2016年7月7日05時00分
「待機児童」の数を政府が発表し、対策を始めたのは1995年。それから21年、問題は解消されないままだ。幼児や児童は一体いつまで待機させられるのか。なぜ誰も本腰を入れないのか。
■必死なのに何も変わらず 大堀恵さん(タレント、元AKB48)
2歳の娘がいます。この1年半、保育園を探していますが、全く空きがありません。
よく「社会全体で子育てしよう」って言いますよね。でも、やっぱり周囲に迷惑はかけられない。私と夫で子育てしなきゃ、っていうプレッシャーがあります。うちは子ども1人なので、余計にそう。
仕事もしたいと思っています。脚本家の夫は、娘の面倒をみてくれますが、調整がつかないときもあります。娘を見る人を探さなきゃいけないときがある。とても焦るし、すごく孤独です。
初めて区役所に保育園の相談に行ったのは娘が生まれた年の秋でした。そこで保育園に入れる見通しが立たない、という現実を突きつけられました。がっくりしました。
保育園に入る優先度は、仕事の忙しさなどを加味した「ポイント」で測られます。仕事を増やすために預けたいのですが、現状の仕事が少ないとポイントも少なく、保育園に入れません。預けられないから仕事が増えず、やっぱりポイントが低い。悪循環です。かすかな望みをかけて書類は出していますが、娘は今も待機中です。
出産後、AKB48の同期が出ているテレビを見るのは、少し複雑でした。応援するんですが、自分は育児にかかりきりで気がつくとお風呂に2日も入れていない。髪はボサボサ、ご飯はのみ込むように急いで食べてる。このままでいいのかなって。ステージにいたときとの落差がもどかしく悔しくもありました。
生後4カ月くらいで育児に余裕が出てきたときにちょうど仕事の話をいただいて、復帰しました。この春から、昼過ぎまで預かってくれる英語教室に娘を週2回通わせています。その間に、週1回のペースで仕事をしています。
去年、AKB48の歌を歌う仕事がありました。AKBは私の青春。ステージに戻れるのはすごく大切です。でも娘の預け先がない。初めて妹に頼みました。妹も仕事をしていますが、夕方から預かって寝かしつけてくれた。帰宅し、「本当にありがとう。あなたのおかげで仕事ができた」って泣いてしまいました。
でも、いやいや期の娘を残し、背中を見せて仕事に行くとき、「私は正しいのかな」っていう葛藤があります。「娘と仕事、どっちを取るんだ」と言われたら娘です。
「保育園落ちた日本死ね!!!」ブログは、洗濯物を整理していたとき、夕方のニュースで見ました。衝撃でした。言葉遣いはよくなかったけど、「そうそう」と、いちいちうなずいてしまっていました。みんな必死なんです。
政府も対策をとってくれていると思いますが、私の状況はまだ何も変わらない。少しでも良くなってくれたら、と願う毎日です。(聞き手・村上研志)
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おおほりめぐみ 83年生まれ。2006年AKB48入り。09年に著書「最下層アイドル。」。13年結婚。バラエティー番組などに出演。
■政治の高齢者重視の果て 萱野稔人さん(津田塾大学教授)
保育所が足りない、待機児童がいなくならない――。その問題が20年以上も解決されないのはなぜなのか。答えは簡単です。政治力がある高齢者の方に予算が流れていっていて、政治力がない子育て世代には予算が流れてこない。ただそれだけのことです。
今年度の国の予算は100兆円弱ですが、歳入の3分の1以上が借金です。政策にかかるお金が税収でまかなえません。制約が非常に厳しいなかで、新たな政策のお金をどう捻出するのか。増税も、新たな借金も現実的でないとしたら、どこかを削って付け替えるしかありません。
予算が健全に増える時代であれば、増えた分の配分を政府に要求すればよかった。しかし、いまや誰かの分を引きはがしてもらわなければならない。つまり、問題は、「政府 対 国民」ではなく、政府を媒介にした「国民 対 国民」という構図です。それぞれの利益のために予算のぶんどり合戦をしなければならなくなったのです。
シビアで、リアルな政治闘争です。そのことを如実に浮き彫りにする動きがここ半年ほどの間にありました。
1月、低所得の高齢者に1人3万円を給付する補正予算が成立しました。約3600億円という額は、保育士の給与を全産業並みにするために月10万円引き上げるのに必要な年間予算とほぼ同額です。
保育所を増やすためには保育士のなり手を掘り起こすことも重要で、カギは待遇改善であることは、安倍首相はじめ各党が指摘しています。ならば参院選の公約で、すぐに月10万円の引き上げをうたうかと思えば、各党の公約はそこまで至っていません。
この差は何なのか。高齢者ら選挙で票になる方に手厚く、子育て世代は置き去りなのです。
高齢層になりつつある団塊世代などは有権者の母数が多い。それだけでなく、投票率も高い。だから圧倒的な政治的影響力を持つのです。
子育て世代は、高齢者向け予算を少し削ってほしいと訴える資格があると思います。しかし、既得権を奪う闘争に勝つには、相当な厳しさ、団結力が必要でしょう。
政治への影響力が大きいからと言って、高齢者自身が何か責めを負うようなことではありません。誰しも自分の利益になるように行動するのは当たり前です。その調整が必要で、政治家がしなければならないことです。ただ今、政治家はその調整役を果たしていません。
子育て世代はどうしたらよいのか。まず声を上げる。そしてシビアな政治闘争を行ううえで、最も重要な手段の一つが選挙です。限りあるリソースを将来世代のために使うには、選挙を通じた政治力の行使が必要なのです。(聞き手・村上研志)
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かやのとしひと 70年生まれ。専門は哲学、社会理論。著書に「暴力と富と資本主義」「国家とは何か」など。
■男性に他人事という意識 田中俊之さん(武蔵大学助教)
待機児童問題がいっこうに解決しない背景にあるのは、「育児は女性の役割」という男性の側の根強い意識だと思います。男性が自分たちの問題と捉えていないから、社会全体に共感が広がらない。解決に向けた機運が高まらないのです。その根っこには男性の働き方の問題があります。
北海道の山で小学生の男の子が親に置き去りにされ、行方不明になった事件がありました。記者会見したのは父親で、母親は表に出ませんでした。逆だったら「父親は何をしている」と非難されたでしょう。日本では、家庭を巡る重要な局面では父親が出てこなければならないのです。
対照的に育児は、男が関わるものではないという意識がまだ強い。「保育園落ちた日本死ね!!!」ブログを機に批判が高まった際も、「保育所が足りない」と表に出て訴えていたのは圧倒的に女性でした。男性たちは今でも「外で一生懸命働けば責任を果たしている」という認識です。
意識の問題だけではありません。共働き家庭で育児や家事、介護の負担が重くなるとほとんどの場合、妻が仕事をやめます。夫の方が給料が高いケースが多いからです。
イクメンという言葉が使われるようになって10年弱でしょう。当初は「男性も育児に関わる」と問題提起し、意識を高める効果がありました。
しかし現実は簡単ではありません。日本では1日8時間週40時間労働は「最低限の基準」とされ、残業は当たり前。長時間労働に加え家事も育児もこなすのは男性にすごいプレッシャーになります。肉体的にも精神的にも、そんな超人は限られています。
社員同士の競争が激しい30代、40代で育休をとれば、出世レースから外される。夫は育休をとらず、育児は妻に押しつけられます。働く仕組みを変えないと、男性の育児への意識は変化しません。
男女にかかわらず働き方を状況に応じて柔軟に変えることができる制度が必要です。子育て時にはフルタイムの働き方を緩め、子育てを終えればフルに戻れる――そういった働き方を導入すべきです。
安倍政権は、三世代同居を進めて子育てや介護を家庭に任せようとしています。でも都会で働く地方出身者にはできません。規制緩和や保育士のわずかな給料アップなど小手先の対策だけでは待機児童問題は解決しません。働き方を含めて社会を、男性の意識を、どう変えるのかという根本的な戦略が求められます。
私の場合、子どもが今年1月に生まれ、会社員の妻は育児休業中です。来年4月には妻が仕事に復帰するので、子どもを保育園に預けたい。でも調べると、周囲には待機児童が少なくなく、不安です。男性も声を上げていくことの重要性を感じています。(聞き手・桜井泉)
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たなかとしゆき 75年生まれ。男性が抱える葛藤を研究する男性学専攻。著書に「男が働かない、いいじゃないか!」など。
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