女性が多い会社は業績が良い? その裏の不都合な真実
日経ウーマンオンライン
2016年4月に女性活躍推進法が施行され、女性採用に積極的な企業がさらにフォーカスされています。私が普段接している資本市場の世界でも、女性活躍を推進する動きが出ています。
2016年4月に女性活躍推進法が施行され、女性採用に積極的な企業がさらにフォーカスされています。私が普段接している資本市場の世界でも、女性活躍を推進する動きが出ています。経済産業省と東京証券取引所が、女性活躍推進に積極的である優良上場企業を「なでしこ銘柄」として選定し、発表する活動を行っています。
ほかにも、女性活躍を推進するだけでなく、女性管理職・役員比率が高い企業ほど、業績や株価が良いといったレポートや報道も散見されるようになりました。例えば、女性役員が一人もいない企業とそうでない企業では、後者の企業業績が良いという報告が多数されています。
でも、こうした報告の多くは、業績が良い企業ほど女性活躍推進を進めているのか、女性活躍推進を進めているから業績が良いのか、という因果関係は明確にはしていません。
今回は、そうした因果関係について、経済学の視点からの研究を紹介していきます。
■その因果関係を探るのが意外と難しい
実は、アカデミックの世界では、女性活躍推進と企業業績の関係については、明確な理論は確立されていません。しかし、女性活躍推進によって企業にどのような影響があるか、その波及経路を明確にしようと試みた研究は多数されています。
仮に、女性活躍を推進している企業ほど業績が良かったとしても、その時代だから成立しただけかもしれません。さらには、女性を多く採用しがちな業種は、相対的に利益率が良い企業が集まっているだけかもしれません。例えば、上場企業に限っていえば、IT(情報技術)企業と製造業では、平均的には前者の利益率が圧倒的に高い傾向にあります。また、IT企業は創業年数の浅い企業が多いからなのか、女性採用に抵抗のない企業も多いようです。
女性活躍推進と企業業績の因果関係を考えるには、時代・業種・創業年数・企業規模……女性採用に影響がありうる要因を考慮しないと、この謎を解くことはできないのです。
■そもそも女性活躍と企業業績に明確な関係はあるのか?
世界中で、上記のような要因を考慮した女性活躍推進と企業業績に関する研究が行われてきました。この結果を見ると、国によっては女性管理職や取締役の人数と業績が比例する傾向が確認されています。しかし、逆に女性登用に積極的な企業ほど、業績がパッとしないケースが多いとの報告もあります。
そのほかには、コーポレートガバナンス(企業統治)のレベルが低い企業だと、女性取締役の人数と業績が比例するという報告がされています女性推進によって、必ずしもすべての企業に明確な業績改善がみられるわけではないようですね。
では、肝心の日本ではどんな傾向でしょうか。
2000年代前半の約5000社の日本企業を対象にした論文を見ると、時代・業種・企業規模……といった女性活躍推進と関係しうる要因を一定としても、特定の業種においては女性管理職の多さと企業業績の良さは強く比例する関係が報告されています。じゃあ、なぜ良いのか? この波及経路をさらに探ってみると…。
■因果関係に大きく影響しているのは「人件費削減」だった
女性管理職は、男性管理職に比べて賃金が安い傾向にあり、その「人件費削減効果」(!)が企業業績に良い効果をもたらしている可能性が示されているのです(※出典元:RIETI Discussion Paper Series 11-J-073 「日本の労働市場における男女格差と企業業績」)。
でも、こんな声も聞こえてきそうです。女性は男性に比べて高学歴者が少ないことや、女性はライフサイクルが複雑なので勤続年数が男性より短い傾向にあるから、平均的に女性管理職の方が男性管理職より賃金が低いだけでしょ、と。
しかし、こうした要因を経済学の統計的手法を用いて取り除いても、女性管理職による人件費削減効果による企業業績への影響が確認されているんですね。
アメリカの中央銀行の前々議長アラン・グリーンスパン氏は、議長になる前はコンサルティング会社を経営していました。彼の会社は、ほとんどが女性社員だったようです。なぜかと聞かれた彼は、「女性は能力に関係なく、賃金が安く採用される傾向にあるからさ」と答えたとか……(※参照元:『意外と会社は合理的 組織にはびこる理不尽のメカニズム』レイ・フィスマン、ティム・サリバン著、日本経済新聞出版社)。
私は、女性を積極採用する会社のすべてが、人件費を低く抑えたいと考えているとは思っていません。ただ、背景にそういった狙いがないのか、働く女性として自分は安く見積もられていないか、これからのキャリアを考える上でも、折に触れて再考する冷静さを失わずにいたいものです。
[参考]
RIETI Discussion Paper Series 11-J-073「日本の労働市場における男女格差と企業業績」
http://www.rieti.go.jp/jp/publications/dp/11j073.pdf
崔真淑(さい・ますみ)
マクロエコノミスト。Good News and Companies代表。昭和女子大学現代ビジネス研究所研究員。化粧品会社エイボン・プロダクツ社外取締役。1983年生まれ。神戸大学経済学部、一橋大学大学院(ICS)卒業。大和証券SMBC金融証券研究所(現:大和証券)では株式アナリストとして活動し、最年少女性アナリストとして株式解説者に抜擢される。2012年に独立。経済学を軸にニュース・資本市場解説をメディアや大学などで行う。若年層の経済・金融リテラシー向上をミッションに掲げる。
[nikkei WOMAN Online 2016年6月8日付記事を再構成]
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