「絶滅危惧種」 法改正で劣勢、ベテランに聞く
3月期決算企業の株主総会は29日に集中日を迎える。かつては議事進行に協力したり妨害したりして不当な利益を得る「総会屋」が幅を利かせていたが、法改正や企業の法令順守意識の高まりを背景に、昔の勢いはない。20年以上にわたり総会屋として活動する50代男性が毎日新聞の取材に応じ、存在感が薄れていることを「絶滅危惧種」と表現した。
「寝るな、お前。飲み過ぎか。失礼だろ、株主に対して」。株主総会シーズン真っただ中の22日、大手電機メーカー、東芝(本社・東京都港区)の株主総会で、質問に立ったこの男性は壇上の役員に向かって語気を強めた。昨年明らかになった同社の不正会計問題について「(今後)刑事訴追されることがあるのかないのか」とまくし立てた。社長が回答し、その後の議事は淡々と流れた。
男性は自分の健在ぶりをアピールするために、年に数回は株主総会に出席するという。
男性は広島県出身。1990年代から総会屋として活動してきた。企業への不当な利益要求などで数回の逮捕歴もあり、業界では有名だ。しかし一般の株主の関心は薄くなりつつある。東芝の総会に出席していた個人株主の40代男性は「気になる質問はしていたが、総会屋だとは知らなかった」と話す。
総会屋への企業や警察の対応は、2度の旧商法改正を経て大きく変わった。82年の旧商法改正で、特定の株主に利益供与をした企業側が処罰されるようになり、97年には総会屋らが利益供与を要求するだけで処罰される規定が追加された。
警察幹部は「今の法律では企業が総会屋に金を渡すメリットはない」と断言する。警察庁によると、83年に全国に約1700人いた総会屋は、昨年末現在で約240人にまで減少。男性は「総会に出ても銭にならん。(総会屋に)若いのなんておらん」と苦笑する。
その一方で企業の不祥事は後を絶たない。男性は「総会屋はおらんようになったけど、企業はまじめになったのか」と話す。29日には全国で707社(昨年比309社減)が一斉に株主総会を開催する見通しだ。【黒川晋史、宮崎隆】