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来日中のビョークが語る本音「今の時代の変化を歓迎しているの」

来日中のビョークが語る本音「今の時代の変化を歓迎しているの」

『Björk Digital ―音楽のVR・18日間の実験』
インタビュー・テキスト
宇野維正
通訳:伴野由里子 編集:柏井万作
2016/06/28
  • 519

私は、テクノロジーって21世紀の新しい楽器だと思っているのね。そのツールを開発できる立場にいるのなら、それをしない理由はないわ。

―では、その新しい環境の中で、あなたは自分の役割はどこにあると考えているのですか?

ビョーク:点と点をつなぐこと。それが私の役割だと思っている。世界中に星のように点在している才能や技術をつなぎ合わせて、星座のように大きな絵を浮かび上がらせる。私はそういうことに長けていると思うし、それってすごく女性的な表現のやり方だと思うのね。自分のエネルギーをそこに注ぐことによって、新しい絵が、新しい流れが生まれる。その流れをまとめ上げたものが、今の私にとっての作品なの。

『Vulnicura』収録“notget”のVR映像より(REWIND VR)
『Vulnicura』収録“notget”のVR映像より(REWIND VR)

ビョーク:例えば、『Biophilia』ではアプリ会社と新しいアプリの開発をしながら作品を作っていったし、『Vulnicura』ではVRの研究所と一緒に作品を作っている。そこでは、私だけじゃなくてみんなでコストやリスクを背負っていて、そこで生まれた収入もみんなで分け合っているの。それって、1990年代の音楽業界にはなかった考え方だし、新しいようで、実は昔からある共同体と同じような考え方でもある。10代の頃、私はアイスランドのパンクシーンにいたけれど、そこでのDIY精神を私はまだ実践しているというわけ(笑)。

Bjork『Vulnicura』ジャケット
Bjork『Vulnicura』ジャケット(Amazonで見る

ビョーク:ありがたいことに、今の私のもとには、テクノロジー系の企業からいろんなアイデアの提案がくるの。それは、他のアーティストでは実現できないことだから私のところにくるのだろうし、そこで何か新しいものが実を結ぶ可能性が高いならば、私はその可能性をどこまでも追求していきたい。なぜなら、それがアーティストとしての自分の成長になるから。

―それは、企業からスポンサードを受けているのとは違うわけですね。

ビョーク:そう。そこは大切なこと。これまで私は世界的な大企業からCMに曲を使わせてほしいとか、ツアーの協賛をしたいとか、本当にたくさん提案を受けてきたけれど、そういうものは全部断ってきた。中には私の表現をちゃんと尊重してくれそうな提案もあったけれど、それは私にとって最初から選択肢にないことだったの。精神はずっとパンクだから(笑)。

でも、テクノロジー系の企業と一緒に仕事をするのはそれとはまったく違っていて。私は、テクノロジーって21世紀の新しい楽器だと思っているのね。今の時代の音楽を形作る上で、それらは必要なツールなの。そのツールを開発できる立場にいるのなら、それをしない理由はないわ。それは、今の10代や20代のミュージシャンにとって新しい道を切り拓くことにもなると思うから。

特に今のヨーロッパの若い子は経済的にとても逼迫しているの。昔とは違って、自分で家やアパートを購入するみたいな将来的なビジョンを持てない子たちがほとんどで。ましてや、音楽で生計を立てるなんて夢のような話になってしまった。日本でもそう?

―そうですね。

ビョーク:でも、とてもラッキーなことに、私は音楽業界にとてもたくさんのお金が回っていた90年代に、膨大なプロモーション費をかけてもらってソロデビューをすることができた。とても素敵なミュージックビデオを作ることもできて、それが世界中に広がって、そのおかげでレイキャビークとブルックリンに2つの家を持つこともできた。私にとって、もうそれだけで十分なの。

さっき使命感はないって言ったけど、そうね、やっぱり私たちのように恵まれた時代を過ごしてきたミュージシャンは、若いミュージシャンのために新しい方法論を提示していく責任はあるかもしれない。それに、最近一緒に音楽を作っているArcaのように、世界のいたるところにとても優れた才能を持った若いミュージシャンがいて、それが今の私にとって一番の大きな刺激になっている。

“mouth mantra”のPVより。監督はArcaのアートワークなども手掛けるJesse Kanda
“mouth mantra”のPVより。監督はArcaのアートワークなども手掛けるJesse Kanda

だからこそ、次の世代のミュージシャンのために、先を見通して新しいテクノロジーや新しいプラットフォームを用意しておくことが、私の役割なのかもしれない。もちろん、そこで誰にも魂は売らずにね(笑)。

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イベント情報

『Björk Digital ―音楽のVR・18日間の実験』

2016年6月29日(水)~7月18日(月・祝)
会場:東京都 お台場 日本科学未来館 7階 イノベーションホールほか
時間:10:00~17:00(金~日曜は22:00まで)
休館日:火曜
料金:2,500円
※入場時間指定制、整理番号付

『Björk Digital Opening Party』

2016年6月29日(水)OPEN / START 19:30
会場:東京都 お台場 日本科学未来館
DJ:Bjork
料金:9,000円

『Björk Digital Opening Party』追加公演

2016年6月30日(木)OPEN / START 19:30
会場:東京都 お台場 日本科学未来館
DJ:Bjork
料金:9,000円

リリース情報

Björk『Vulnicura』日本盤
Björk
『Vulnicura』日本盤(CD)

2015年4月1日(水)発売
価格:2,592円(税込)

1. stonemilker
2. lionsong
3. history of touches
4. black lake
5. family
6. notget
7. atom dance (feat. Antony)
8. mouth mantra
9. quicksand

Björk『Vulnicura : the acoustic version - strings, voice and viola organista only』日本盤
Björk
『Vulnicura : the acoustic version - strings, voice and viola organista only』日本盤(CD)

2015年12月23日(水・祝)発売
価格:2,592円(税込)

1. mouth mantra
2. lionsong
3. black lake
4. atom dance
5. stonemilker
6. quicksand
7. notget
8. family
9. mouth mantra(the haxan cloak remix)
10. black lake(bloom remix)
※特殊スリーブケース仕様、解説、歌詞、対訳付

Bjork『Vulnicura Live』日本盤
Bjork
『Vulnicura Live』日本盤(CD)

2016年7月13日(水)発売
価格:2,592円(税込)
SICX-52

1. stonemilker
2. lionsong
3. history of touches
4. black lake
5. family
6. notget
7. undo
8. come to me
9. i see who you are
10. wanderlust
11. quicksand
12. mutual core
13. mouth mantra

プロフィール

Bjork
Bjork(びょーく)

アイスランド出身のシンガー/ソングライター/プロデューサー/女優。1980年代後半より、ザ・シュガーキューブスのヴォーカルとして活躍し、UK、ヨーロッパを中心にブレイク。1993年にファースト・アルバム『デビュー』でソロ・デビューを果たして以来、2千万枚のアルバム・セールスを誇り、その先鋭的かつ多様なサウンドで世界中の音楽ファンの絶大な支持を受けている。これまで8枚のスタジオ・アルバムに加え、映画サウンドトラック、リミックス盤、ライヴ盤など含め、20作品以上をリリース。これまで、トム・ヨーク、ティンバランド、べック、アレキサンダー・マックイーン、スパイク・ジョーンズなど、音楽にとどまらず多岐にわたるジャンルの著名人とのコラボレーション歴も誇る。2000年にはミュージカル映画『ダンサー・イン・ザ・ダーク』に主演し、初出演映画にして、カンヌ国際映画祭<パルムドール>賞と<最優秀女優賞>を獲得。2015年4月にリリースした8作目アルバム『ヴァルニキュラ』は全世界24カ国のiTunesチャートで1位を記録し、第58回グラミー賞で<最優秀オルタナティヴ・アルバム>にノミネート。2015年3月には、自身のソロ・キャリアを衣装や映像の展示と共に振り返る大回顧展をニューヨーク現代美術館(MoMA)にて開催。2016年4月には、『ヴァルニキュラ』の360°VR映像作品の展示プロジェクト『Björk Digital』を開催。

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