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<参院選に言いたい>公文書管理法 記録は国民の財産 長野県短大助教・瀬畑源さんに聞く

瀬畑源さん

 政府の重要な政策決定の記録が、公文書としてきちんと残されていない実態が昨年以降、次々と明らかになった。2011年施行の公文書管理法は今年、5年後の見直し時期に当たるが、政府・与党の動きは鈍い。日本現代史の研究を通じて公文書管理に詳しい瀬畑源・長野県短大助教(40)に課題を聞いた。

     集団的自衛権の行使容認に伴う憲法9条の解釈変更について、内閣法制局は検討過程を公文書に残していなかった。公文書管理法に違反しているのは明らかだ。同法は「公文書は国民共有の知的資源」と定め、政策決定過程を将来にわたって国民が検証できる形で記録を残すよう定めている。しかし、横畠裕介長官は国会で「(内部での検討は)議事録として残す性質のものではない」「(与党協議に)記録係として参加していたわけではない」−−などと答弁している。「法の番人」であるはずの内閣法制局長官の理解度の低さにあぜんとするほかない。

     ただ、公文書をきちんと残さないのは日本の官庁に共通した傾向だ。それは日本人だからというわけではない。江戸時代までは、NHK大河ドラマで注目の真田家をはじめ、多くの大名家が詳細な文書を残している。

     明治時代以降、複雑化した政府組織は大量の文書を生み出したが、管理は省庁任せで、官僚は自分たちに必要な記録しか残さなかった。主に人事と決裁の文書だ。途中経過を記した文書は、用が済めば捨てられた。

     戦後、民主的な憲法は制定されたが、官僚機構は戦前から引き継がれた。そのため、官僚に国民への説明責任という意識が希薄なまま、今に至っている。また、自民党政権は戦後長らく、省庁の情報を独占することで権力を維持してきたため、情報公開に冷淡だった。現政権もその傾向は強く、公文書管理法のずさんな運用を許している。

     きちんとした記録を後世に残すため、文書作成義務の強化▽内閣府公文書管理課の機能・権限の拡充▽特定秘密保護法に基づき特定秘密に指定した情報を明確化する−−など、さまざまな点で法改正が必要だ。

     ただ、究極的には官僚と政治家の意識の問題に行き着く。意識改革には長い時間がかかる。公文書は国民の共有財産であるということを、私たちは言い続けなければならない。【聞き手・日下部聡、写真も】

    政府、見直しに動かず

     公文書管理法は11年4月に施行された。公文書を「主権者である国民が主体的に利用し得るもの」と位置づけ、将来にわたって国民への説明責任を全うすると目的を掲げている。

     しかし昨秋以降、憲法9条の解釈変更を巡る内閣法制局の検討過程▽口利きなどを防ぐための官僚と国会議員の接触記録▽特定秘密保護法に関する内閣官房と会計検査院との協議過程−−など、重要な公文書が作られていないことが毎日新聞の報道で明らかになった。

     こうした問題を受けて民進党は5月、公文書の定義を広げるなどした公文書管理法改正案を通常国会に提出し、継続審議となっている。同法は付則で、施行後5年をめどに見直しをするよう求めており、今年はその年に当たるが、政府側に改正案提出の動きは今のところない。


     ■人物略歴

    せばた・はじめ

     専門は日本現代政治史。天皇制を研究する過程で、公文書管理や情報公開制度にも精通した。著書に「公文書をつかう」など。

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