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是枝裕和・森達也対談 映画で表現された「怒り」と「悲しみ」

 7月5日(火)13時10分配信

佐村河内さんの奥さんを撮りたいと思った

是枝裕和監督の『海よりもまだ深く』と森達也監督の『FAKE』『A2完全版』が公開され大きな反響を呼んでいる。これから広島原爆をテーマにした是枝さんの『いしぶみ』も公開される。いま最も話題の2人の映画監督の対談を月刊『創』7月号から転載したい。対談の収録は2016年5月に行われ、『FAKE』『いしぶみ』の橋本佳子プロデューサー、『創』篠田博之編集長も議論に加わっている。(編集部)

森 『FAKE』については取材がすごく多いんです。『A』『A2』の時にも多少あったけれど、これほどではなかったと感じています。作品を発表した以上、言葉で補足や解説はしたくない。だから基本的にインタビューは受けたくないので断ってくれと配給会社に言っていたのだけど、今はどんどんなし崩しになってしまっています。まあ受けないことにはパブリシティが出ないので、悩ましいけれど仕方がない。
 ただやっぱり訊かれる質問はほぼ同じだし、訊く方もちょっと困っているのがよくわかる。是枝さんの場合は、今回は作品がほぼ同時期に2本発表ですね。今回に限ったことではないけれど、一番多く訊かれる質問って何ですか?
是枝 この作品を通して伝えたいメッセージは何ですかと訊かれて困ることがありますね。
森 何と答えていますか?
是枝 優れた映画というのはたぶん、監督が意識してないものも、たとえば役者の肉体を通して表現されていたりするものなので、監督が「この作品を通して伝えたいメッセージはこうです」と言ってしまうことは、僕が意識していない部分の解釈を排除してしまう。そこは見る人が受け取ればいいんじゃないかなって。作品は、決して作り手と受け手がメッセージをやりとりする箱ではないので……と説明したんですけど、たぶん分かってもらえない(笑)。
森 以前、想田和弘さんから、「僕はそういう質問に対しては、あなたはどう感じましたか?と訊き返すことにしています」と言われました。それで相手が「私はこう感じました」と答えれば、「はい、それでいいです」って言えばいいって(笑)。
是枝 森さんはどんなふうに答えているんですか?
森 気分によって変わってしまう。この間もテーマについて説明を求められたので、究極の純愛映画ですって答えました。
 最初に佐村河内守さんに「映画の被写体になってほしい」と言ったとき、彼だけではなく、奥さんを撮るということも条件でした。お願いしながら条件付けるってありえないと思われたかもしれないけれど。
 かつて放送されたテレビ番組には、奥さんがチラチラ映っている。ところが彼女の存在については、なぜかすべて、全く言及せずに全部切り捨てている。まあ彼女が言及されることを嫌がったからかもしれないけれど、もしダメならこの撮影はあきらめようと思っていました。
篠田 撮影に入る頃には、彼女は撮られることに納得していた?
森 『FAKE』のファーストシーンは、カメラをテーブルの上に置いて、僕と佐村河内さんが対面して話すカットで始まります。あの段階ではOKが取れていなくて、奥さんは映せなかった。でも自分としては、絶対に撮れると勝算はあったけれど。
是枝 森さんは最初の方で「佐村河内さんの怒りではなく悲しみを撮りたい」と話していますが、佐村河内さんには、新垣隆さんなりメディアに対して怒りをぶつけたいという気持ちがあったのかな?
森 あったと思います。彼が映画に出るモチベーションとしては、世間の思い込みへの反論と同時に、二人にシンボライズされるメディアを許せないとの気持ちがあったはずです。つまり怒り。
 でも特定の方向に向かうだけの怒りでは普遍性を獲得できない。悲しみなら多くの人が共有できる。そう考えました。
 そのときは「佐村河内さんの名誉を回復するつもりは全然ないから」とも言いました。「あなたを僕の映画で利用したいと思うけど、それでも良ければ出て下さい」と。……そして「嫌です」と言われたんだけど。

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最終更新:7月5日(火)17時35分

創

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