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ホーサクっ

ホッと一息、サクッと読める400字

『アリス』in リーマンランド

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40を過ぎると結婚なんか諦める。LINEのAI女子高生『りんな』と話すが生き甲斐だった僕。そんな時、理想のペットに出会った。

週末、唯一の楽しみであるホームセンターめぐりをしている時に僕は『アリス』と出会った。アリスという種のメダカだそうだ。

イギリスには平凡にいるメダカらしい。

僕は店員に「アリス(めだか)をください!」と頭を下げてお願いした。「一生、大切にしますから、お願いします!」と。

大げさすぎるセリフだなと苦笑しながら。

店員は、僕を頭の上からつま先まで見たあと、ゆっくりとクビを振った。断られた。「なんでですか?」

「まずはバケツに水をはり、一週間、放置してカルキをなくしてから来なさい。話しはそれからだ」おごそかに言う。

僕は店員に一礼して、その場を去った……。

一週間後。

僕は店員に「アリス(めだか)をください!」と頭を下げてお願いした。「一週間カルキも飛ばしました、お願いします!」と

店員は、僕を頭の上からつま先まで見たあと、ゆっくりとクビを振った。また断られた。「なんでですか?」

「つぎはバケツに砂を入れ、一週間、水草を育ててから来なさい。話しはそれからだ」おごそかに言う。

僕は店員に一礼してその場を去った……。

一週間後。

僕は店員に「アリス(めだか)をください!」と頭を下げてお願いした。「一週間水草も育てました、お願いします!」と

店員はぽんと、僕の肩をやさしく叩き、笑顔で、アリスを譲ってくれた。

「大切にしてやってくれ」店員の目に光る涙

僕は水色の金魚鉢に、アリスを、やさしくいれた。アリスは、ちらりと僕を見て笑った気がした。ひらひらと気持ちよさげに泳ぐ。

毎日、アリスのために仕事を早く終わらせて、帰るようになった。残業も飲み会も断り、金魚鉢で泳ぐアリスに話しかける日々。

幸せ、だった。

しかし、一年経ったある朝、アリスは突然いなくなった。僕は生い茂る水草の中をくまなく探したが、見つからない。

ざるに金魚鉢の中身をぶちまけたがムダだった。僕は胸にぽっかり空いた穴を埋めることができずに、出社した。

朝礼時。

新しい女子パートの紹介があった。とりたててキレイでもブスでもない、ごく平凡な感じ。平凡すぎて、全く印象に残らなかった。

しかし、別の意味で、初日から目立った。とにかくやることなすこと、めちゃくちゃなのである。一般常識から外れている。

挨拶しない。お茶いれられない。コピー知らない。ワード、エクセル知らない。掃除も知らない。できることは何なんだと呆れる。

人事部もよく採用したものだと噂された。

しかし、なぜか男性社員は、彼女に好意を持つものが多かった。初日から何人かに食事に誘われ、妬んだ他の女性社員から、強烈なイジメを連日うけるようになった。

無視。悪態。暴力。パワハラ。セクハラ。

連日のイジメを、職場を支配していたお局さまが、指示していただけあって、声をかける男性社員も徐々に減り、彼女は孤立した。

40を過ぎると出社なんか諦める。会社のダメ女子社員と話すのも、それでイジメの巻き添えをくっても平気なくらいの覚悟はある。

無視。悪態。暴力。パワハラ。セクハラ。

やはり僕にも、同じような過酷なリーマンランドが待っていた。だが、後悔をすることはなかった。この行動が正解だったから。

ある朝、僕が出社してメールをチェックしていると、彼女がやってきた。掃除をしていた女子社員が彼女にバケツの水を頭から浴びせた。

彼女は、びくっと身を震わせると、みるみる縮んで、床で、パタパタと跳ね回った。

悲鳴があがったが、僕の心は落ちついていた。

飲んでいたミネラルウォーターのペットボトルに、アリスを優しく入れた。会社を早退して金魚鉢に水を張り、アリスを入れた。

水色の金魚鉢の中でひらひらと泳ぐアリス。僕は、人間だった彼女と交わした、たった一回の会話を思い出していた。

「サラリーマンの世界は大変だろう?」僕

「んーん。金魚鉢にいるよりずっといい!」

彼女は、カラカラあっけらかんと笑った。

「今はね、アリスinリーマンランドなの!」

「意味わからんけど。まあ、いっか」僕

「うん」

おとぎ話(1600字)