「風呂は命の洗濯よ」は新世紀エヴァンゲリオンの葛城ミサトの台詞。
確かに、洗濯後の服のシワシワと、お風呂に入ったときの皮膚のシワシワは似ているような気がします(そうじゃないとは思いますが)。
この物語は、全7編のオムニバス。もちろん全編お風呂に入ります。が、どなたも単純な「お風呂に入って綺麗さっぱりすっきり!人生変わった!」というありきたりな感じはほとんどありません。その理由は、あらすじを観ていただければなんとなく分かります。
”おとうさん”の体に別れを告げる前に、息子と入る最後のおふろ。
妙齢女性の叶うことのなかった温泉旅行。
姉妹の入浴の切ない記憶。
かつての恋人と逢引する母、
それを追う娘カップルが過ごすラブホ風呂。
働く男が仕事を抜け出し逃げ込むスーパー銭湯。
(単行本 裏表紙より引用)
ひねり過ぎじゃないのかという位、一筋縄で行かないお話ばかりです。普通の作家の方でしたら、このままちぎれてしまいそうなところを見事に編み上げたのは、渡辺ペコ先生。『にこたま』にて、交際9年同棲5年目で彼氏から職場の上司と浮気して子供が出来たとカミングアウトされるという、ヘビー級王者を遥かにしのぐ右ストレートで多くのアラサーをノックダウンにした手腕は健在で、今回も赤裸裸で生々しいエピソードが沢山描かれています。
注目したいのは、どの話も、お風呂に入っているのは話の一部でしかないということです。考えてみれば当たり前で、入浴は1日の中の一部でしかありません。つまりお風呂は非日常。上がったら服を着て、日常に戻ります。キャラクター達は、入る前と入った後で、特に何か大きな決断を自らしているわけではない。性転換手術は前から決まっていたことですし、小説家との取材旅行でのできごとは仕事の延長線上の事故です。(最終話を見る限り、少しだけ優しくなるかもはしれませんが)。それはつまり、彼らにとってはお風呂で洗い流せない一種の汚れが日常で、それこそが生きていく上で切り離せない大事なものだという証なのでしょう。
風呂上がりの彼らは皆、いい表情をしています。
ずっとお風呂に入っていると、のぼせちゃいますしね。
お風呂がテーマのはずなのに、お風呂だけでなく、お風呂以外の日常も少し好きになる作品。
オススメです。
筧 将英のレビューはこちら。
大切な人が亡くなったときに、あなたはどう折り合いをつけますか?『昨夜のカレー、明日のパン』
会員登録いただくと、記事へのコメントを投稿できます。
Twitter、Facebookにも同時に投稿できます。
※ 2014年3月26日以前にHONZ会員へご登録いただいた方も、パスワード登録などがお済みでない方は会員登録(再登録)をお願いします。