バングラデシュでは2年前からイスラム過激主義が台頭し、世俗主義の作家や無神論者のブロガー、同性愛者の権利活動家、外国人駐在員が殺害されている。しかし、外交官や外国の衣料品業界の企業幹部、援助活動家などが集まる首都ダッカのレストランに対する襲撃は、暴力の劇的な高まりを示すものであり、バングラ政府と同盟諸国は現実としての脅威の高まりに目を見開かなければならない。
1日の襲撃事件で外国人を大半とする死者22人が出たことは、繊維産業との取引でバングラに足を運ぶ外国のバイヤーをおじけづかせるメッセージだ。バングラの繊維産業は260億ドル規模に栄え、何百万もの人々を貧困から救い上げてきた経済基盤だ。先週の襲撃はこれまでよりも高度で残虐性が強く、12時間の立て籠もり中に過激派組織「イスラム国」(IS)がインターネット上に画像を掲出し、犯行声明を出した。バングラ政府は否定しているが、この事実は、ISが先鋭化するバングラ国内の過激派勢力に対する影響力の獲得に狙いを定めていることの強力な証拠であるように映る。
■他国の政治的内紛を利用
先週の事件はまた、海外のイスラム過激派勢力が世界的な計略を進める上で、他国の政治的内紛をますます効果的に利用するようになっていることも改めて思い起こさせる。バングラの場合は、世界有数のイスラム人口を持つ国が強権化に傾斜している。
バングラデシュは2005年、国内63県で同時発生した爆破テロ事件後の対テロ戦略で米国とインドの称賛を得た。その同時爆破テロで奇跡的にも死者が2人にとどまったことは、国内育ちの過激派勢力の爆弾製造技術がまだ未熟であることを示唆していた。しかし、テロリストらは国内全域に広がるネットワークを操る能力を示した。バングラ政府の対応は実際に厳しく、当初は効果を生んでいた。しかしながら安全保障専門家らは、与党・アワミ連盟を率いるハシナ首相が政敵の排除に執着してイスラム過激派から目を離していたという見方で一致している。
バングラデシュでは軍政から移行した1990年以降、対立する二大政治王朝の当主、アワミ連盟のハシナ氏とバングラデシュ民族主義党のジア氏が牛耳る機能不全の民主制が続いてきた。「戦うベーグム(イスラムの高位の女性)」として知られる強大な2人の歴史的な敵対関係が政治に染み入り、時として政治的暴力の一般的な広がりの一因となっている。
優位な立場で絶対的な支配権を握ろうとするハシナ氏は、混乱期に中立の調停者となってきた軍部を抱き込み、警察と司法の独立を侵し、活力のあった市民社会を黙らせようとしている。さらにハシナ政権は、国外のイスラム過激派勢力の関与が拡大していることを一貫して否定する一方で、このところのイスラム過激派の攻撃を政敵の逮捕や脅しの口実に使っている。ハシナ氏はバングラデシュを事実上の一党独裁国に転換した。
最も包括的な治安措置を取ったとしても、テロ攻撃からの安全を保証できる国はない。しかしながら、残虐行為を未然に防ぐには、情報機関が確たる証拠に基づいて手掛かりを追える自由な態勢が必要だ。バングラデシュの場合、治安部隊は国に対する脅威よりも首相の政治的支配に対する脅威に的を合わせている。これに対してインドも、うわべは世俗主義のアワミ連盟のほうがリスクは小さいとの誤った考え方で同調している。1日の惨劇は、より効果的で政治色の薄いアプローチが緊急に必要であることを示している。
(2016年7月5日付 英フィナンシャル・タイムズ)
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