2016年6月29日10時38分
実家に住民票を残し、親元を離れて大学などに通う下宿生は投票できるのか。「18歳選挙権」で注目される今回の参院選で、選挙管理委員会の判断が割れている。不在者投票を勧める選管がある一方、窓口で投票を断ったり、選挙人名簿に登録しなかったりした選管もある。
高知県香南(こうなん)市、三原村選管は参院選公示日前日の21日に18~20歳の計106人を選挙人名簿に登録しなかった。大半が外に出た大学生や短大生という。
香南市は新たに選挙権を得た18~20歳に文書を送り、市内に住んでいるか確認。登録しなかったのは「住んでいない」と返信があった95人だ。返信がなかった297人を含む570人はそのまま登録した。
5月末に文書を送った三原村も全25人から回答を得て、17人を登録しなかった(その後、転居から4カ月未満の6人を補正登録)。
公職選挙法では、居住実態のない住民は投票できないと定め、市町村選管には調査の権限がある。総務省はこれまでも国政選挙時などに「適切な調査」を求めているが、どこまで調査するかは選管の判断に委ねられている。複数の県選管によると、人口の少ない自治体では以前から詳しく調査する傾向があるという。
両市村の今回の調査は、18歳選挙権も踏まえて総務省が4月に出した通知をもとに行われた。これまでも定期的に調査してきたが、選挙権年齢の引き下げで、登録されない若者がほぼ倍増したという。香南市の担当者は「法に基づいて調査している」と話す。
北海道では少なくとも10町で新たに有権者となった18~19歳の計283人が名簿に登録されていないことがわかった。総務省選挙課は「生活実態に疑義があれば各選管としては調べる。一方で投票できるかどうかは個別事情を踏まえて判断されている」としている。
■「投票ダメ」の自治体、根拠は1954年の最高裁判例
地元を離れている人が不在者投票で一票を投じることができるかについても、選管の判断が分かれる。愛媛県宇和島市の女性は今月中旬、東京に住む20歳と19歳の子どもに不在者投票をさせようと市役所に出向いたが、断られた。
市選管が根拠とするのが、1954年の最高裁の判例だ。学生寮が住所(生活の本拠)となるかが争われ、「親元を離れて居住する学生の住所は寮または下宿先」と認定された。小島健治係長は「下宿の事実を告げられたら、できないと言わざるを得ない」と話す。
福島県いわき市は、市外に住む下宿学生は投票できないという「お知らせ」を各戸に配布している。担当者は「従来通りの取り扱い」と説明する。
■OKの自治体「少しでも棄権減らしたい」
横浜市は市内の下宿生向けに、住民票を移すよう求める一方、「移していない人は不在者投票を」と呼びかけるリーフレット2万部を市内の27大学で配った。投票用紙を地元の選管に請求すると、最寄りの選管で投票できる、と説く。
市選管の橋本幹雄・選挙課長は「判例が出た60年前とは社会が大きく異なり、個々の生活実態までとても把握できない。少しでも棄権を減らす取り組みをするのが現実的ではないか」と説明する。
静岡県選管も不在者投票が増えると見込み、専用の封筒を前回衆院選より1割増やした。「まず不在者投票をし、その後に住民票を移してほしい」と話す。
〈選挙制度に詳しい岡田信弘・北海学園大法科大学院教授の話〉 選挙権は行使して初めて意味がある。制限するには「やむを得ない理由」が必要だ。地方選挙はコミュニティーの構成員による選挙が前提だが、比例区が全国単位の参院選で生活実態をどこまで厳格に調べる必要があるか、疑問が残る。在外邦人は選挙区に生活の本拠はないが投票できる。それぞれの選管の意向で投票できるかどうかが違うのは不平等で、制度上の不備。若い有権者が住民票を移さなかったことに問題がないわけではないが、不在者投票で一票を行使できるようにするべきだ。
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