思い出が少ない 天王寺まで400円はイタい」と歌ってる。

大谷 曲をやる前に手書きのフリップ出して「喜志駅に住んでいる僕たちは天王寺にすごい憧れがあるんですね」と早口で説明してる。(笑)

 なんでこんなことを歌詞にしたんだ、という(笑)。

大谷 僕が最初に聴いたのが「あつまれ! パーティーピーポー」という曲だったんですけど、これ、意外に批評性の高い曲なんですよ。

 LFMAOの「SHOTS!」をそのままカバーして「レッドブルでウォッカ割って 飲んで吐いた女持ち帰って 朝まで楽しむ PARTY PEOPLE」と歌ってる。

大谷 つまりはパーティーピーポーを批評している歌なんです。ところがライブではこの歌で普通に盛り上がる。批評性と快楽性の二重の構造を持っているんです。

柴 なるほど。

大谷 笑いもそうだけど、ツッコミがありつつ、作り手のワクワクしている感じが反映しているものに「あ、おもしろそう」って人が寄ってくると思うんですよ。ヤバTはそれを体現してるなと思った。

 キュウソネコカミもそうだし、関西のバンドって、バカバカしいことを思いついたらそれをそのまま曲に乗せて歌ってる感じがありますよね。

大谷 それって、ノベルティ感というか、企画性があるってことなんですよ。逆に東京の人たちは音楽に対して純度が高い感じがする。そこが違う気がするな。

 なるほどね。冒頭に話しましたけど、僕が思うのは、ヤバTとか岡崎体育のセンスって「母性」だと思うんですよ。そこが関西っぽい。

大谷 どういうことですか?

 つまり、関西のツッコミって、ダメなところとか「あるある」とかを全部拾ってあげる優しさだと思うんです。岡崎体育の「MUSIC VIDEO」はわかりやすいですよね。MVでやりがちな演出を全部ネタばらししつつ、それをディスるんじゃなくて、サビは「1億人に届けMUSIC VIDEO」ってすごく優しいメッセージになってる。ヤバTの「喜志駅周辺なんもない」も喜志駅の田舎っぷりに愛を持ってツッコミをいれている。

大谷 なるほど。

柴 「しょうもなさ」を受け入れるのって、すごく母性的だと思うんですよ。岡崎体育とかヤバTが人気なのは、それをちゃんとエンタメにしているからというのもあると思いますね。

芸人じゃなくてミュージシャンになるおもしろい人達

大谷 僕としてはこういう人たちが今、吉本に行かねえんだなって、どうしても考えちゃいますよね。

 たしかにね。言ってしまえば、彼らは音楽や映像でお笑いをやっているわけですもんね。

大谷 だからガリガリガリクソンとかは悔しいと思いますよ。彼にはできてたことだから。周りがサポートして、岡崎体育とヤバTみたいに一緒に共闘する人がいて、タイミングさえあえば絶対ヒットしてましたもん。

 ですよね。そういう意味では、吉本が何年もかけて作ってきた文化の土壌を、今の若者たちが音楽や映像で体現してきているとも言える。

大谷 それで結果的にお客さんが笑って楽しんでいる。そうなると芸人はしんどいですよ。

 あー、そうなんでしょうね。

大谷 だって芸人が同じことをやってもイタいって思われるだけですから。芸人のくせに何やってんだって。もっと広い解釈でいうと、子供の将来の夢にYouTuberがランクインしたのも一緒だと思います。今の時代、おもしろいことやりたいんだったら、芸人になるよりも動画を作ってYouTubeにあげればいいんですもん。

 岡崎体育はそれをやれたと。

大谷 でも、木嶋佳苗も、岡崎体育とかヤバTのライブやPVを見ればハマると思うけどなー。

 そっちのほうがほっこりしますね(笑)。

構成:田中うた乃

この連載について

初回を読む
心のベストテン

大谷ノブ彦 / 柴那典

「音楽についてパァッと明るく語りたい! なぜなら、いい音楽であふれているから!」。ハートのランキングを急上昇しているナンバーについて、熱く語らう音楽放談が始まりました。
DJは、音楽を愛し音楽に救われてきた芸人、ダイノジ・...もっと読む

この連載の人気記事

関連記事

関連キーワード

コメント

hase0831 “東は「排他性」、西は「母性」ってキーワードで語れるんじゃないかなって。” 19分前 replyretweetfavorite

shiba710 対談連載「 23分前 replyretweetfavorite

mgmg8kpa9 「拘置所がまさか「東京 Friday night」だったとはね(笑)。」: 27分前 replyretweetfavorite