6月27日日経電子版の連載で、池上彰がこう語っていた。
そもそも経済学とは「経世済民」という言葉が語源です。「経世」とは世を治める。「済民」とは民を救うという意味です。明治時代のはじめ、海外から伝わってきた経済学を表す用語「エコノミクス」を訳す際に、この言葉をあてました。
経済とは本来、世を治めて民を救うという意味のあて言葉である。経済学は、マルクス経済学がソ連の崩壊で衰退し、ミクロ経済学、マクロ経済学が発展してきた。そして今、人間の不合理な行動や心理を様々な角度から研究する「行動経済学」が新分野として注目されている。
今日はそんな「行動経済学」の第一人者、ダン・アリエリーの新刊を紹介する。
《目次》
知らない方が幸せ?
私がしばらく前にジーナ・フロストとマイク・ノートンと行った研究では、デート相手に関していえば、相手のことを知れば知るほど、恋愛感情は高まるどころかむしろ薄れるという結果が出た。
つまり、相手のことをほとんど知らないとき、私たちは想像を働かせて楽観的すぎる方法で情報の欠落を埋める傾向があるということだ。
研究がされているのかは分からないが、これって「見た目が9割 」みたいなファーストインプレッション重視の考え方と似ている。はじめに「この人はいいな、好きだな」と思ってもらうことが何より重要で、好印象を最初に与えられさえすれば、あとは勝手に相手の脳内で良いほうに良いほうに情報を補ってくれる。
ダン・アリエリーによると、外から招かれたCEOは、生え抜きのCEOに比べて高い報酬を得るが、実績はむしろ低いことを示す証拠がいくつもあがっている。CEOだけじゃなく、部課長レベルの転職でも同じことが言えそうだ。まあ、結局は後で真の実力がバレていくわけなので、これを悪用して高収入を得ようというのはやめた方が良いだろう。
本心じゃないと分かっていても嬉しい
ある興味深い研究によると、人はほめ言葉をいわれるのが大好きで(それは当然だ)、ほめ言葉をいってくれる人に好感をもち(ちょっとおもしろい結果だね)、ほめ言葉が本心でないことを知っていても好意を抱くらしい(これが一番意外で興味深い発見だ)。
人をほめることは良いことだ。ほめる時には、よく相手を観察して具体的にほめた方が良い。「そんなこと分かっている」って人がほとんどではないだろうか?
じゃあ、なぜ毎日コンスタントに人をほめ続けることができないのだろうか?それは、ほめることが自分に還ってくる相手からの印象にどれほど影響するのかを知らないからだ。スポーツでも、大会で勝てる可能性が増すから練習する。ビジネスでも、売り上げがあがるだろうから営業する。人は結果につながることが期待できて、はじめて行動する。
そういう意味では、ほめ言葉に対する印象の研究は知っておいて損はない。ほめ言葉は本心じゃないと知っていても好意を抱くという結果なのだから、「調子いいヤツだな」と思われる心配などせずに、人をほめまくればいいのだ。
なぜ男はハイヒールが好き?
今更だが、この本は一般の人からの質問にダンが答えるという一問一答形式で構成されている。なかでも面白い質問と答えがこれ。
どうして男性はハイヒールを履いた女性に惹かれるの?
普通に考えれば、脚が長くみえて、全体もスラッとしてみえるのでセクシーな印象を持つからだろう。ダンも同じことをまず書いているのだが、進化にまつわる説も紹介している。
男性がハイヒールに惹かれるのは、それを履いている女性は逃げにくいと、無意識に思っているかららしい。
人間の行動や心理を考える上で、行動経済学者はヒトの成り立ちである進化に戻るという視点も大事にしているのだろう。進化論からくる説は、これに限らずもっともらしいものが多い。だからこそ懐疑的な視点も必要だが。
相手の立場で考えるって、こういうこと
旅行の惨めさは、私たちがみな同じ人間だという証拠と考えるんだ。私の経験からいうと、空港警備員と航空会社の社員は、世界中どこでも判で押したように無礼で思いやりがない。このことから、人は似たような状況に置かれると(この場合でいうと、大変でつらく感謝されないサービスの仕事をさせられると)、多かれ少なかれ似たような行動をとることがわかる。
被験者を監守と囚人の2つのグループに分けて観察した、スタンフォードでの有名な心理学の研究がある。結果、自分たちはロールプレイをしているだけだと理解しているにも関わらず、監守役は高慢に、囚人役は卑屈になり、ついには監守役が囚人役に暴力を加えるようになって研究は強制終了されたというものである。
ダンの例からも分かるように、人は立場で態度が変わり、性格までもが変わってしまったように見える。
ここから何が学べるかというと、ある人にイライラすることがあったら「自分がその職種についていたら、どう思うだろう?」「あの人の立場に置かれたら、どうなるだろう?」とより具体的に考えてみると、怒りも収まることもあるだろうという点だ。相手の立場に立って物事を考えよう、とかよく言うけれども、これは単なる綺麗ごとではなくて実用的なテクニックでもあるということだ。